第十ニ話 アリスが刑事になった本当の理由
あー。暇だな。少しは動けるけど行くとこもないしな。
と、暇を持て余していたらノックの音が響く。
コンコン。
「はい」
入ってきたのは桜田さん戸田君だった。
「あ、お久しぶりです。今大丈夫なんですか?」
「ああ、近くに現場があってついでだ」
「桜田さんそんなついでだなんて」
戸田さんは持っていたケーキを持ち上げ私に目配せ。
「ケーキですか!」
こっちからフルしかない。全くいつもぶっきらぼうなんだから。
そうか、二人は組だんだな。富田さんも私もいなくなったから。
いいコンビだ。
「俺飲み物買って来る。戸田お前用意しとけ」
「あ、はい」
桜田さん意外と甘いもの好き。私をだしにしてよく食べてたもんな。
戸田さんはテキパキ動いてる。
「どう?桜田さん?」
「え?ああ、うん。上手くやってるよ」
まあ、年の差近くなったしね。
戸田君年の割には大出世になる。事件を街のお巡りさんの頃に解決したんだったっけ?
見た目とか雰囲気と違って優秀なんだよね。腰低いのになあ。
「戸田さんは上手くやってけるね。組織と」
「鏡野さんが破天荒すぎるんですよ。全く鏡野さんがいなくなって、僕の書く始末書の数どれだけ減ったか」
ああ、それは桜田さんもだろう。
「ごめんなさい。迷惑かけたね」
「でも、楽しかったですよ。パズルのピースみたいな謎かけ」
そんな謎かけしてないんだけど…まあ、いいか迷惑なだけより。
ドアがあき桜田さんが顔を出す。
もう戸田君の好みも私の好みも知ってる、一番年上なのに使いっ走りを当然のようにする。
「戸田、まだか?」
乱暴な口調にすべてを隠して。
みんなの近況を聞いて過ごした。いいのかな?こんなに時間をとっても。
ケーキを食べ終わった頃に、桜田さんが話し始めた。
「富山さんだけど、お前あの日ワザと横に乗ったんだな?」
「あ、」
しまった。桜田さん手にのってしまった。
「やっぱりな。富山さんの視界が狭くなってるの知ってて。戸田を乗せないためだろ?」
「すいません。私判断ミスです」
「富山さんの奥さんから伝言だ」
私は息を吸い込む。
「主人に付き合ってくれてありがとう。最高の刑事人生だった思います。だってよ」
「……」
いろんな責められる言葉を予想してたのに。
「鏡野、まだ辞表は出してない。その事が原因なら戻って来い」
「え!?」
まだ私は刑事だったんだ。
「いえ、それだけじゃないです。もう刑事は…向いてないってわかりました」
「でも、鏡野さん事件を解決してるじゃ…」
「それは組織のプレーから外れてた。組織のルール守らないといけない、いけなかったって痛感した。けど、また私は脱線する。きっと」
「ルール守ってる鏡野は想像出来ないな」
「あーまー」
戸田君ふんわり同調してるし。
「はい。なんで提出お願いします」
今度は起き上がっていたから頭を下げれた。今までの事も含んだものだ。いろいろ迷惑かけました。
「鏡野、お前いい刑事だったよ」
桜田さんは立ち上がり戸田さんも慌てて立ち上がった。
「じゃあ、な」
「じゃあ、鏡野さんお大事に」
「二人とも体大事に!」
なんと声をかけていいか、わからなかった。言いたいことは山のようにあったが、どれも口に出さなくても二人はわかっている。
*
また、一人の病室だ。そういえば今日は八雲先生こないな。
まあ、主治医でもないんだし、くる必要はないんだから、来なくて当たり前か。
暇だな。窓の外を見る。昔はよくこうして空を見たな。色んな色になる空を見ていた。もう夕暮れ、空は真っ赤に染まっていて部屋の中まで赤くする。
走り切れると思ったのに、刑事として。意外に早く息が来れた。この真っ赤な空を走りたかった。刑事として。
刑事になったのは類から逃げる口実だったけど、子供の頃からの夢でもあった。
父の検事に犯罪者を送ること。証拠も揺るぎない自白も証言も。父が愚痴っていたのを思い出す。刑事が送ってくる証拠で戦わないといけない辛さを。
私が送ってやるんだと、小さな私は思った。




