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人喰い餓狼を追え 4

人喰い餓狼の手掛かりを持つ男、グァド・ボージャンの身柄を抑えるべく彼が滞在するというホテルを目指すクロード。

途中でグァドと人喰い餓狼の暗殺を目的とした第九区画からの刺客を排除しつつ目的地であるホテル前の通りへと急行する。

正面を向くとホテルを挟んで丁度道の反対側、距離にして大体100m程の場所にこちらへ向かって歩いてくる見慣れぬ獣人4人組の姿が目に留まる。

前を歩くのは体格のいい虎の獣人が2人、その後ろに三毛猫とシャム猫の獣人が続く。

一見すると服装は派手さはなく何の変哲もない通行人といった大人しい印象を受けるのだが、一般人というには纏う空気はどこか淀んでおり目つきも鋭い。

何よりも自分と同じ裏社会に生きる者の特有の匂いがする。


「奴等も刺客で間違いなさそうだな」

「うん。彼等の動きから考えても間違いないと思うよ」

「なら遠慮は無用だな」


すぐさま攻撃を仕掛けるべく戦闘態勢に入るクロード。

相手の方もそんなこちらの動きに気付いて険しい表情を浮かべる。


「なっ!第七区画の鴉。どうしてここに!」

「そんなもん決まってるだろ。多分こっちと同じだ」

「どうする。ここは逃げるか」

「そんなもんやるしかねえだろうがクソッタレ!」


道の左右には高い塀が並ぶ遮蔽物のない一本道の上、元より逃げ場などない。

男達は背負っていたカバンの中やジャケットの懐から隠し持っていた凶器を取り出す。

前の2人がナイフや手斧といった近接武器を持つのに対し、後方の二名が取り出したのは組み立て式のボウガン。

前衛2人に後衛2人のシンプルな4人1組のチーム体勢。

その動きから見てもそこらのチンピラと違い、よく訓練されている事が窺い知れる。それでもクロードに脅威を感じさせるにはまったくもって力不足。


「向こうもやる気みたいだけどどうする?」

「知らんな。奴等がどう動こうとこちらの対応に変更はない」


ギュオッと音を立て拳を握り絞めたクロードは目前の標的に狙いを定めると一気に前に出る。

距離を詰めるべく前に出たクロードに応じて相手も攻撃体勢に入る。


「来るぞっ!ボウガン構えろ!」

「言われなくても分かってる」


後衛の2人が素早くボウガンを構えてクロードに狙いを定める。

クロードの方は狙われている事をまるで意に介する事無く一直線に男達へと向かう。


「死ねやクソがっ!」

「どたまブチ抜いてやるっ!」


照準が正確に定まると同時に後衛2人がクロードに向かってボウガンを射掛ける。

放たれた矢は標的であるクロード目掛けて一直線に飛ぶ。

しかし、放たれた矢はクロードの体を貫くどころかその衣服にさえ触れる事はなかった。

何故ならば矢は2本ともクロードに突き刺さるよりも早く彼の右手の指先に絡められ、その掌中に納まったしまった。


「なっ!」

「馬鹿なっ!」


いくら組み立て式で普通のボウガンより威力や制度が劣るとはいえ、近距離で放たれた矢を容易く掴み取るなど人間業ではない。

目の前で起こった出来事に動揺を隠しきれず狼狽える男達。

相手が動揺する間にもクロードは確実に相手との距離を詰め、前衛2人を自分の拳の届く距離内に補足する。


「まずはこいつを返そう」


クロードは先程右手で掴み取った矢を2本とも手の中で半分に折ると、1本の矢尻を目の前に立つ虎の亜人へと向ける。

虎の獣人も咄嗟に反応して拳を振り上げるが、最早手遅れ。

クロードは相手の顔に向かって短くなった矢を指先で弾いて飛ばす。

ギュンッと空気を裂いて飛んだ矢は喉を射貫く。


「ガッ!!!!」


喉を射抜かれた男は短い叫びをあげ、矢の刺さった喉元を抑えて前のめりになる。

クロードの前に自身の顔を差し出す様な格好となった虎の獣人、その顔を真下からクロードの右アッパーカットが打ち上げる。

頭蓋骨の砕ける鈍い音と、顎の肉が裂ける感触が男の脳に伝わっていく。

だがそれも一瞬の事、途中でテレビ画面の電源が落ちる様にブツッという音と共に視界が暗転して男の意識が二度と帰らぬ闇の底へ落ちていく。

抜け殻となった体だけがスローモーションのようにゆっくりと膝から崩れ落ちる。


「クソッ!この野郎!」


隣にいた仲間が崩れ落ちるのを見ながら残った前衛がクロードに向かって刀身の分厚いナイフを突き出す。

クロードは向かってくるナイフを横目で一瞥すると、向かってくるナイフに向かって迷いなく左拳でジャブを放つ。

突き出した拳は相手の持つナイフをまるでガラス細工の様に容易く破壊し、そのままナイフを握った相手の右手もろとも粉砕する。


「イッギャァアアアアアアアアアアッ!」


悲鳴を上げ後ろへと後ずさる虎の獣人。

クロードに打たれた右手からは内側から砕けた骨が飛び出し、血を噴き上げている。

その隙にクロードは相手に向かって左足を踏み込み、体を半回転させながら拳を繰り出す。


「やかましい」


冷たくそう言い放つとガラ空きなった懐に鋭い右ストレートを打ち込む。

ボンッというまるでゴムタイヤが破裂した様な音と共に虎の獣人の脇腹が破裂して血と臓物が男の背後の壁へと飛び散る。


「ゲェッ・・・アッ・・アッ・・・アァアア」


自分の脇腹が半分なくなった虎の獣人は、その身に何が起こったのか理解する暇もなく意味不明な奇声を上げながら地面に倒れる。

その一部始終を見ていた後衛2人はというと、あまりに無残な仲間の死に様に表情を凍り付かせたまま身を硬直させている。

彼等は今頃になって目の前の男を甘く見ていたという事実に気付く。

区画番号保持者セクションナンバーホルダーと呼ばれる者は決して自分達が相手に出来る存在ではなかった。

しかし、その事に今更気付いた所でもう遅い。前衛2人を始末したクロードの姿がユラリと揺らぐ。


「ゲェッ!」

「ヒィッ!」


自分達の置かれた状況を理解した2人は咄嗟に逃げ出そうと身を翻す。

叫び声を上げて走り出す2人の背中を冷めた目で見つめながら、クロードは手元に残していたもう一本の矢尻を指で弾いて三毛猫の右足を正確に射抜く。

足を負傷し、前のめりになった三毛猫の体が隣を走るシャム猫の足元に倒れる。

転倒した仲間の体に足元を掬われたシャム猫の体も地面を転がる。


「ブギャッ!」


不細工な悲鳴を上げて倒れ込んだシャム猫は、すぐさま起き上がろうと腕を突いて上半身体を起こすのだが、その頭上に黒い影が差す。

全身の毛が粟立つのを感じ、振り返ったシャム猫の目に映ったのは拳を振り上げるクロードの姿。


「たっ、助け・・・」

「それはない」


シャム猫の命乞いにまるで耳を貸す事無くクロードは拳を振り下ろす。

うっかり落とした生卵の様に路面に頭の中身をぶちまけた後衛2人。

相手の息の根を止めたクロードの方は打ち付けた拳をゆっくりと持ち上げる。


「アジール。残りの連中は?」

「さっきの虎男の悲鳴を聞いて慌てたみたい。裏口からホテルの中に侵入して目的の部屋に向かってるみたいだ」

「そうか。なら急がないとな」


言葉とは裏腹にまるで急ぐ様子を見せないクロードはホテルの入り口へと向かう。

安っぽい木製ドアを開けると、中は安っぽいビジネスホテルの様相をしており、受付では新聞を読んでいたホテルの従業員が顔を上げる。


「らっしゃいませ~。今日はお泊りですか~ってアレ?クロードの旦那?」


クロードに気付いた従業員が不思議そうに首を傾げる。

実はこのホテル、ビルモントファミリー幹部の身内が経営しており、ボルネーズ商会でも食料品やタオル等の備品の納品を行っている。


「仕事中にすまんな。悪いが少し騒がせる」

「へ?」


クロードの言葉に訳が分からず首を傾げる従業員。

そんな彼を無視してクロードはホテルの通路を奥へと向かって歩く。

クロードの頭上、上の階の廊下を数人がドタドタと走り回る足音が聞こえる。


「アジール。ホテル内にいる人の配置と刺客達の正確な位置は」

「もちろんトレース済みさ。敵と目標以外に客はいないからいつでもいけるよ」

「そうか。なら後は・・・」


クロードは後ろを振り返り受付の従業員に向かって声を掛ける。


「しばらく目を瞑って耳を塞いでくれ」

「えっ、あっ、ハイ」


何故そんな事を言われたのか理由は分からないが、特に逆らう理由もないので従業員の男は言われた通りに目を閉じ両手で耳を塞ぐ。

遠目に従業員の様子を確認したクロードは歩きながら右手を軽く持ち上げる。


星神器召喚コール・ジ・アストライオス


短い詠唱の後、黒き魔銃がクロードの手の中に姿を現す。

クロードは素早くロックを解いてシリンダーを振り出すと、アジールから弾丸を受け取って素早く弾倉に込める。

弾倉に弾を込めてシリンダーを戻した所でアジールが口を開く。


「最初は前方上に60度、右に25度」

「分かった」


クロードは魔銃(リンドヴルム)を頭上に向けるとアジールの言った方角に向かって銃口を動かし

迷いなく引き金(トリガー)を引く。

ドッと腹の底に響くような音と共に銃弾が撃ちだされ天井を貫く。

弾はそのまま上階の床を突き抜け、廊下を進んでいた1人の刺客の胸を貫く。


「ガッ!」


胸を撃たれた男はヨロヨロと数歩進んだ後、壁に寄りかかりながら倒れる。

突如倒れた仲間の姿に刺客達は戦慄し、足を止める。


「なっ!攻撃だと!どこからだ!」

「分からん!」

「今、下から大きな音がしたぞ!」

「だが何か起こった様には見えなかったぞ!」


一体どういう攻撃を受けたか分からず騒ぎ出す刺客達。

狼狽える彼らを余所にクロードは次の標的に狙いを定める。


「次は下方に5度修正、その後に等間隔に3人だ」

「了解」


アジールの言う通りに銃口を動かし天井をなぞりながら4回引き金を引く。

銃声がホテル内に鳴り響く度に上階の刺客が1人、また1人と床に倒れる。

気付けば8人いた刺客が瞬く間に3人となり、残された者達は自分達がどのような攻撃を受けているかも分からず錯乱状態に陥る。


「どうなってんだこりゃあ!」

「知るかよ!とにかくここにいたらマズイ。一旦退くぞ」

「ターゲットはどうするんだよ!」

「知るか!このままだとヤツより先にこっちが死ぬ!」

「そっそうだな」


標的を目前にして悔しい所ではあるが、このままだと訳も分からぬ内に全滅する。

撤退の決断を下した男達はすぐさま来た道を戻ろうと振り返る。

が、そこにはいつしか肩に一羽の鴉を乗せた全身黒づくめの男の姿。


「いつの間に!」


驚きに目を向く刺客達を前に、クロードはやれやれと首を左右に振る。


「お前達がトロいだけだ」


呆れた様にそう呟くと、クロードは右手に持った魔銃(リンドヴルム)の銃口を男達の方へと向ける。

上階に上がってくる時に再装填(リロード)は済ませたので彼等を片付ける分の弾は十分だ。


「死ね」


冷たくそう言い放つと、クロードは残った3人に向かって引き金を引く。

三度の銃声がホテル内に鳴り響いた後、送り込まれた刺客の中に生きている者は1人もいない。

廊下を埋める死体を見下ろしながらクロードは手に持った魔銃(リンドヴルム)を軽く持ち上げる。


「星よ、天に還れ」


手の中から魔銃(リンドヴルム)が手の中より消失した後、クロードは死体が転がる廊下を歩いてグァドがいるであろう206号室の前へと移動する。

部屋の中へ入ろうとドアノブを掴むが、カギが掛けられているらしく全く回らない。


「・・・後で修繕費に上乗せしておくか」


そう呟いてクロードはドアの前から一歩下がる。

ここまで来るのに散々廊下を穴だらけにした挙句、そこら中に死体を転がした後だ。

今更ドアの一枚や二枚破壊した所で大きな違いなどない。

特に気にする必要もないと判断して、クロードは目の前の扉を蹴破る。


「ヒャァアアアアアアアアアアッ!お助けぇえええええ!」


ドアが破裂すると同時に部屋の奥から聞こえた情けない男の悲鳴。

声の主を確認すべくドアの破片を踏みしめ薄暗い部屋の中に入ると、部屋の隅、ベッドの影で頭を抱えて蹲る大きな鼠の姿があった。


「お前がグァド・ボージャンだな」

「調子に乗ったのは謝りますから殺さないでぇえええ」

「・・・・・・・はぁ」


恐怖からか全くこちらを見ようとせず、必死に命乞いを続けるグァドにクロードは大きな溜息を漏らす。

これでは一向に話が進まないと思い、クロードはグァドの背後に無言で近づきベッドの影から引き摺り出す。

短い悲鳴を上げ、床に転がされたグァドはカエルの様に仰向けにひっくり返る。

クロードは涙目で無防備に腹を晒すグァドを足で踏み付けると、冷たい眼差しで見下ろす。


「死にたくないなら今から俺の聞く事に素直に答えろ。それがお前の生き延びる唯一の道だ」

「・・・はひっ」


クロードの放つ圧倒的なまでの威圧感に圧されてグァドはコクコクと首を縦に振る。

こうしてクァド・ボージャンの身柄を押さえたクロードは、彼の口から今までベールに包まれていた謎の殺人者"人喰い餓狼"に関する情報を聞き出すのだった。

状況が大きく動いて参りました。

人喰い餓狼とはいったい何者なのか!

そして本編合計100話到達まで残り5話。

ますます盛り上がって参りました。

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