第十六話 退院
退院の日。途中の逃走により、入院の日が伸びたけど、私にとってはいろんな意味でいい日数稼ぎだった。
コンコン
早めに着替えて院長室を尋ねる。
「はい」
「失礼します」
「ああ、アリスちゃん。そういえば、今日退院だったね」
書類の山と戦ってるおじさんが顔をあげて言う。きっとこの前の地震の時のものだろう。
「はい。あのお世話になりました。あと、ご迷惑かけました」
「アリスちゃんも大きくなったなあ」
いつの記憶だよ、おじさん。私もうかなり大人ですけど。というか私のイメージって。もう、そのイメージ通りで押し切ろう。
「あの、おじいさんお願いが…」
「ん?どうした?うちで働くかい?あー、うちは心療内科ないんだよねえ。」
あ、さらっと私を受け流したな。
「八雲先生を西園寺にスカウトしようかと、思って。おじさんの許可はわざわざいらないですけど、一応お耳にいれておきたくって」
「八雲!いやそれは困る。まだまだ華音では…」
おじいさん途端に焦っている。ホープを取られたら困るんだろうけど、ここでひけない。
「おじさん知ってるでしょ?翼じゃあ、まだ経験が不足してる。それに他の医者も全然ダメ。近くの西園寺がこんな状態ならこっちに負担がかかりますよ。それにおじさんの目指してる医療はここだけで完結しないでしょ?この前のがいい例だった。」
「あ、ああ」
「八雲先生に翼も、そして他の医者もみんな鍛えてもらって、西園寺をおじいさんが望んだ病院にしたいんです。お願いします」
これは本音だった。私の使命はそれなんだから。
「わかった。じゃあ。八雲君には」
「私から話ます」
おじいさんは諦めたようだ。祖父の話をしたからかもしれない。一緒にこの国の医療の向上を目指していたんだから。
「あ、あと華音じゃあ、のくだりは…」
「華音には黙ってます」
華音がまだ怖いようだおじさん。
「では失礼します」
部屋に戻ると類がいた。そんなにここ来ていいの?私の顔を見て安心したようだ。もう逃走しないって。
「あ、アリス!あ、じゃあ、今から会計行ってくるな」
慌ててバタバタ出て行く類。類の気持ち今でもわからない。
コンコン
「はい」
八雲先生だ。良かった。話出来ないと困るとこだった。
「退院だね」
相変わらず優しい笑顔。
「はい。お世話になりました。あの、ちょっといいですか?」
「え?あ、うん」
類の慌てようだとすぐに戻ってきてしまう。大事な話だし、ゆっくり話をしたい。患者医者ではなく。
「あの連絡先です。時間あいたら連絡もらえます?ちょっとお話があるんで」
そこにある紙に電話番号を書いて渡した。
ん?あれ?これって…。
八雲先生の顔をどんどん赤くなる。あ、いや、違う。私の顔も赤くなっているだろう。顔が熱い。
と、そこに類。ガラガラっと開けて入ってくる。
「アリス、終わったよ」
この場の雰囲気気にせず入ってくる。八雲先生に気付いて声かける。
「ああ、先生お世話になりました」
類…気付いてないし。鈍感にも酷すぎ。道理で私の気持ち踏みにじる訳ね。
「荷物これだけか?」
「あ、うん」
「アリス先行ってるぞ!」
「あ、はい」
ん?気付いてるの?類は私の荷物を持って部屋を出て行く。
「あの、じゃあ」
「あ、うん。連絡するから」
「あ、はい」
私は恥ずかしさもあってそのまま部屋を出た。
類の運転する車で帰る。どうやら類は本当の鈍感男のようだ。
翌日から、私は医者に復活した。もちろん研修からはじめてる。
数日後八雲先生から連絡がきた。結構時間かかったな。救急だからかな。
とか、いろいろ考えて、あ、これってやっぱりそっちだと思ってるよな。
うう、顔合わせづらい。自分でしたのに、バカ私。
次が最終話です。




