7 さあ、町を探検だ!【準備編】
物事が自分の想像通りに動くことは少ない。勿論それは家事においても同じこと。
さっきまで自分がやってた掃除だってそうだ。元々は自分一人で終わらせるはずだったのに、結局ルイに手間をかけさせてしまった。自分が不慣れなのが良くなかったな・・・・・・。
皿洗いや洗濯のやり方を学べたのだから、良しとすべきなのだろうか。元はと言えば彼の負担を減らそうとしていた訳だから、何だか複雑な心境でもあるんだよな。
「ベガ、また難しい顔してる」
「いや、何でもないよ」
表情が分かりやすいのは、自分も一緒なんだな。
って、ルイめっちゃ心配そうな顔してるし。
傷つけたくないからあえて言わなかった。だから嘘だと言いつつ、話を流そうか・・・・・・。
「ごめん嘘だ。何かしらある」
「やっぱり。実は僕にも心配してることがあって」
その突拍子もない一言で、今度は自分が心配になってしまった。あんなにしっかりやっているように見えたのに。
「何かあったのか?」
「ん。僕って真剣になると、ちょっと厳しくなっちゃうんだ。そのことで、ベガが嫌な思いをしていたら嫌だなって」
厳しくしすぎて、モチベーションが下がってしまったのではないかと不安になったみたいだ。
けれど実際はそんなことはない。ルイは重たく考えすぎている。
「いやいや、寧ろ嬉しかったよ」
「本当!? 良かったあ……」
「ルイは気にし過ぎだ」
「うう……。僕が話したんだから、ベガも話してよぉ」
ああやられた。気付かない内に外堀を埋められていた。話さざるを得ない状況が、自然と作られてしまった。
でも今の彼だって、覚悟の上で話したことだろう。なら自分だって覚悟を決める必要があるのかもしれないな。
悩み悩んで、思いのたけを告げてみる。ルイに楽をさせたかったのだということを。
「それって寧ろ、言われて嬉しいことだよ?」
「え、そうなのか? 良かった……」
「ベガったら、気にし過ぎだね」
「あ……」「あっ」
「オイラ達って、似た者同士なのかな」
「えへへ、そうかもね」
「へへ、ルイ顔真っ赤だぞ」
「ベガだってぇ」
話したことで、だいぶ気持ちは落ち着いたと思う。
でも、何というか、今は別のベクトルでモヤモヤしてるかな……。
いや、これは贅沢な悩みかもな。
話すネタも尽きて、ソファーでゆっくりと過ごす。のんびりするのも楽しい時間だろうか。
ルイが欠伸をする。それを見て釣られた自分も、ふわりとする。
こんな生活がずっと続くならば、どんなに幸せなんだろうな、なんて考えてしまう。でも、それはそれで退屈な気もする。
なんというか、冒険とかしてみたいよな。日常の中の非日常を、この目に焼き付けたい。だからまずは、この町、天ノ峰の全体を見てみたいよ。
「あのさルイ」「ねえベガ」
「……」「……」
言葉が重なる。こうなると一気に気まずくなるよな。
自分は手を仰いで、お先にどうぞとジェスチャーしてみる。
対してルイは、コクリと軽く会釈してきた。
「ん……えっとね、町の探検、行ってみない?」
「すっごい。オイラも同じこと考えてた」
「ほんとう!? すっごい!」
ルイったら凄くはしゃいでる。年相応といえばそうなのかもしれないけれど、今までの知的な行動があってのこれだから、不思議な気持ちだ。ギャップに驚いてるっていうのかな。
身長や体形、そして髪色から何までが普通で、思考が大人びているが、基本的には単純。
それが彼に対して持っていた第一印象。そこに段々と付加されていく様々な個性が、余計に自分の興味を増幅させていく。
ルイって、本当に楽しい子だなぁ……。
早々と準備を済ませて、外へ出る。
「うう、ほんの少し肌寒いな……」
「ベガったら、ずっとそんなセーラー服姿なんだもん」
「何だろうな、気に入っちゃってさ」
曰く、自分が倒れていた時からずっと着ていたものらしい。
どういう理屈かは分からないが、倒れていた当時は服もボロボロだったはずなのに、目覚めてからはしっかりと再生していたとか。
そして、このセーラー服が、ルイのこれから通うことになる中学の女子制服と、全く同じという事実を聞いた時も驚いた。
何というか、運命的なものを感じるな……。
というか寧ろ、自分はそこの生徒だったのではないか?
ならば制服と同じという点に合点がいく。
でも、ヒカリやヒカリの父さんが自分について把握していない以上は、その線を断定することができない。
知っているとして、隠す理由があるだろうか。
……そうは思えないな。
まあどうしたって、この服装は気に入っている。
だからこれを普段着にしてもいいじゃないか。
「似合ってると思うよ」
「んぇ、あ、ありがと……」
ルイに言われると照れるんだよな。ちょっと恥ずかしいかも。
「じゃあ、案内するね」
「あ、ああ、任せたよ」
自分にとっての、小さな冒険の始まりだ。日常の中の、大きな非日常になればいいな。