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一話

「好きだ、エミ…!



…すきだっ!」










初めてだった。

絞り出すような、貴方のそんな声。


安くて古めかしいブティックホテルの一室で、切ない声を聞いた…夜。








>>ブラック・チョコレート>>




"ルイくん"と再び連絡を取り合うようになったのは、…私に恋人ができてからだった。


「はぁ!?」


電話ごしに、驚きの声を聞かされ、私は少しムッとした。


「なによー。」

語尾をのばして言葉を返した私に、電話の相手がため息をついた。


来るぞ、長話…!


「あのなぁ!『なによぉ』じゃ、ねぇよ。考えてもみろ。前の彼氏と別れた24時間後に告ってきた上に、ささっと手ェつないできて…キスだと!?そんな手の早い男はロクな奴じゃねぇ。すぐ別れるのがオチだ。つか別れろ。他さがせ!どうしてエミはいつもそんな軽い男とばかり付き合うんだ!もっと自分を大事にしろよ!」


お話は終わったかしら…、と電話の声に耳をすませながら、私はずっと思っていた言葉を贈る。


「ルイくんって、お父さんみたい…。」


「お前…。それ、褒め言葉になってないって分かってる?」


「あ、ごめんなさいねぇ!そうでした!私、キミからしてみたら"オバサン"だもんね!」


「ちょ…それは歳の話での言葉のアヤだったんだよ!実際1つしか違わないんだから、かわんねぇだろ?」


「でも、1歳違いなのは4ヶ月だけだもん。ルイくんが早生まれで生まれてくるもんだから…」


「誕生日が3月末なのは俺のせいじゃねぇよっ」


ルイくんが"まいった"というような声をあげて、私は漸く機嫌が直った。


付き合って間もないとは言え、恋人の悪口を親しい友人から聞くのは気分が良いわけではない。


…私も友達に同じような事を言っているけれど、ね。


「…でも驚いた。まさか、ルイくんの口から『告ったその日にキスしてきた男なんかと付き合うな』なんて聞くとはねー。初めて会った私に『チューしよっか』って言ってきたの、どこのどなたでしたっけ?」


「あれは…俺も若かったし、本能に忠実だっただけだよ!


…………っていうか、それ5年も前の話じゃねぇかよ…。よく覚えてるな…。」


呆れたような、驚いたような声が聞こえた。


最近の彼は、喜怒哀楽がハッキリしてきている。


以前は…、本心が全く読めないポーカーフェイスが上手な人だったのに。


「ルイくん、変わったね…。」


私は感慨深げに呟いた。


「前も優しかったけど、今はやわらかい優しさになってる。」


「…ありがとう。電話は本当に久しぶりだもんな。」


「ん、一年ぶり…だもんね。」


「そんなに経ってたっけ?」


「メールは半年に一回くらいのペースできていたけど、電話なかったじゃない。」


「そっか。早いなぁ…。」


「ね…。」


私が彼に初めて会ったのは、私が20歳になったばかりの夏だった。ルイくんはまだ誕生日がきていなくて、18歳の時。


それまで約半年くらい、メールと電話のやりとりをしていて、お互いに写真も見せ合っていたから、会うのが楽しみだった。


私はまだ専門学校に在学していて、彼は陸上自衛隊の幹部候補生だった。


…そう。出会い方が特殊だったのだ。


昔によくある、"電話番号をデタラメに入力してショートメールを送る"という出会い方だった。


勿論それは私からじゃない。


彼からだった。



彼も後日、私にこう話していた。


『急に連絡するから絶対怪しいはずななのに、まさか会って話ができるなんて思っていなかった。相手が女の子で、おまけに隣の市に住んでいるっていうのも、びっくりしたしね。』


そんな経緯でルイくんと知り合い、初めて会ってから1ヶ月後に告白されて、付き合うようになった。


…そして、一年半後のバレンタインに、フラれた。


きっと彼にとっての私は、ただの友達だったんじゃないかって思っている。じゃなかったら、別れたあとで友達関係なんか成立しない。


友達には『お互いに気持ちが冷めたから、友達になれる』なんて言っていたけど、まさか!


少なくとも、私は彼への想いが消えたことなんて、今まで一瞬たりともない。



そう、今もまだ本当は…。





なんて、彼氏のいる私に言う資格はないけれど。

と、そんなことを思っていたら、


「…しかし、別れた24時間後に告白かぁ。

俺も言えばよかったなぁ。」


彼が電話口でそんな言葉をつぶやいた。


「なぁに?好きな子でもいるの?」


私は内心少し寂しかったが、私をフってから異性関係の話を全く聞いてなかったから、素直に嬉しい気持ちもあった。

私では役立たずだったけど、せめて彼には素敵な女性を見つけて、幸せになってもらいたい…と。


「うん。まぁ、最近気づいたんだけど。」


「いいねぇ!どんな子?」


「どんな子って…。なんでそんな話聞きたいの?」


「他人の色恋沙汰ほど面白い話はない!という、野次馬根性から!」


私はかっこよく語尾を強めて威張りながら答えた。


「あっそ。」


彼が呆れてため息をついた。


「で?どこで知り合った子なの?」


「どこでって…。ナンパ、かなぁ」


「うわ。すっごい度胸。どこに住んでるの?キミんちから近いの?」


「…だからさ!俺の話なんか面白くないって!」


「ききたいー!」


「じゃあ今から俺と会うなら、…話すよ。」


「本当!?ファミレスでじっくり話しましょう!」


「なんでファミレスなんだよ…。車内でいいだろ?

とりあえず今知り合いのお店にいるから、30分後にお前んちに迎えに行くわ。」


「オッケー!一時半ね!」


…夜中の、ね。


彼と会うのは、いつも夜中だった。日中に会ったのなんて、片手で数えるくらい。

そして、電話は一年ぶりだったけど、顔をあわせるのは数年ぶりだった。


会いたかった。ただ単純に。

彼の中で私は「戦友」でしかなく、私もその気持ちのほうが強かった。捨てられない恋心も勿論あったけど、今の気兼ねなく話せる関係をぶち壊すつもりなんかさらさらなかった。

そして、今の恋人に罪悪感なんて一ミリも感じなかった。

私が今一番大好きなのは恋人であり、彼じゃないもの。

万が一間違ったことが起こる…なんていうのも、有り得なかったから。





…あの日までは。


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