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三話

私は暫く考えても、彼のその台詞の意味が分からなかった。


『告れないって、どゆ意味?('_';)

もしかして今彼女と会ってるの?』


私の送ったメールから30分後に、


『会ってた、かな。』


と、メールが返ってきた。

過去形の文面…ということは、私と別れてすぐ会ってたなら…


『え、もしかして私の家の近所なん!?(@_@)そうならそうと言ってくれなきゃ、彼女が誤解したらどうするの?(>_<)私、ルイくんの車に乗っちゃったじゃん!』


すると、すぐに返信があった。


『楽しかったから、気にするなよ。』


…彼は優しかったけど、彼の好きな子に誤解されてしまったら彼の恋が終わってしまうと思うと、私は気が気じゃなかった。


『本当にごめんね(>_<)考えなしだったよ…(;_;)』


すると暫くして、


『…お前って本当に鈍感だなぁ』


…と。


今までこんな事なかったのに、久しぶりに連絡を取り始めてから時々会話が噛み合ってない気がする。


その日は私が睡魔に負けて寝てしまったので、会話が途切れてしまった。









―…3日後。

私はメールを送ろうか否か、悩んでいた。


というか、返答に困っていたのだ。


彼の最後の一言が、いくら考えても意味がわからなくて、なんて返したらよいのかわからなかった。


…ので、もう思い切って聞こう!


と、意を決して、送信。


するといきなり電話がかかってきた。


彼からだ。


(なんで?こんなに頻繁に連絡とる人だったっけ、この人…)


私は疑問を払拭できないまま鳴り止まない電話に出た。


「お前バカか!!?」


通話ボタンを押した途端に響く怒号。


私は一瞬ひるんでしまった。


「ごめん、本当に私バカなんだよ。全然会話が噛み合ってないからさ…。

ルイくんって何事もしっかり順序立てて簡潔に話すでしょう?

私はそれができないからいつもグダグダな話し方になるんだけど…」

「待て待て待て!」


私がパニクって機関銃のように話し出したのを、彼が被り気味に止めてくれた。


「俺怒ってないから。いや、まぁある意味ヤキモキしてるけど、とりあえず落ち着け。あと、お前はバカじゃない。…ってこんな話をしたいんじゃないんだよ。」


そう言うと、彼は電話の向こうで深呼吸した。


「…私、バカだけど鈍感じゃないよ?」


「じゃあ天然だ。」


「ちょいまて!天然というのはね、可愛い子のことをさしていてですね、私は可愛くないから天然じゃないの!間違えちゃだめだよ」


「いや、お前のその解釈が間違ってんだよそもそも。ってそうじゃなくて!」


「ああ、そうそう。そうじゃないよ、こないだのメールの話!なんなのあの意味不明な内容!もしかして誤送信?」


「それ…本気で言ってんの?」


「モチのロンよ!」


と、私は大真面目に答えた。

彼のため息が聞こえる。

大袈裟ね…と、私は頬を膨らませた。


もういいや。と、彼が言った。


「あのさ、告るのやめたんだ。あれからずっと考えてたんだけど、やっぱ彼女の気持ちを俺の余計な一言で乱したくない。もう決めたから。」


「なんで!?諦めないでよ!せっかくルイくんに好きな人できたのに…。応援させてよ…。」


「それよりも俺、まず先に気になること片付けておきたいんだ。


…エミ、お前…もしかして彼氏となんかあった?」







…内心、ドキっとした。


ルイくんは時々、唐突に私の心理を読んでくれちゃう人だった。


私の救助信号をどんな場所からも感知してくれる、万能の最新機械みたい。


「…なんでそう思うの?」


「彼氏とうまくいってるなら、俺からの電話には絶対出ないでしょ。お前分かり易いんだよ。」


「でも、私の支離滅裂な話なんて面倒で聞きたくないでしょう…?」


「なんでよ。聞きますよ。幾らでも聞いてやる。それでお前の気分が少しでも軽くなるなら。」


「で…でも…」


「てかさ、お前と話したくないなら俺電話しないし、メールもしない。おまけにこないだ会ったでしょ?嫌いな奴を俺の車に乗せてドライブする程、俺の懐はデカくねぇよ。それくらい長い付き合いなんだから嫌でも分かるっしょ。まぢ抜けてんなぁ、お前。」


「ごめん…。ありがとう。」


ふっと彼が笑った。


「お前ソレ、いつもワンセットだな。」


「へ?」


「"ごめん"と"ありがとう"。」


「あ…。」


「良いんじゃない?エミって感じする。」


「…そんなこと言ってくれるの、ルイくんだけだよ。ありがとう。」


私は、彼の言葉ひとつひとつに、心が救われていく自分に気づいて、気づかないフリをした。



一応彼氏いるんだから、意識したら…だめ。


「あのね…。今の彼氏とのご縁は、お店の常連様がキッカケだったの。」


私は、電話の向こうで耳をすましている彼に、経緯を話し始めた。



常連様は初老のご婦人で、とても元気な方だった。その方の通院先のリハビリ施設で彼女のお気に入りだった男性の理学療法士さんに恋人がいないと分かると、私のお店まで来てお見合い話を薦めてくれた。


勿論お互いに最初はその気がなかった。


でも、彼はありのままの私を見て気に入ってくれたみたいで、2度目のデートで告白されて、そのままキスしてくれた。


…のにルイくんから久しぶりに連絡が来る時期と前後して、付き合いだして1ヶ月も経たないうちに、私たちを引き合わせてくれたご婦人に難色を示している事を彼氏の口から度々聞きはじめた。


そして、ルイくんから電話をもらう正に数分前、彼氏から「キミと付き合っているとその女性の影がちらつくから、別れた方がいいのかもしれない」……と。


其処まで話した私に彼は


「別れろ。」


と、今まで聞いたこともない真面目な声でハッキリと、言い切った。


「……なんて俺が言っても、お前、きかないだろ?」


「………。」


「好きなんだよな。彼氏のことが。」


「わかんない…。」


「俺はわかるよ、今のお前の気持ちが。

お前は別れたかったらすぐに断ち切る性格だ。色々考えて迷って俺に相談するくらいまで判断がつかなくなっているのは、"心底"好きって言ってるようなもんだよ。納得いかないんだろう?その言い訳が。」


「うん…。」


「でもな、そんなお前の気持ちを知っていて敢えて言わせてもらうけど、俺がお前の立場なら、そんなに一人の患者の態度にいちいち怖がってるような肝の小さい人間は、さっさと切り捨てる。そんな奴に時間を割く程俺は優しい人間じゃないからね。」



言ってることはもっともだ。


私も同じ事を思っていた。


でも同時に、たったそれだけの理由で嫌いになるのなら、好きになってない…という女心もある。


ルイくんは私がそこまで考えていることも理解した上で、話してくれた。





本当に、優しいひと。


「ルイくん。私もう一度彼氏とちゃんと話し合いしてくる。自分が納得できるように。」


「おう。…また何かあったらどんな些細な事でも一番に俺に相談しろよ。何でもきいてやる。呼んでくれたら、いつでも会いにいくから。」


「ルイくん、スーパーマンみたい!嬉しいな。」


「…。お前にとっての俺って、本当に男として見られてないんだなぁ。」


「ルイくんは、ルイくんだよ。男とか女とか性別なんて関係ないよ。ルイくんだから、私はだいすきなんだもん。」


「友達だもんな。」


「うん!でもルイくんは、"特別"な友達だよ!」


「彼氏よりも大事?」


「彼氏とは別枠に一番大事!」


「そっか…。別枠か。嬉しいよ。」



私は一番の相談者に悩みを打ち明けられて、スッキリした。


「長時間話を聞いてくれてありがとう!もう寝るね。」


「あ、エミ。」


ルイくんが私を呼び止めた。


「俺、日曜日は休みなんだ。日中は時間ないけど、夜でよければ時間空いたら会わないか?いつでも連絡待ってるから、考えておいて。」


「?…うん!じゃあまた連絡するね!ありがとう、おやすみなさい」


「おやすみ。…またな。」



…それから一週間。

私から彼に連絡をしなかったのは言うまでもない。


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