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星屑の漂流者 零

 次元を越えた、果てしなく長い旅。


 長いと言っても、それは距離の話。時間は大してかかっていない。


 何百キロ……何千キロ……いや、それどころではない。何万、何十万…………。


 途方も無い、光の単位に入るぐらい広い道のりを、私は飛ばされているのだ。


 これぐらい言えば察する人が居るだろうか。

 ここは宇宙だ。隠喩だとか、表現技法という訳ではなく、本当に。


 ただし、本物というわけではなくて、私が想像した世界。

 形としての創造はしていないが、想像はした。頭と文字で。



 何言ってるんだこいつと思われるだろうか。その証拠は探そうと思えば、直ぐに見つかる。

 宇宙と言えば、無音というのが一般常識だろう。真空だから当たり前だ。


 でも、この物語は「SF」であり「ファンタジー」。


 だから周りを見てみると、銀河鉄道が走っている。その汽笛や線路を走る音が、断片的に聞こえる。私の速度があり過ぎて、聞こえるのはほんの一瞬だけれど。


 それだけではなくて、なんと恒星が光を放っていない。代わりに惑星のような存在となって、その星々に生命が育まれている。


 まあそんなことよりも、そもそも私がこうして、生身で宇宙空間に居られる時点で相当なファンタジーだし、世界観が分かりやすいだろう。


 いやまあ、自分の世界にしても不思議だなぁ……。



 それは置いといて……次は、どうして私がこんな宇宙空間を彷徨っているのか。そんな疑問が浮かぶはずだ。


 長ったらしく説明しても読み手は飽きるので、簡潔に言うなら……。


「王である兄上に歯向かって、星から追放されてフッ飛ばされた」


 うーん分かりやすいのか分かりにくいやら。

 私が読み手なら理解に困る簡潔さだ。書籍なら閉じて店の本棚に戻すし、Web版ならブラウザバックかな。


 まず説明するなら、自分の書いた小説に転生した……ということから入るべきだろうに。それを忘れていたら伝わるものも伝わらないじゃない。とんだ失敗だ。


 ただ、転生といっても、よくあるテンプレート的な「異世界転生」とは違う。


 私がしたのは精神体がこの世界に飛んできているだけの、言ってしまえは邪道なパターンだ。人気にはならないタイプかな。


 名付けるなら……「自世界転生」。流行らないな、うん。私しかできないし。

 私の作ったキャラクターの中に、私自身が入り込む転生方式。そうなると、元々の中身の子はどうなるのか、それが疑問だったのだが、どうやら眠りにつくらしくて問題ないんだとか。


 今の私の身体―入り込んだキャラクターの身体―は、何とも不思議な心地だった。でもゴタゴタ言ってられない状況だし、元あるストーリーをどうにか演技で乗り越えた。


 伏線や進行は一切間違えることなく、ここまで来れた。

 演劇部にでも入ってみれば良かったかもな。今更だけど。


 先ほど『兄に歯向かった』と言ったが、実はこれも筋書き通りだったのだ。まさか、ここまで上手くいくとは思わなかったけれど……。



 これでこの物語における、一章……いや、語らない部分が終わった。いわゆるプロローグのプロローグ、エピソードゼロ。自分でも相当頑張ったと思う。


 ただ、ここからは本当に難しい。


 続く第一章からは、何と私の記憶が無くなってしまう。いや、正確には、私の演じているキャラクターの記憶が奪われてしまうのだ。


 私が記憶を失えば、物語は書いてある通りに進んで、バッドエンドへと進むのだろうか。

 それとも私の想像だにしない、分岐した世界に入ってしまい、収拾がつかなくなってしまうのだろうか。


 どちらにしても、とても恐ろしくて、怖い。でも、こうするしか、方法は無い。


 ああ、どうして結末をバッドエンドにしたのだろう。友達が死んだからと、ヤケにならなければよかった……。

 とはいえ、血みどろになるような戦いを一切設定しなかったのは、私にとって英断だったかもしれないな。戦いといっても、大したものではないし、大概は日常の中の不可思議だし……。

 でも恐いものは怖い。



 ……シリアスモードをずっと続けてたら辛いよな。明るく行こう。


 どうやら、そんな悲しい物語をハッピーエンドに導いた暁には、死んだはずの私の友達が蘇るらしい。


 私をこの世界に送り込んだ、金髪のフェアリーがそう言っていた。

 彼女は、自身の目的を語らないせいで、いかにも胡散臭かった。だがもうなりふり構って居られない状況だったから、そのまま契約を結んだ。


 その契約によって、彼女はこの世界を創造してくれた。私が想像していた世界を、創造した。

 場所の提供という意味合いでの創造だ。


 こうなってしまったからには、例え記憶を失えど、私は進む。がむしゃらに進む。例え道を踏み外しても、何度でも。それがもし仮に、この世界でなくても同じ決断をしたかもしれない。出来るかどうかは別として。


 私の唯一の友達を助けられる可能性があるのなら、それに賭けたかったのだ。


 ……さて、もうすぐ地上に落下かな。その弾みで記憶を失うことになるはずだ。


 そこで出会う少年「ルイ」。名字と性別は違えど、友達と何ら変わりのない風貌をしているはずだ。生き写しとはまた違うけれど、私にとって、その存在が安心に繋がることだろう。


 ところで、もし、記憶を失うことで、元々のキャラクターが目覚めてしまったら、どうなるのだろう。


 精神合体……?

 否めないな。設定してあるし……。





 新しい不安要素を抱えてしまったが、もうそれは些細なことだ。

 何があっても、ハッピーエンド。目指すのはそこだけだ。


 全員幸せに生きられる世界を作るんだ……。




    ★☆★



 全ての始まりの地。


 ここに、一人の宇宙人が落下した。彼方は、声にならない声で、必死になって叫ぶ。


「誰、か。誰か、助け、て……!!」


 その酷い怪我は大気圏を越えてきたから出来たものなのか、それとも落下の衝撃によるものか。はたまたその両方によるものか、それは分からない。


「待っててー! 今そっちへ行くから!!」


 落下を目撃した少年が、一人救助に向かう。

 その声を聞いた彼方は、朧気な意識の中で、微かに大切な友達を感じ取る。


「わた、し……やっと……やっと、だ、よ……」


 もう、声を出すこともままならない。けれど必死に声を絞り出す。彼方は少年に対して、言いたいことがあったから。


「やっ……と……会、え……──」

「君大丈夫!? もしもし、もしもしー!?」


 悲しむべきことに、その言葉を発することは出来なかった。

 一人の作者としてであり、そして、一人の恋人としての言葉でもある、その言葉。


 全てを伝えきることが出来ないまま、少女は意識を失った。




    ★☆★


 ――私の「ベガ」。あなたに私の身と心を預けよう。

 そうして私の「ルイ」と共に、この世界の真実を知り、記憶を取り戻して……。

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