9 さあ、騙……町を探検だ!【川辺横断編】
川上に行くと、もしかしたら天ノ峰を越えてしまうのではないか、という心配もあった。でもルイが言うにはそんなことは無いらしい。
原点こそ山にあるため、時間の関係で行くことはできない。だが、山から落ちる滝までなら行けるらしい。
上流へ行く理由は二つある。一つは破片がとこから来たのかを知ること。そしてもう一つは、その破片の正体をあわよくば暴くことだ。単なる機械の破片なのかもしれないが、それでもいいと思う。単純に、自分は冒険がしたいのだから。
彼には、楽しんでいるって気持ちを伝えたい。だからあえてそれを言う必要もないと思って。
それにしても、何だろうな……この破片。
その内自分に何かをもたらすのではないか。思い込むほどに、不思議な気持ちにさえなってくる。全てのパーツが揃ったら、何かが起きるかもしれない。なんて。
自分が何かに引き寄せられているとか?
いや、まさかな。
「ベガ、またまた難しい顔してる」
「……ああ、ごめん。もう何度目だろうな」
「ベガって、一人で居る時色んなことを考えてそうだよね。現に一緒に居てもこんなだし」
「……もしかして、オイラけなされてる?」
「いやいやいや!! そういうわけじゃないよ!!」
おお、焦ってる焦ってる。こうやって弄るのも面白いな。表情の変化が大きいルイは、感情の変化も大きい。だから彼の色々な反応を見ていくのが、とっても楽しいのだ。
こっちも表情変えて演技するのが面白おかしくて、しかもルイは可愛いし。
「へへ、分かってて言ったぞ」
「……むぅ」
そのふくれっ面、初めて見たかも。本当に可愛い奴だな。新鮮だなあ。
男なのに可愛いって、これいかに。
「いつか仕返しするんだからね」
「はいはい、楽しみにしてるぞ」
意気込みを受け取って、軽く流す。だって無理だと思うから。表情的な意味で。
嘘つく時とか変な方向に目が泳いでそうだし、疑ったら直ぐにボロが出そうだし。
ルイがルイであるための大切な個性だと思う。見ているだけでも退屈しないし、一緒に過ごす時間が長ければ長いほど、彼の新しい面を知ることができる。他には何を知っているのか、どうすれば彼を笑顔にできるのかを考えるのが楽しいって……ルイのことばっかりだな自分。
歩いて走って、川辺を行く。
砂利や小石で少し歩きづらいけれど、その不安定な足場や川から流れる水の音が、寧ろ冒険心を増幅させていく。
「タプララって感じだよな」
「え、何が?」
「川の音が」
「えー、チャパババって感じだよ」
「ブッ……何だよチャパババって!」
「タプララの方がおかしいよ! 何でララなんて歌っちゃってるの」
「ララって歌ってるんだよ!! 自然が!! 川が!!」
「あっはははは!」
「わ、笑うなよぉ!!」
こんな、自分たちでも訳の分からない会話をするのもまた、楽しかったりするよな。でもチャパババは解せない。
しかし、本当に気持ちよく過ごせる場所だ。
時折小鳥の鳴き声が聞こえる。他にも、川には魚や小さな生き物が、楽しそうに生きている。
それだけ動物達にもありがたい所ってことなのかな。
「こんな良いところで暮らせるなんて、本当に幸せだな」
「そう? 生まれた時から過ごしてたから、あんまり分からないなぁ」
分からないのか……。
もしかしたら、外部から来たからこそ、この感覚を味わえてるのかもしれないな。大切にしよう。
風景に慣れるまでは時間がかかりそうだし、その間にも新しい発見が沢山あるんだろうな……楽しみだな。
気付けばもう川上だ。足元には先程と変わって、少し大きな石が見えるようになってきた。
でも残念なことに、これまでの道にはパーツはおろか、ごみ一つ落ちていなかった。
川辺と不安定な道をもう一度見てみる。そうしてまた正面を向いて、思わずハァと溜息を吐いてしまった。
「ベガ、さっきからずっと、パーツ探してるでしょう」
この溜息で察したのか、それとも下流の時点で何となく感じ取っていたのか。
図星だと、こうも声が出ないんだな……。
「やっぱり。最初から察してたよ」
「最初から……か」
今理解した。彼は、自分の思う以上に察しが良くて、機転がきく人間なのだ。
言わないことで、また余計な心配をかけてしまったかもしれない。
「寂しいよ。ベガに置いて行かれちゃうような、そんな気分」
ルイは俯いて、しゃがみ込んでしまった。
こう言われてようやく、事の大きさに気がついた。ルイにとって、自分の存在は大きくて、離れたくない存在だということ。
その心に、少し傷を負わせてしまったのかもしれない。黙っているという行為を、二度も繰り返したのだから当然か……。
「ルイ……その、ごめんよ。ルイを傷付けたくないって思いでいたのに。余計に傷つけちゃったみたいで……ほんと、何て言ったらいいのか……」
自分は俯いたままで黙り込む、そのままルイの返事を待つ。
しばらくすると、ルイはクスクスと笑いだして、やがて顔を上げた。
「仕返しだよ、さっきの」
「……あー!! やられた!!!」
「あはははは!!!」
そうか、俯いてしゃがんでたのは、表情を見せないためだったのか……!
自分が騙した時から、このタイミングで仕返そうって決めていたのかもしれないな。
いやぁ……今回は一本取られた。
で、済むと思わないでくれよ。
「でもルイ。限度ってものはあるよな?」
「へ?」
「いくら何でもやり過ぎだぞ。規模の差があり過ぎる」
「あ、う……ごめん」
「なーんてな」
「……~~~~!!!」
今の冗談で帳消しかな。これにも騙されてくれたこと。そして、その時の焦り曇った可愛らしい表情で。




