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 「――ここは?」



 周囲はまるで宇宙だ。

 ただ、本物という訳では無さそうで、ハリボテ感のある世界。本物なんて見た記憶が無いのだから、判らないのだけど。

 ただ一つ言えるのは、自分がそんな空間に、ふわふわと浮かんでいるということだけ。


 ……さっきまで自分は何をしていたかな。


 確かルイと共に病室へ戻ろうとしていたはず……。なのにどうして、どうしてこんな場所に居るんだ?


『宇宙はある意味不可思議な存在ね』

「誰だ!?」


 いきなり頭の中で響く。その声は少女のようではあろうが、あまりにも無機質で冷たい。

 ふと思えばこの空間そのものも冷え切っている。ずっと居たら寒さで凍えてしまうかもしれない。


『幻想と、万物と、時を飛び回る神……そこに名前なんて存在しない』

「名前が無い……? オイラは記憶喪失で名前を失ったみたいだけれど、それとはまた違うのか?」

『どうでしょうね。そして各々の世界や環境は、運命によって縛られていることは想像に難くない。それは神による悪戯なのだから」

「運命……。オイラが記憶を失ったこと、そして、ルイと出会ったことも?」

「ご名答」


 気付けばそれまで脳内で響いていた声が、外部から聞こえるようになっていた。


 ふと、声の聞こえた後ろを振り向くと、白い肌の美しい、金色の髪の少女が居た。


「神はあまりに残酷。極悪人」

「さっきからお前、何が言いたいんだ……?」


 意味の分からない話が永遠と続くのは、あまり好きでは無い。意図を告げてくれるのならば、話が早いのだけれど。

 ……嫌々物事を考えていると、相手もまた、不愉快そうな顔をした。


「勝手に呼び出したのは、あなた」

「呼び出した? オイラが何をしたって……」


 ……待て。気絶する前に自分がしたことを、良く思い出すんだ。


「……記憶を巡り、深い場所へと辿りついて、そこに私が居た」

「そうだ……どうして。どうしてオイラの中にお前が……」


 記憶の深い所には、暗く淀んだ色が混じり合っていた。ただそれだけで、何か記憶の手がかりがあるということも無かった。だけどただ一人、彼女だけが記憶の底に立っていた。


「私を見せたのは、こんな茶番をやるがために、この世界に来た哀れな人。妖精の言葉を耳に入れた、愚かな神」

「……どういうことだよ」

「ここまで言ってもまだ分からないの?」


 呆れたとでも言いたそうな顔をしている。軽蔑されているようにも見える。彼女の中では様々な感情が動いているのかもしれない。


「手短に済ます。あなたにとって最大の味方、それが私。そして、あなたにとって最大の敵……」


 ――消えた。


 いや、違う。

 背後へ周られた!?


「それも、私」


 彼女は手を挙げる。その手には何やら光が集まっている……。


「……何をする気だ?」

「…………」


 問いに応えることも無く、そのまま手をこちらに向けて来る。


「眠れ。内に秘められし未来よ……」


 ビーム状の光。

 回避しようにも、動くことができなかった。


 わずか一瞬。どのように行動したところで、上手く避けられるはずがない。


「ぅぐ……!」


 腹に痛み。一瞬でなく、じわりじわりと効いてくる。

 ただ痛いだけではない。そこに数多な思いが詰まっている、不思議な痛み。それが怒りなのか、哀しみなのか、それとも別の感情なのかは判らない。


 光線の衝撃で吹き飛ばされてしまうが、そんなことも気にならない程に彼女の攻撃はありふれていながらも、強烈なものだった。感情的な痛みの方が、遙かに大きい。


 やがて透明な壁のようなものにぶつかると、今度は透明な床に落下してしまう。

 先程までは空間を泳いでいたはずなのに、今は重力があることを不思議に思う。


「容易いこと」


 そんな神様みたいなこと。普通の人にそんなことが出来るわけがない。


「あの世界ならば、能力を得ることも容易い。貴方なら一つや二つ、確実に得られる」

「あの世界って……今居る所か。そこで、オイラが……」


 力を得て、一体何になる?

 これまで能力の話を、何の脈絡もなくされた訳だが……。


「自分が得ることによって、メリットはあるのか?」

「……そうね。力を得ることは、未来を救う鍵となる。そして……ルイも……」


 ルイを助ける? 確かに力を持てば、守ることは出来るのかもしれない。ただ、救うって言い方……。一体、何かがあるかのようにも聞こえる。

 そして、『未来を救う』だなんて、まるで知っているかのような。


「お前さっき、万物と時を超えるって言ったよな。まさか、オイラの行く末が見えているのか?」

「……さあ。 ……ただ、私を信じて。そうすればきっと、未来は救われる」


 そこを誤魔化されても困るのだけれど。自分から時を超えるなんて言ったからには、出来ない訳が無いのだろう。嘘偽りだと思いたい気持ちもあるが、このような空間に誘導された以上は信じる他に術はない。


「もうすぐ時間。いつか、貴方自身の手で私の所まで戻って来て……」


 少女は手を上に掲げ、何かを念じている……。


 やがて空間はぼやけていき、夜の野原へと姿を変えていく。

 何故だろう、既視感がある。一度も訪れたことの無い場所であるはずなのに、非常に思い出深い場所のようにも感じる。


 気付けば彼女も消えていて、世界は徐々に歪みを帯びて行く。

 そうしている間に瞼も重くなって……。


『私には成すべきことがある。例え、あなたを利用したとしても』


 ――心穏やかに過ごしたくとも、壁は幾つも立ちはだかるか。


『全てを失った孤独のフェアリー。今度は、得るために動く。未来のための、幸せの妖精として……』

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