一 「returns to the sky.」
この話はボーイズラブ的描写が含まれています。
身体が大きいから。
それだけの理由で、七瀬誠は色んなスポーツに誘われた。バスケに始まり、野球、バレー、ハンドボール、テニス、陸上、柔道、ボクシング、その他の格闘技諸々。だが、その誘いは全て断ってきた。それは何故か?面倒くさいから。何をするのも面倒くさい。ただ、それだけ。
小学六年生の時、誠の身長は既に百七十㎝を超えていた。体格も大きく、明らかに小学生に見えない風貌の誠。先程、全てのスポーツを断ってきた、と言ったが、一度だけ同級生に誘われ、バスケをしたことがある。しかし、そう長くは続かなかった。辞めた原因は、仲間とのトラブル。誠のコミュニケーション不足と、マイペースすぎる性格。もっと簡単に言えば、我が侭な誠のせい。
バスケ部での短い経験で、誠が分かった事。それは、「友達はいらない」ということ。ずっと一人だった誠に、友達なんて必要なかった。異性との恋愛もしかり。
中学でも身体の成長は止まることをしらず、どんどん身長は伸びていった。女の子のほとんどは、背の高い異性に興味を示し、誠に好意を寄せる子も少なくはなかった。
だが、異性もスポーツと同じで、告白されても断り続けていた。理由は簡単。興味がないから。誠が生きてきて異性に恋すること何て無かった。
友達も、異性とのつきあいも無い誠だったが、家族とはそうでもなかった。一人っ子の誠は、親の愛情をたっぷり貰って育った。しかも、祖父母とも同居していたため、倍愛情を貰った。そうやって甘やかされて育ってきたから、誠は我が侭になってしまったのだ。さらに言うと、とても子供っぽい。身体と反比例して、世の中を知らない彼は精神が幼いのだ。
誠は、人を好こうともしなかったし、好かれようともしていなかった。無論、彼を良く思う同級生など一人もいないまま、誠は高校生になった。
公立校に進学した誠は、入学式から生徒の視線をいっぱい受けていた。黙っていても目立つ身長。このとき、誠の身長は二百五㎝だった。そりゃあ、人々の注目も浴びるだろう。
桜が綺麗に舞っている校庭。公立校ながらも、それなりに校舎は綺麗だ。何もやることがなく、誠は新入部員勧誘活動をしている上級生達の人混みの中を、だるそうに歩いていた。勿論、部活の勧誘は受けた。主にスポーツの。しかし、断った。もう小学生の時のような思いをしたくないから。
そんなことを考えていたその時、後ろから声を掛けられた。
また勧誘か…、と顔を歪めて、無視することを考えていたが、聞こえた声があまりにも綺麗な声だったので、思わず振り向いてしまった。
振り向いた瞬間、誠の中で一瞬だけ時間が止まった。声の主は、上級生であろう男で、誠より勿論、背が低かった。男を見て、一つ言えること。それは、彼は俗に言う美青年であること。まつげの長いたれ目がちの瞳。透き通るような白い肌と、それに対になるような漆黒でサラサラの髪の毛。身長は百七十後半ぐらいで、体重は結構軽そう。それほど、細く見えたのだ。
今まで生きてきて、誠はこんなに美しい人間を見たことがなかった。しかも、相手は女性ではなく男性。同性である彼に、一瞬でも心を奪われている自分に、誠は驚きを隠せなかった。
―あ、の…。
男は少し控えめな声で、話し始めた。声が透き通っていて、とても綺麗だ。
―演劇に…興味はない?
演劇?誠は頭の中で考えた。よくテレビとかで目にする単語だが、自分が一生関わることの無いだろう言葉だ。はっきり言って、興味はない。
はっきり断ろうとした。だが、男は持っていた勧誘のチラシを押しつける。
―これ、とりあえず受け取って。これからちょっとした劇やるから、見てね。
語尾を少し強めに言った男は、ニコッと笑ってこの場から去った。
その笑顔に、誠はまた心を奪われた。トクン、と胸がなる。なんだ、この胸の高鳴りは。もしかして、自分が人を求めている?本能的に、演劇、もしくは綺麗な彼を。後者の可能性は同性だから低いと思うが。
そんな自問自答を、彼は繰り返す。
誠が覚えている記憶はここまでだった。それから、彼は体育館に足を運んだかもしれない。演劇部の劇を見るために。無意識のうちに、身体がそう動いたのだろう。
そして再び、誠は心を奪われることになる。
結末は後味悪いかもしれません。