第十一話 八雲の絵の才能
傷を見る勇気が持てない。ああ、嫌だな。と、そこにノックの音が響く。
コンコン
「はい」
ドアが開くとそこには八雲先生だ。
「今日は、どうした?」
私の表情を見て気づいたみたい。
「傷がどうなってるか心配なんだけど見れなくって。怖くて」
「ああ、じゃあ、僕が見てあげようか?」
え!?いやそれは、あの。と私が困ってるのには気づかず布団をめくる。医者だからね。平気なんだろうけど。
「確か傷はこの辺だったよね」
パジャマの上から確認されてる。うう、断れない。
「じゃあ、失礼するよ」
優しくパジャマを捲り上げてテープを取って行く。もうジタバタしても意味ないし。
傷が見えないように後ろを向く。あ、あれ?そういえば毎日のように様子を見にきてくれてるけど・・・私の名前のプレートの主治医は華音である。もちろん縫ったから。華音より頻発に来てくれてない?
「大丈夫だよ。僕がみた傷の場所だけだったし、綺麗に縫われてる。時間がたてばそう目立つ傷じゃあなくなるよ」
「あ、ええ、はい」
「刑事だったのに、傷見れないの?自分のだけ?」
「いえ、他の人もダメなんです。だから、殺人課に行けばって思ったんですけど、死体なら大丈夫なんで。だけど、死体相手ばかりじゃなくって」
この前のショッピングモールの事件を思い出す。血だらけの道を進んで行く。今だに忘れられない。
「じゃあ、あの時顔色悪かったのはそのせいか」
あの時とはショッピングモールの時だろう。
「ええ。まあ」
「まあ、あれは誰もがそうなるだろうけど」
あの先生、服がそのままなんだけど。
「あの、もう」
「ああ、そうだったね」
八雲先生が傷を覆うガーゼのテープを止めていく。う、肌に何気に当たる指が。
すべてを戻した後先生はその辺の紙に傷再現するように書き出した。
「下手、下手過ぎてわからない」
思わず笑ってしまう絵の下手さ加減。傷めっちゃ大きいし、それはないでしょ。説得力ゼロの画力だな。
笑過ぎで傷が痛い。
「ごめん。君があんまり気にするから」
涙を吹きながらお腹を抱えてたら、ノックの音とともに翼入ってきた。
「アリス遅くなった。あれ?華音じゃないの、担当?」
「ああ、ん。現場に来た先生。八雲先生」
「あ、アリスがお世話にになりました」
「いや、僕はたいして。じゃあ、失礼するね。笑過ぎで傷がひらかないように。じゃあ」
八雲先生はさって行った。そんなに慌ててさらなくても。
翼に何をそんなに笑ってたんだと聞かれて、話しをした。
「えっ?俺も見てやるよ」
「えー。やだよ。翼ストレートに言いそうだし」
「ストレートな答えに期待してるんだろ。だから、誰に言われても納得できない。」
ああ、もう。そうよ!母に聞いても父に聞いても華音に聞いてもみんな同じだった。さすがに類には頼めないし、しゃあない。翼でいいか。
「お前なんかふりきっただろ」
「え!ううん。じゃあ、翼先生お願いします」
医者なんだし、気にしないとこう。
「え!?どこだよお前」
ああ、そうだった。パジャマをめくる。
「ここ」
「めっちゃ体じゃないか」
だから気にしてるんでしょ!?
「早く!」
「はいはい。」
テープを取って行く翼。やっぱり感覚違うなあ。
「うーん。これならアリスも見れるんじゃない?」
「本当?」
完全に見えない方を向いてる私に翼が言う。
「うん。練習してるときよりまだ小さいし綺麗だよ。さすがに華音だな」
傷の縫い方に感心してるよ、この根っからの医者め。
勇気をふりしぼり傷を見る。背中にも傷はあったが、本当に思ったより浅く小さい。どうやら本当に反射的に逃げたみたい。
「うん。本当。ありがとう。翼」
その私の声で翼はテープを止めていく。
「何をあんなに笑ってたんだよ?」
最初の疑問に戻る翼。
「ああ、これ」
「なんの絵だよ」
紙を見て翼は紙をいろんな角度にひっくり返す。最後は首を傾げてる。
「さっきの先生の絵だよ。私の傷の」
翼と目が合い笑う。ああ、マジで痛い。
「アリス、傷に悪い。忘れろ絵」
「わかってるけど、絵心ないにも程があるでしょ?」
「大丈夫なのか?こんなんで?」
絵をマジマジ見つめる翼。
「絵心は関係ないんじゃない?それに救急救命に華音といるのは何かを見込まれてよ」
「へー。あのおじさんがね」
「そ、あの華音のおじさんがだよ。よっぽどだね」
翼は念のため私に見えないように伏せてテーブルに紙を置いた。
「なあ、戻ってくるのか?」
「うーん。ちょっと時間をちょうだい。疲れたいろいろあったし」
「そうだな。まあ、アリスが戻ってくるのはまだまだ先だと思ってたしな」
「そうなの?」
「この前のお前の様子見てたらな」
「そ、そっか」
翼は立ち上がり頭を撫でる。なんでみんなそれすんのよ!
「じゃあ、お大事に!笑過ぎんなよ」
「自分も笑ってたくせに!」
「またくるな!」
もう翼は向こうを向いて手を振っている。
「うん。また」
翼は出て行った。




