四話
私がルイくんに連絡をしなかった理由は、たった1つ。
"連絡をしてもすぐに反応がない人"だから。
9月に連絡をとり合うようになってから、ほぼ毎日メールがくるけど、週に何度か電話がくるけど、私はルイくんと知り合ってから今まで、空白の時間を含めて6年の付き合いなのにも関わらず、こんなに短期間で頻繁にやりとりをしたことがただの一度だってなかった。
付き合っていた時でさえ、月に一度連絡がきたと思ったら、「今北海道の駐屯地にいるよ」だったり、年末に連絡したら「オーストラリアでカウントダウンに参加してるから電話切るね」だったり、彼に散々振り回された数年間だった。
正直、一週間前に彼がくれた言葉を素直に受け取らない程度には、私の彼に対する信用度は低かった。
そう。
彼はプライベートにおいて、絶対に期待させてくれない人だったのだ。
その信用できないところを、私は信用していた。
自分で言ってて意味不明なんだけれどね。
そんなわけで、私が恋人と話し合いの場を設けても泥沼化して、誰にも打ち明けられずに頭をかかえていた7日目の夜。
ブーブーブーブーブーブー…
携帯電話のバイブレーションが、それを放置したベッドの上で静かに鳴っていた。
5回コールじゃない。…電話?
私は慌てて着信相手の名前も確認しないまま通話ボタンを押した。
「もしもし!」
「で、彼氏と話は済んだ?」
「ルイくん?なんで?」
「何でって…。俺言ったよね?また連絡してって。そしたら一週間経っても連絡こないから、こっちからかけたんだよ。人の話きいてました?アナタ。」
「え、だって何だかんだ言ってすぐ返信してくれないのがルイくんじゃない。だから連絡しなかったんだよ。」
「俺どんだけ信頼されてねぇんだよ。まぁそうなんだけどさ。今まで散々お前を放置してきたからな。お前の判断は正しいよ。そして俺は悲しいよ。」
「あーハイハイ、ごめんね。
で、そっちの恋愛はどうよ?お姉さまに話してごらんよ」
私はさりげなく内容を彼の恋愛に切り替えた。
「え?お姉さん?どこ?どこ?」
と、すかさず惚ける彼にムカッときて
「ここ!ここにいるじゃん!お姉ちゃんここにいるじゃん!」
「オバサンの間違いじゃ「ルイくぅーん?」
たたみかけるように彼を呼んだ私に、彼は参ったと降参した。
「ごめん。…うーん。連絡とってないから、可もなく不可もなく。」
「そっかぁ。いつもそんなに連絡とらないの?」
「そうだね。そもそも向こうから連絡きた事ほとんどないし。」
「ルイくんってどんな子がタイプなん?」
「その台詞、そのままそっくり返してやる。」
「んと、私はねー「って答えるのかよ!」
と突っ込む彼に「答えますよ!」と突っ込み返した私は、続けた。
「背が高くて、手が大きい人!私の今彼がそうなんだよ!で、強引な人。強引に手つないでくれたり、ちゅーしてくれたら、本当に好きなんだって分かって、私は嬉しいから。」
「…俺も手おっきくしようかな」
…またコイツは、ワケのわからんことを言う。
「これは私個人の意見であって、世の中の女の子がみんな同じ好みなわけじゃないんだから、キミはキミの好きな子の好みを研究しなよー。」
「しかし女って男を好きになる部分が摩訶不思議だなぁ」
「男もね!キミ、クールなギャルが好きなんでしょ?」
そう。平凡な私とは正反対の、ハンサムガール。
「違うよ。俺は好きになった子がタイプだよ。ただし、どんなにタイプでも、刺青彫ってるか喫煙者かわかった時点て醒めるけどね。彼女は煙草を吸わないし、刺青も彫ってない。まぁ身体見たわけじゃないけど。でも、あの人は絶対やらない。エミもそうだろ?」
「まぁね。うちは父親が喫煙家だったから吸う気は起きないし、刺青は怖いから彫る気はない。」
…しかし、煙草も刺青もしないクールなギャルって、今の世の中にいるんですか?
あの安室奈美恵だって腕に息子の名前の刺青彫ってるのに。
「私がもし刺青入れるっていったら?」
「全力で阻止する!」
ぶはっ!と、思わず笑ってしまった。
時々こんな風に、子供っぽく話す彼が好きなんだ。
こんな私を大切に思ってくれて、人として接してくれる、男性で唯一の存在だから。
彼氏は、私に対して最近特に、身体目当てみたいな態度をとる…。
ルイくんは、私に絶対そんな態度をとらないから、まだ連絡をとっていられる。
だから、友達でいられるの。
…ああ、どうしよう。ルイくんに、会いたいよ…。
「………ねぇ、ルイくん。」
「なんだよ。人の話を笑ったくせにそんなしおらしい声出しやがって。」
ふてくされていた彼をそのままに、私は…言った。
「…会いたいってワガママ言ったら、怒る?」
「彼氏の話、か?」
「それもあるけど、会いたい…。ルイくんの顔を見たいの…。」
「それ、言うの俺だけにしとけよ。他の男が誤解する。あと、彼氏が可哀想。」
「こんなこと、ルイくんにしか言わないよ!私、男友達少ないんだから!それに、あの人は大丈夫。」
「どーだか。」
もう!と言いかけた私に、
「今からすぐ出る。20分で着くから、支度して待ってて。」
彼がとても真面目な声で指示してくれた。
「いつもごめんね。ありがとう。」
「あ、電話ごしに泣くなよ。泣くなら俺の前だけにしろ。じゃ、後でな。」
「ん…」
電話がきれた後、携帯電話を両手で握りしめて胸に抱いた。
彼の言葉を繰り返し、繰り返し、思い出しながら。