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15 洞窟に潜む怪物

 ルイを担いで洞窟の来た道を戻っていく。最初は彼の頭が天井に当たらないかを心配していたが、どうやらその心配は無いみたいだ。


 行きの時はフェーリエントと話していてあまり感じなかったのだが、この洞窟は上にも横にも結構広い。整備すればここで居住することも出来るかもしれない、なんて思えるほどには。まあ思うだけで、本気で行動に移す気は無いけど。


 黙って歩いていると、やっぱり何だか寂しいな。先ほどまで賑やかな神様が居たのが嘘みたいだ。


 おまけにジメジメしていて、あまり気分が良くない。


「うぅ……ベガ……」


 うなされているのだろうか。とても弱々しい声だ。優しく撫でて癒してやりたい所だが、さっさとここから出る方が先決だろう。


 少しずつ前へと進んでいく。

 やがて、先程フェーリエントと通った分かれ道まで戻ってきた。


 振り返って、行かなかった左側の穴を少し見てみる。


「何か動いてる……」


 その正体が何なのか、凝視しても……よくわからないな……。


『ベガ、ルイ、聞こえるか!?』


 何やら慌ただしいな。別れの挨拶をしたばかりじゃないか。


「フェーリエント、どうしたんだ」

『良かった通じた……。いいか、今から言うことをよく聞くんじゃ! 時間はもうすぐ完全に動き出す、そうなれば……そうなれば』

「……嫌な予感がするんだが。というか時間って」

『そこにおるのは巨大な生物じゃ!!』

「はえ!? お前何言って……」

『詳しい話はまたいずれする! だから今は急げ!! 走って逃げるのじゃ!!!』


 フェーリエントすら想定していなかった事態が起きているということなのか……!?

 彼女の言葉が真実なら、今はまだ時間が止まっている。なら、今のうちに……!


「ルイ……離れないでくれよぉ!!」


 自分は全力で走り出す。虫は小型でさえ足が速いのだ。

 それでも人間の速度は優に超えてくるだろう。だから時が動き出す前に、できる限り先へと走る。時が止まっているとて、相手はこちらを認識しているはずだから。


 そうでなければ彼女がここまで焦って言葉を放つはずがない。


 自分の速度は人並みだろう。そんな中でルイを担ぎ、光源を持って走るのは厳しい。数十メートル走っただけでも呼吸の乱れが起きる。

 そんな中で音が聞こえてくる。

 着実に、少しどころか、非常に速いスピードで近づいてくる何か。


 洞窟が振動するほどの揺れまで……!?


「グギョオオオオーーー!!!」

「うぁ!?」


 遠くからの鳴き声だが、遠いとは感じられない。まるで獲物を発見したかのように恐ろしい声だ。


「何でこんな化け物が居るんだよ!!」


 一瞬チラリと横目で後ろを見ると居る。

 いぃ!? 奴が居る……!


 まずい、このままでは追いつかれる!!


『頼む通じてくれ……!』


【幻想魔法:打水】


 滝が水面に当たるような音が、一瞬だけ聞こえた気がした。


『よしよし……上手くいったのじゃ』

「シュルグググ……」


 化け物は先ほどと打って変わって、弱々しい声だ。


「んえぇ!? 何これ! 何が起きてるの!?」


 ほぼ同じ時にルイが目を覚ましたようだ。でも、説明している余裕はない。


『行け、ベガ!!』

「ああ、分かってるさ!」

「バケモノ!? バケモノいるよ後ろ!? 何が起きてるの!?」

「ごめんよ、後で話す!」


 

 何かで足止めをしてもらったお陰か、少しばかり相手は遠ざかった。

 明かりも見えてきた。これなら……!!


「飛ばすぞぉおおーー!!!」

「ふうわぁあああああーーー!?!?」


 ルイの叫び声が凄いのは、きっとまだ状況が吞み込み切れていないからだろう。

 ごめんな、ルイ。


「待って待って!!! ベガ!! 前見て前!!!」

「前が何って明かりじゃ……ぇえ!?」


 忘れていた。ここは滝の内側。

 さっきは何故か水が止まっていた。


 だが、今は……。


「嘘だろ!? 滝が流れてる!!」

「後ろから変な生き物も来てる!! このままだとまずいよ!!」

「いやいやどうするかなんて……これしか無いだろ!!」


 全速力で、ただこの洞窟を抜けるだけ。


「ゲグァアアア!!!」

「……煩い化け物だな!!」


 滝にブチ当たるのは、もうどうでもいい。その滝を抜ければいいんだ。


 そうすれば。


「滝抜けるまで、しっかり捕まってろぉお!!」

「やっぱりそうなるのぉおおおおーー!?」


 出口を通る今この瞬間に……力一杯……踏み込む!!


 速度は落ちない。滝に当たっても。

 ……よし、上手いこと抜けた。


「抜けたぁああ! ……ところでこの後どうするの?」

「落ちる」

「へ?」

「捕まってろ」

「本当に落ちるの!? えええええー!?」


 ドバーンと周囲に水の音。

 滝の音に入り混じって、それなりに趣を感じないこともない。

 仮に自分が、第三者ならそう思っただろう。


 ゆったりぷかぷか、ルイと共に流れていく。お互い意識ははっきりしている。でも、言葉を発する気分にはなれなかった。


 川は全体を通して、そこまで勢いがある訳ではない。だからこのまま流れに乗って、下流まで戻ろう。

 手を繋いで、離れないようにしながら一緒に帰ろう。


 無駄に浪費していく時間も、あまり悪いものではないな。



 しかし……ルイに大変な思いさせちゃったな……。


「ごめんよ、ルイ……」

「楽しかったよ、ベガ。だから落ち込まないでね」


 ルイはあんなことに巻き込まれても尚、自分を見捨てずに居てくれている……。

 それが嬉しくて、心がじんわりと、あたたかくなってきた。


 今度は、何処に連れて行ってもらおうかな。明日以降の計画をまた、考え始めたのだった。

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