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八話

「エミ、着いたよ…エミ。起きて。」


囁くようなルイ君の声を聞いて、私は初めて自分が寝ていたことを知った。


まさか本当に寝てしまうとは…。


「んー…。」


私は起き抜けにそう返すと、先に車を降りたルイ君の背中を追って車を降りた。


彼に続いて狭い自動ドアをくぐると、急な階段が姿を現して私は絶句した。


ルイ君は無言でヒョイヒョイ先へ進んでいく。


私は姿を見失わないように急いで駆け上がった。


別にどんな部屋がいいかとか、お互いに何もするつもりがないから、ただボケーッと内装一覧のパネルを見ている私の横で、ルイ君がテキパキ選んでくれていた。


部屋が決まると、彼は私に声をかけることもなく足早に目的地へ向かう。


「…あ、待って!」


そう声をかけながら彼の背中を追って小走りでついていくと、先にドアを開けて待ってくれていた彼が、唇に人差し指を押し当て


「…静かに。」


と小声で返した。


私は思わず両手で自分の口を塞ぐと、彼が開けてくれた扉の中に入った。






私がブーツを脱ぎ終わり、部屋に上がりこむのを確認した彼が、遅れて部屋に入り、扉をしっかり閉めた。



(なんていうか、身のこなしが随分紳士的になったなぁ)


私はそう思いながら、片手に持っていた道具の入った紙袋を部屋の中央にあったテーブルに置いて、そばのソファーに座った。…私の目の前に、ガチャピンのフワフワしたポーチがずいっと現れた。


「じゃ、よろしくー。」


「わ、びっくりしたぁ!てか可愛いね、このポーチ。」


「でしょ。触り心地が好きなんだ。」


といいながら、部屋に備え付けてあった無料の紙コップ式の自販機で珈琲を淹れる彼。


「じゃ、失礼します!」


私は中身がこぼれ落ちないようにゆっくりファスナーを開けて、バラバラになったブレスレットを取り出した。


「これ、ガーネットだ。とってもきれい…。」


「ふーん。どんな意味?」


「起業したい人が持つと、成功へ導いてくれる石だよ。ただし、死ぬほど頑張ってる人にしか力を貸してくれないの。」


「ふーん。高いの?」


「これだけの質なら、万単位かなぁ。素敵なものを戴いたのね。大事にするといいよ。」


「そ…っかぁ。」


「他にも血行促進にもよかったり、………あ!」


「なに?」


私が大声を出したから、彼がけげんそうに聞き返してきた。


「…いや、これはいいや!別に対した意味じゃ…」


「話してよ。」


「~~~~!一説には、この石を持つと性欲が強くなる…んだって。一説にはだからね!!科学的に実証されてないし!!」


「へー。(笑)」


「はいっ!できた!」


私は、何か言いたそうな彼の目の前に、直したブレスレットを差し出した。


「え?早い…」


私は、驚く彼に背中を向けてテーブルに出した道具を紙袋に戻しながら、


「だから言ったじゃない。すぐ直せるって。」


「まさかこんなに早く直せるなんて思わなかった…。」


(もう。失礼しちゃう。)


…なんて思いながら、ふわりとソファーに腰掛けた。すると、テーブルの上に置いてあった彼の携帯電話が光っていた。


「ルイ君!ケータイ光ってるよ!」


「あ!やっべ!サイレント設定を解除してなかった!」


彼は慌ててケータイを手にとると、一瞬呆れた顔をしてケータイを耳にあてた。




…どうやら電話だったみたいだ。


彼の口振りから、昔馴染みの友人からの電話のようだった。


私は邪魔にならないように静かに待っていると、話が終わった様子の彼は電話を切ったあと、最悪だ。と呟いた。


私がきょとんとしていると、彼が珈琲を飲みながらソファーの近くまできて、


「お前ベッド使えよ。俺ソファー使うから。」


と言ってきた。


「どうしたの?」

と聞くと、


「俺、お前を迎えに行く前に、ツレといたんだけど、そいつが俺の車に荷物置いて帰りやがってさー。あいつ、今大学生だから翌日の講義で使う教科書が入ってて、届けろってさ。」


「え、じゃあすぐ此処出ようよ!どうせ居たって何もすることないし。」


「やだ。俺もとりあえず寝たいもん。仮眠とってから行く。」


「あっそ。じゃ私も寝ちゃお。…てかソファーじゃなくてこっちで寝なよ。ベッド無駄にひろいんだから、ルイ君が横にいても私は平気だよ。」


「…俺はソファーでいいや。ブレスレット直してくれてありがとうな。お前も少しでも寝ろよ。疲れたろ。」


「ありがとう。じゃ、お言葉に甘えて!」


と、私はきれいに整えられたベッドの掛け布団をめくって、その中へ滑り込んだ。


すると彼は、


「じゃあ俺は今日の分の筋トレするかな…。」


というと、ソファーの横で腕立て伏せを始めた。


(筋肉バカ…)


と思いながら、私は布団をしっかりまきつけて、彼に背を向けて目を閉じた。



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