ねっちょり魔法のおそろしさ
4年生になった。いよいよ今日から魔法が使える。属性はなにかな。水がいいよな。困った人にお裾分け。喉が渇いてもへっちゃら。光もいいな。夜、暗くても平気だもんな。土でパパッと食器つくるのもいいな。ゆくゆくは秘密基地を…。
火は危ないからやだなぁ。使い道もないもんなぁ。
おっと、いよいよだ。
校舎に挟まれた中庭に生徒たちが並んでいる。
先週までは満開だったらしい花を散らせた大木の前に、白い布で陣を張り、1クラスがその前で2列横並びに座っている。残りのクラスは立ったまま並び、中庭に入りきっていない。
さて、今ここで行われているのはなにかと言えば、魔法の適性チェックだ。
大木を囲うように張られる陣に居るのは二人だけ。指導員の教師と生徒、一対一だ。
チェックの方法はこの大木が落とした実を使う。笠のついた実は、それを取ると薄い殻を覗くことができる。中にあるのは5つの実。
実を取り出した後1つくわえ、右手に笠を持ち、左手に殻を持ち、実を噛み砕く。
水属性なら殻に水がたまり、光属性なら笠が緑色に変わり、土属性ならどちらも干からびて粉に、火属性なら、燃える。危険だ。
教師は椅子に座ったまま次の生徒を待つ。
「よろしくおねがいします」
「はい、じゃあ落ちてる実を一つ拾って」
「はい」
少年は最初に見つけたものを使うと決めていた。それに意味はないのだが少年期特有の願掛けのようなものなのだろう。
ゴリッ
水ならばコポコポと、光ならまばゆく、土なら握った手の中に変化が起こる。
なにも変化のない少年に、手のひらで炎がくすぶっているのかと水魔法を構え近く教師。
と、その動きに音をつけるなら、ねっとりとか、ねっちょりとした魔法が発動した。
少年の体からあふれ、高波のような形をして教師に覆いかぶさる。
少年の変化に注視していたからこそ見えた魔力による歪み。とっさに後ずさりするも水魔法を発動していた左手をかすめると、消えた。
発動していた水も、右手に触れたあとねっちょりと滴っていたソレも。
「これは消去魔法でしょうか。珍しいですね」
「消去魔法ですか、というとやっぱり…」
「そうですね、希望じゃないでしょうが予備科に編入です」
「はあ…」
その後、予備科から軍へと進む少年だったが、幸いなことに戦争に参加することはなかった。主な働きとしては、火災消火後の水の除去や、不法建築の撤去といったことに街を周って忙しく働き幸せな生涯を終える。
だが、物語はここからはじまる。そもそもアレは消去魔法ではなかった。魔力を食らう生命体だった。
彼の魔法は世界初の召喚魔法であった。
彼の死後、各地の作業で役目を終えて眠りについていたソレは、鎖のなくなった獣のように、魔法で作られた壁を、大河に架かる橋を、そして発動しようとするその時を狙い街に潜伏した。
ここから、人類とソレの戦いが始まることになるのだが、それはまた、別のお話。
以前投稿したものです。
読んでいただきありがとうございます。
評価よろしくお願いします。