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第十四話 遺言

「アリス!」


 名前を呼ばれて目を開けると、そこにいたのは類だった。


「あれ?類何でここに?」


「病院に行ったらここだってメモ見たんだよ。それ!大丈夫なのか?忙しいそうなんで誰にも聞けなかったんだけど」


「あ、うん。翼に診てもらったから。下は?」


「大混乱だよ。まあ、院長がマニュアル見ながらがんばってるよ」


 はあー。と息を吐く。


「アリス。やっぱり戻るんだな」


「そうなりそうだね。今回の事でよくわかった。私には責任があるんだって。ずっと逃げてたけどね」


「血が苦手だからか?」


「それはそうなんだけど。逃げてたのは恋愛かな」


「はあ?」


 当の本人がはあ?って。


「このまま恋愛できずにレールに乗せられるんじゃないかって、思ってた」


「アリス…」


「類への気持ち変えられないまま、誰かと結婚させられるんじゃないかって怖かった」


 私が恐れてたのは類を想い続け、そのまま自分の気持ちを捻じ曲げることだった。


「アリス、でも、院長にこの西園寺の院長になることだけだろ?遺言は?」


 まだ、祖父は亡くなっていない。けれど、ずっと植物状態にある。祖父が死を迎えるまで私は逃げ回るしかないと、思っていた。


「そうだけど、血が苦手だから心療内科医よ?しかも女で。絶対に医者と結婚を押し付けられる、っていうかそういう話大学時代から何度もあったし」


「そうなのか?」


 類の知らないとこでね!


「そうなの。でも、やっぱりおじいさんの言う通りおじさんでは無理ね。ドクターヘリもおじいさんがせっかく作ったのにほとんど使われてないし、救急も翼以外はって感じだし。翼に期待してたんだけどなー。おじいさん直系じゃないからって、男の翼じゃなくて女の私を指名するなんてね」


「アリス。翼とその…」


 今の会話の流れってそう取れる?


「翼は信頼できる医者として働いてもらう。遺言通り私が継ぐ。まあ、すぐにじゃないけどね。おじいさんまだがんばってるしね」



 と、またここにノックの音。



 トントン



 誰?

「はい」


 とりあえず返事した。おじさんならノックしないし。翼ならすぐに入ってくるだろうし。


「失礼します」


 入ってきたのは八雲先生!?

 え!?なんで?


「鏡野さん困るよ、いなくなって」


「いや、それより先生の方が」


 なんでこんなとこにいんのよ。


「西園寺病院から医者の派遣を要求されて僕が志願したんだ」


「あ、院長なら多分下に…」


「ああ、お会いしてとりあえずここに来たんだ。今から救急に入る」


 と私の服をめくります。


「あ、あの」


「血が出てる。ガーゼを交換してるけど、まだ出てる。下が落ち着きしだい診るから」


「はい」


「それまで大人しく寝てて」


「はい」


 八雲先生はサッと部屋を出て行く。


「ふーん。アリスの気が変わったのって」


「うるさい!」


「相手が医者なら問題ないもんな」


「もう。寝ます。類も働いてきたら、いちおう西園寺系列なんだから」


「なんだよその系列って」


「だって居たら寝れないもん」


「本当に寝なくていいだろ。都合のいい解釈しやがって」



  *



 震度の割に大きな被害が少なくて済んだようだ。院長室のテレビで確認する。あれから類は張り付いたようにそばにいる。もうどこにも行かないってば。




 ノックの音がした。



 コンコン


「はい」


 なんか私の部屋のよう。

 八雲先生だ。



「鏡野さん診るんで下まで運ぶから」


「あ、はい」


 立ち上がろうとすると、ふわりと八雲先生に抱きかかえられた。

 え!?


「まだ、余震の可能性があるから階段だからね」


 いやでも、先生が運ぶことないんじゃ。

 とか思いつつ運ばれて行く。恥ずかしいお姫様抱っこじゃないこれって。まあ、傷があるからこうなるんだろうけど…。



 と救急に到着。あ、ダメ傷口見える。


 きゃあ、周りもすごい血だし。


「本当に苦手だね」


 笑ってます。この前の仕返しじゃないかと思えるよ。

 手際よく処置を続ける。やっぱり噂通りだな。



 その後は気を失ってまた記憶がない。どうやら大混乱だったので西園寺での病室を確保するのが難しかったみたいで、もといた部屋へと戻されていた。

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