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番外話:不思議な新人

10 番外話:不思議な新人






「それじゃあ、よろしくお願いするよ。俺、依頼がどんな物があるのか見てくる」


そう言ってメイド服のような、ドレスのような、よくわからないフリフリの可愛い服を着た若い新人冒険者のメープルさんは、青空受付から立ち上がった。


-服と同じで変わった人だと思う。


-初めて登録してすぐに頼んだことが「冒険者組合の宿屋を直すことに出資したい」だなんて。


-------


冒険者組合トルデン事務所。

王都から馬車で2週間ほど離れた田舎にあるここは、冒険者組合の中でも屈指の辺境担当だ。

トルデン自体は田舎の町にしては、人も多く賑わいのある場所なのだが、辺境故、ここの冒険者組合の仕事は本当に『冒険』する仕事が多い。


王都周辺ではあまり凶暴な野生動物や強いモンスターが出没しないため、冒険者組合の仕事は日雇い労働者の斡旋所のような物だが、ここでの仕事は主に凶暴な野生動物の駆逐、村や町をモンスターの襲撃から守ること、そしてそれらモンスターや動物達から得られる素材類を買い取ったりする事。


命がいくつあっても足りない。と、事務員達は常々思っているのだ。

4割の死亡率ももちろん嘘じゃない。

もちろんそれと同時に、一つの仕事の儲けは大きいのだが。



-持ち主のいなくなった証明証を『処理』する回数が増えるほど、私たちが冒険者達に対して親身になる事は少なくなった。

-初めの頃はやりきれなくて何度も先輩とお酒を飲んだが、今ではすっかり慣れてしまった。




「変わった子だったわね。王都から移ってきたお金持ちかしら?」


客のいなくなった青空受付で、隣に座っている黒髪ボブカットの先輩受付嬢が首をかしげながら呟いた。


「マール先輩。出資って言いましたけど、これただの寄付みたいなもんですよね?」

「なんの得もないのにね。商人らしくも無いわ」

「一億ゴルなんて、組合長戻ってきたら大喜びしちゃいますね」

「本当。ベリルの母さんも喜ぶんじゃない?宿屋の仕事暫く無くなるって昨日宴会で荒れてたじゃない」


ベリルの母は崩れた宿屋「緑の翼亭」で、冒険者組合に雇われて宿の業務をしていた。

昨日はゴーレムに驚いて物陰に隠れていたところ、上からゴーレムが倒れてきてあわやとという事態もあり、ベリルは随分肝を冷やされた。


「出来そうな仕事は、なんでも受け付けるのが冒険者組合の取り柄だからね。事務所と同時に建て直しが進むわ」



そう言ってマールは崩れた元組合事務所だった瓦礫の側に積んである、事務道具をいれてある木箱を探り始めた。


「何か探し物?」

「拡大鏡を…ああ、あったあった。さっきの子の登録用の『スキルリスト』見たでしょ?あれ何だろうって思って」


そう言われて、ベリルは妙な依頼の事ですっかり忘れていたメープルのスキルリストの事を思い出す。

冒険者組合の支店に支給される『技神の宝具』は、王都の有名な錬金スキルのマスターランクの方が作っていると言われるマジックアイテム。

おでこに付けるとその人の有用なスキルを、紙に書きだしてくれる便利な物だ。

それと同時に証明証となる銅板に、何処の誰だという秘密の情報も書き込んでくれる。


この道具のおかげで、昔は自己申告制だった組合員のスキルが正確に組合に把握されるようになり、特定のスキルが求められる仕事を、正しく依頼できるようになった。


普通の人のスキルリストはそんなに量がない。剣での戦闘の得意な冒険者だったら『片手武器修練』『両手武器修練』『近接戦闘修練』『ウェポンバッシュ』あたりだ。

それにスキルをどれだけ使いこなしているかの目安になるランク付けがされる。

一番下のJ、そこからIHGFEDCBAと上がっていく、10段階評価だ。

そしてスキルのマスターランクになるとそこから更に上のMの記号が付けられる。


ただし、この評価にも盲点がある。

冒険者を始めたばかりの細い子供のウェポンバッシュJと、身体をしっかり鍛えた大人のウェポンバッシュJではやはり差がある。

身体の力の強さや武器の良さなどは考慮されていない、スキルのみの評価である。

それがスキルリスト。


「わ、なにこれ?字細か!みてよベリルぅ…気持ち悪いわぁ」

「それ、字なんです?…もしかして全部スキル?」


マールは嫌な物のように拡大鏡とメープルのスキルリストをベリルに押しつけた。

受け取った拡大鏡で紙を見れば、本当に細かい字で大量のスキルが羅列で印字されている。


「なにこれ…全部Aだし。技神の宝具壊れてるんじゃない?事務所壊れた時にも中にあったんでしょ」

「確かにそうだけど…ちゃんと保護箱の中に収めてあったのに」


「まあいいや。技神の宝具が壊れてましたって、組合長に私から言っておくわ。メープルさんは…スキル無しって事で」


青空受付の裏に置いてある木箱型の書類入れに、メープルの登録用紙がポイと投げ込まれた。


「いいの?」

「いつもの脅しであれだけ反応してたんだし、無茶な仕事受けないでしょ」

「それもそうね」


そうしてメープルの話題は終わった。

話題の本人はまだ依頼掲示板の所で難しい顔をしているが、大体の目星はついたのか、指さし確認をしていた。


…不思議な人。

…冒険者組合なんて働き口の無い人の最後の砦のような所なのに。


…お金もある、身なりも綺麗、教育も受けてそうなのに何をするつもりなのかしら?


冒険者に感情移入しないようにしていたベリルだが、不思議とメープルの事は気にしてもいいと感じてくるのだった。







※今回のMSOネタ


「○○武器修練」


ほとんどの武器にこのスキルがある。

刀剣に限らず、格闘用のナックルダスターや魔法の杖や司祭用の杖などにも存在する。

ランクを上げることで、その武器を持つ系統のスキル威力の底上げをしてくれる地味で重要なスキル。


これを上げずに見た目が派手なスキルだけ伸ばしてしまい、威力がショボい事を悩むのは初心者ではお約束。

「なんか△△さんのヒーリング回復量少なくない?ランクAなんでしょ?」

「ちがうよ、今日は…その、いつもの杖が修理直前でね」

「ふーん(修練あげてないなコイツ)」


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