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旧:英雄になる条件、教えてあげましょうか?  作者: 夢月真人
第1章「旅立ちと契約」
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英雄を志す者-4-

(身長は俺よりも二〇センチくらい低くそうだから、大体一五〇センチくらい。顔は少し幼い感じもするけど、個人的には結構可愛いと思う。年齢は多分、歳下かな。)


 嘘か本当か、いまいち状況が掴めないまま、成り行きで説明を受けることになった所為か。全く身が入らないラナは、真剣な表情で話す少女の観察をしていた。


 最初は話し方や立ち振る舞いから歳上だと感じていたのだが、外見や声だけで判断すれば、歳下に思えなくもない。むしろ、その方がしっくり来る。


 しかし、少女が歳下なのだとしたら、ラナは年下の女の子に哀れまれ、罵倒されていたことになる。それはあまりにも情けない。


 そう思った途端、木々の隙間を吹き抜ける風の音が、情けない自分を嘲笑っているような気がした。


 だんだん自分が惨めに思えてきたラナは、人間観察から天体観察に切り替え、少女の背中越しに見える夜空を見上げながら、現実逃避することにした。


(今日は一段と星が綺麗だなあ)


「ねえ」


 話を聞いていないことに気づいた少女が呆れ顔で声をかけてきた。


「君、さっきから間抜け面して私のことジロジロ見てるみたいだけど、ちゃんと話しを聞いているのかしら?」

「えーっと、それは……」


 当然、説明を聞いているはずもなく、うまい言い訳も見つからない。正直に聞いていなかったと言えば良かったのだが、少女の放つ鋭い眼光を前にして、容易なことではなかった。


 何とかこの場を取り繕わなければと思考を凝らすも、気不味い沈黙の時間が流れるだけだった。


(ヤバイ……。絶対に怒らせちまったっしょ)


 少しの間、斜め四十五度上の方から突き刺さる怒りの視線を額の生え際付近に感じながら、視線を合わせないように少女の足元をジッと見つめ沈黙を守り続けた。


 しかし、少女は特に何か言う訳でもなく、同じ姿勢を保ったまま何もしてこない。逆に怖すぎてこれ以上は、耐えられそうにない。


 恐る恐る少女の顔に目をやると、予想に反して微笑みを浮かべながらラナを見つめていた。


(な、なんだ。そんなに怒ってないじゃんか)


 ほっと胸を撫で下ろし、少し引き攣った笑顔で答えると少女は何事もなかったように説明を再開した。


「この世界には、大きく分けて三つの種族が存在しているわ」

「三つの種族!? 人間以外の種族がいるのか!?」

「いるのか? やっぱり私の話を聞いていなかったみたいね」

「あ……」


 少女は笑っていたわけではなかった。怒りのあまりに顔をが引き攣りすぎて、微笑んでいるように見えていただけだ。


(大バカ野郎! 俺はなんてバカ野郎なんだ!)


 あまりにも衝撃的な内容に対して、条件反射的に聞き返してしまった。それもこれもバカ正直な性格が仇になっていることは、ラナ自身が一番よく分かっている。


「はあ。君って嘘がつけないくらいにバカなのね」


 さすがに呆れた様子で溜息を漏らしながら言った。


「すみません、話を聞いていませんでした。説明の続きを――」

「続き?」

「はい。続きをお願いします」

「同じことを話すのも面倒だから、これを読んでくれるかしら?」

「わ、分かりました!!」


 素直に最初から謝っておくべきだった。

 明らかに説明する気が失せている少女を見るや否や、夜空に描かれた三種族についての説明文を一字一句漏らさずに読み進めた。


≪神族≫

 彼らは万物を作り出した創造主であり、世界の秩序を保つ楔。そして、全ての理を導く存在。


 その存在は絶対であり、この世界では観測者の役割と封印者の役割を担っている神が複数体存在している。


≪魔族≫

 強大な魔力を有する者たち。

 魔族の中には多数の種族が存在し、四大魔貴族を中心にそれぞれのテリトリーで生活をしている。


≪人間族≫

 この世界の多数を占める種族でありながら、何の力も持たない下等で非力な者たち。


 一通り読み終えたが、この興味深い内容が本当のことなのか、まだ信じることができない。何度も読み返すが実際に見たことも聞いたこともない種族の存在に謎が深まる一方だった。


 ただ一つだけ、嘘でも本当でも納得できないことがあった。


「あのさ」

「なに?」

「何で人間が下等で非力な者たちなんて描いたんだ?」


 そう。ラナが納得できなかったのは、人間に対する説明書きについてだ。


 真面目に話を聞いていなかったことに対して申し訳なく思っていた気持ちも薄れ、逆に怒りを覚えたラナは先程とは打って変わって、とても真剣な面持ちで訊ねた。


「愚問ね。この世界で、君たち下等な人間には何も成し得ることが出来ないわ。事実を書いて何が悪いのかしら?」

「じゃあ、今まで世界を平和に導いてきた英雄たちは人間じゃなかったって言うつもりなのか?」

「いいえ。今までの世界を救ってきたのは人間族よ」

「だったら、あんたの言う事実と矛盾してるんじゃねえのかよ!」


 ラナは声を荒げ、凄い剣幕で少女に詰め寄った。


 人一倍、英雄に対する憧れが強かったラナにとって、人間を侮辱することは英雄を侮辱することと同義だった。


 例え、それが作り話だったとしても、世界を救った英雄を下等で非力な存在だと罵られるれることは、どうしても許せなかったのだ。


「昔とは状況が違うのよ」


 怒りに震えるラナに対して、少女の返した言葉は意外なものだった。


「状況が違う? どういうことだよ」


 時の流れと無知な男は等しく残酷なものだ。


 世界は刻々と形を変え、そこに生ける全ての者の常識を覆し新たな理を生み出していく。まるで破壊と創造を繰り返すように。


 目まぐるしく移り変わる世界のすべてを知る少女は、何も知らずにのうのうと生きてきた哀れな少年に真実を告げる。


「今まで英雄たちが救ってきた世界は元々あなたたち人間族だけが住む世界だった」

「だった?」

「半年前、この世界は別の次元に存在していた三つの世界が強制的にひとつの世界にされたわ」

「は? 世界がひとつにされたって、そんなことがあったら普通に気づくだろ!」


 今まで、特に何の変化もない平凡な毎日を過ごしていたラナにしてみれば、自分の住む世界がそんなことになっているなど、到底理解できるものではなかった。ただでさえ、人間以外の種族がいるということさえ受け入れられていないのに、三つの世界が一つにされた話など寝耳に水だった。

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