11 続く怪異と滝の空洞
川辺をしばらく探索してみたが、破片らしきものは一切見当たらない。破片はやはり単なる廃棄物で、探すまでもないものだったのだろうか。それとも、海のどこかから流れ着いた漂着物だったのだろうか。
……いや、まだ調べてない所がある。
先ほどこの辺りを歩いていて気付いたのだが、滝の内側に不思議な空洞があった。よく見なければ見つからないものらしく、ルイすら―一度しか来たことがないとはいえ―存在を知らなかった。
だからここを調べてみれば、もしかしたら何かが見つかるかもしれない。何も無くたって、それはそれで良い思い出になるな。
「ベガ、気をつけてね。下手したら滝壺行きだ……」
「こんなに低い滝で壺なんかあるのか」
「知らないけど」
「知らないのかよッ」
ほのぼのとした会話のようにも思えるかもしれない。だがこうでもしないとルイは心が持たないのだ。恐怖には慣れてきたとは言え、もしかしたら命に関わること。流石にそれなりの緊張はあるのだろう。
だから自分は、できるだけ彼に波長を合わせて話すことにした。そうすれば、少しでも彼の気が楽になるかなと思って。
彼のボケをツッコんだのも、そういう理由だ。
「うわ……間近で見ると、迫力あるな……」
怖気付いて逃げるなんてことはしないが、思わず身を引いてしまう。
「というかこれ……本当に入れるの?」
「入れるには入れるんだろうが……」
川辺ギリギリを跳躍しても、滝の空洞に入れるかは微妙だ。いや、微妙よりも厳し目だ。跳んだ時の力が、滝に当たってどうなるかが上手いこと想像できない。
もしかしたら滝の力に押し負けて、そのまま落下……なんてことにもなりかねない。単に跳ぶのだとしたら、そんなハイリスクを要求されることになる。
「他に入口は……無さそう……だもんな……」
「ベガ、声震えてる……」
「ルイだって……」
本来なら、素直に諦めるべきことなのだろう。だが自分はこれを、やらねばならないこととして認識している。何故かは分からないが、心の奥底からその思いが強く湧き出してくる。変な感じだ。
「破片の正体、掴むんだ。そうしなければいけない気がする」
「……そうだね。がんばろう」
ポケットから破片を取り出して、グッと握る。すると不思議なことに、破片はとても温かくなっていた。
おかしいな、さっきまで海水に浸っていたはずなのに……。
「ルイ、これ触ってみてくれないか……?」
「え? う、うん……って、うわぁ!!」
ルイが手に取ったその瞬間から、パーツが光を放ち出す。耐え切れず目を閉じた。出来るだけ、眩むことが無いように。
「……うぅ。何これぇ」
「まさか光るなんてな……」
少しばかり目に焼き付いてしまったが、広範囲に及ばなくてよかった。
とりあえず、ルイは無事なようだ。光った後で忽然と姿が消える、なんてことにならなくて良かった。
それ以外にも、周囲の様子に違和感を感じる。
何だ……?
「…………!」
滝の音が無い!?
いや違う。音が無くなった訳じゃない!
「水が……滝の水が……」
「嘘でしょ……!?」
自分もルイも、その光景にただ思考を停止させてしまった。こんなことがあって良いのか。流れていた水が無くなるなんてことが……。
「はえ……あれ。ん……? えぇ!?」
彼は何やら、着ている服のポケットや手足を弄っている。
何があったんだ。何かを失くした……?
「ベガどうしよう!! パーツも無くなっちゃった!!」
「落ち着け! 焦っていたら何も対処できないぞ」
彼にはそう言ったものの、自分も正直戸惑っている。こんな不可思議なことが起きてしまったのだから、動揺しても仕方がないと思う。
破片が光って姿を消して、滝の水が止まる。
ここから因果関係みたいなものが一切掴むことが出来ない。もしや魔法の類か……?
「光と水……なんなんだこれ……」
「ロストテクノロジーだったりして」
「何だそれ」
「今は存在しない、昔の技術のことだよ。何らかの理由で滅びちゃって、現代まで継承されてないもので、もしかしたらその一つかもって思ったんだ」
「ルイ、詳しいんだな」
「えへへ、こういう変なことが好きなんだよね、僕」
変だろうか。寧ろロマンを感じるけどな。過去の遺産だったり、不思議なことだったりを知っていること。それって知欲って言うのかな。そういうものを何かに対して持てるって、凄く大切なことだと思う。それを成し得ている彼は、本当に素敵だ――。
「考えていても仕方がない。水も止まったことだし、入ってみようか」
「うん……怖いけど、頑張る」
ちょっと頼りないけどな。
さて、ついに空洞の内部へと潜入することになる。
だが結局、跳躍してギリギリ届く距離で、危険だということには変わりない。
もし足を滑らせたら、川に落ちてしまうだろう。どうして滝の水が無くなったのにも関わらず、川の水が残っているのかが良く分からないのだが。まあこれもその、ロストテクノロジーのせいだろう。多分。
それにしても、本当に音がないな。タプララとした音の一つも聞こえてこない。
無機質な恐怖……。何もないからこそ恐ろしい。こういう時は、寧ろ何か起きてくれた方が精神的には安心なんだが。
「よっと……」
まずは自分から飛び移る。何だ、案外どうってこと無いじゃないか。
問題はルイだな……。彼の運動神経を自分は知らない。これまで何処かを走った訳ではないのだし、持久力やそのバネがどの位なのかは全く持って未知数。
ひょっとしたら相当な運動音痴で、そのまま真っ逆さまに……。
「よいしょっと」
杞憂だった。