12 水神様、ルイを乗っ取るもベガにバレる
空洞では無かった。
ルイが飛び移るのをしっかりと見届けた後で、自分は正面を向いて、内部がどうなっているのかを調べてみた。
ここは穴が空いているだけで、それほど広い場所ではないと思っていた。
だが実際は、山の内部に向かって洞窟が広がっていたのだ。どれほど広いのかは未知数で、奥までどれほど時間がかかるのかも分からない。山の中で打ち止めか、それとも地下深くまで続いているのか……。
こんな場所で、何も起きない訳がない。とりあえず用心するに越したことは無い。
「ベガ見て、下!」
「……あ、パーツだ」
先ほど光り輝いた破片と同じものがそこにある。普通に考えて、外側からこんな所にまで飛んでくるはずが無い。何かしらの力が働いて、ここまで来たと考えるのが自然だろう。
とりあえず拾ってみて、観察する。
さっきの破片とは別物かとも考えたが、そうだとすると、割れ方が異なっているはずだろう。だがそんな違和感は一切無い。
光った理由は定かではないが、先ほど光った以上は、何かしらの用途を成すのではないか。
「ベガ、ちょっと貸して」
「ああ」
ひょいと渡すと、ルイの肌に触れた瞬間、また光り出す。
「原理は分からないけどさ、二人で触れた後に光るみたいだね」
「さっきと違って、優しい明るさだ」
仄かな明かりを見ていると、まるで松明を持っているかのような気分になる。
そんな破片は先に進めと言わんばかりに、洞窟の奥を照らしている。
『地上人か……』
「ルイ、何か言ったか?」
「い、言ってないよ。でも聞こえた。さっきと同じだよっ!」
『血を継ぎし星の民……ならば』
「…………!!」
「ルイ!? 大丈夫か?」
「……大丈夫だ。行こう」
「あ、あぁ」
そんなわけあるか。彼は行くをゆくと言うような性格ではない。
やはり何かに取り憑かれているのか。
だが仮にそれを指摘したらどうなるだろう。乗っ取った何者かが、ルイに危害を加えないとも限らない。そんなことになっては絶対にいけない。
だから今は、ただ気付いていない風を装って、ついていくだけだ。
でも、何故ルイに……?
先程も彼に取り憑いていたが、自分に入り込まれることは無かった。
二回だけのことだから、単なる偶然なのかもしれないが。
……先程何者かが発していた「星の民」という言葉。これに自分が該当するとしたら?
その星の民をどこかへ連れて行くために、自分には取り憑いて居ないとか……?
分からない。分からないぞ。
自分にはそこまでの特殊な何かが存在しているのか?
もしや自分について、何か知っているとでも言うのだろうか。そうでなければ星の民なんて表現は使わないだろうしな……。
何にせよ分かっているのは、とんでもないことに巻き込まれたかもしれない……ということだけだ。
「どうした? 難しい顔をして」
「……いや、何でもない」
「そうか。何かあったら大変だからのう。気を付けることだ」
語尾が抜けきってないぞこいつ。これで成りすましているつもりなのか。しかもルイの声がいつも以上に高いんだよ。何なんだよ本当に、笑わせる気か……。
「さてベガ、もうすぐだ」
「……どこへ向かってるんだ?」
「洞窟の深部の一つ。そこには腹立たしくも祭壇が置かれている」
「へぇ……ルイ詳しいんだな」
「ま、まあ、な。これでも現地人……だからな」
「ふぅん」
「な、なんだその目は! う、疑っているとでもいうのか我をぉ!?」
「いや、別に」
「そうかそうか、ならいいんだ」
分かったよ。こいつは相当間が抜けている。口調も真似ることが出来ていない辺りで、そんな気はしていたが。
そんなおバカさんのお蔭で、いとも簡単に深部にある祭壇のことが分かった訳だが、こいつは何て言っただろう。『腹立たしくも』と言った。それに、祭壇を呼ぶときは、「祀られている」と言うべきだろうに、そうは言わなかった。「置かれている」だと若干不自然な気がするのだ。自分の中の常識では。
この洞窟は滝……つまり水に関係している。そういえばさっき、ルイが水神様についての話をしてくれたっけ。
「なるほど、さっきお前が話してくれた水神様の祭壇なんだな」
「んー? んー……左様じゃ。水神……様は封印されておってな」
質問の答えを一生懸命考えている辺り本当に面白いな。というかこの状況を楽しめている自分は何なのだろう。
「海神は祭壇何ぞ無いのになあ……奴の方が封じ込められて然るべきだというのに……」
「え、ルイ海神様も知ってるのか! 凄いな!!」
「いやいやいや!! 記録での話じゃよ!! 実際には会ったこともないしぃ? しかも殴り合ったことも喧嘩したことも一度だって無いしぃ?? あとついでに、あいつのおやつ勝手に食べてもないしぃぃ???」
あー、余計な事まで喋っちゃうのか。
まあでも、海神とは別の神様なんだな。例の大津波はその神様が起こしたとみても良いだろう。だとするなら、この水神は海を除いた「滝と川の神様」という括りになるのだろうか。
祭壇が無いというのも気になる話ではあるが、今気にするべきことでは無いだろう。
神様が分かりやすい性格で本当に助かった。今聞けることは遠回しに全て聞いてしまおう。