「大将首討ち取ったりー。」
所変わって、鈴音の居る天幕。
天幕の中にいても聞こえてくる銃声や悲鳴。
「! …なんだろう?」
バタバタと音をたてながら複数の何かが近づいてくる。
「…?」
他の牢屋に入っている人物達も気づいたらしく、眉間に皺を寄せている。
そして…
「キィィィィィ!!」
「なっ…!?」
数匹の合成獣が鼓膜を突き破る様な鳴き声をあげて天幕の中に入ってきた。
「ギィィィィィ!!」
「わわっ!?」
凄い勢いで合成獣達が柵に飛びつく。
それは鈴音の周りの柵にだけではない。
他の柵にも合成獣が群がっている。
そして鉄の柵に噛み付き始めた。
「うー…わー…。」
柵の中だからこそ呑気に眺められるのだが鋭い牙が柵をかじる様子はかなり恐ろしい。
「…あれ?」
なんか柵から煙が出てる。
ごしごしと目を擦って、もう一度見るが、やっぱり煙が出てる。
しかも先程より煙の量が多い。
「これは…あのー…。」
マズイ。
「ぎゃあああああああああああああああああ!!」
劈く様な絶叫。
すぐ隣の牢に合成獣が侵入して、中にいた男を襲っている。
「う…あ…。」
血の匂いが鼻につく。
ゴシャゴシャと合成獣が喰らっているのであろう、男の骨が砕ける音が聞こえる。
「う゛…ぇ…。」
さっきまで生きていた人間が、今は肉塊となっている。
気持ち悪い。
今まで合成獣と戦ってきた経験はあったが、人間となるとこみ上げてくる吐き気を抑える事しか出来ない。
「…ッは…。」
ポタッと汗が落ちる。
それと同時に、柵を突き破った合成獣が鈴音に襲い掛かった。
「ギ…ッ!」
息吹の剣が合成獣の両羽を貫く。
元から傷を負っていた合成獣はその一撃を最後に動かなくなった。
「…今日の飯は焼き鳥か…。つかトカゲか?コレ。」
イグアナです。とツッコミをいれる人物は今いない。
「キィィィィィ!!」
「!」
合成獣の鳴き声が天幕の中から聞こえた。
その天幕は金髪の少女を閉じ込めた天幕。
「…クソッ!」
油断していた。合成獣は手足を拘束された者達では太刀打ち出来ない。
(生きてろ…!!)
無傷、とは言わない。せめて。
天幕の中に駆け込んだ瞬間。
「ッ!」
息吹を狙って投げつけられた剣。
だが息吹も軍人。投げつけられた剣を自らの剣で弾き飛ばす。
天幕の中は地獄だった。
肉塊となった牢の中の人物達。恐らく合成獣にやられたのだろう。
だが、その合成獣達も血溜まりの中で事切れている。
天幕の中に充満する血の臭いに僅かに息吹が顔をしかめる。
「…息吹、さん?」
「……。」
そして小さく聞こえたソプラノの声。
立っていたのは金髪の少女。
金色の尻尾が不安げにさ迷っている。
(合成獣が…噛み千切ったのか…)
鈴音の手首からぶら下がる鎖。それは子供が千切れる物ではない。
「…お前がやったのか?」
「…合成獣は。牢に入ってた人達は…」
大きな青い眼が伏せられる。
「助け、られませんでした…。」
確かに、生き残っているのは鈴音しかいない。
「…そうか。」
「……。」
「…わりぃな。」
「…え?」
小さく、息吹が呟いた気がした。
聞き返す前に外から聞こえた轟音。
「「!」」
「来るなら来い!!」
「あ…はい!」
双剣の一本を拾って、息吹の後を追った。
「い~ぶきの旦那~!タ~スケテ~!!」
「…あの馬鹿が。」
「…ぁ…。」
外にいたのは巨大な虎とワニの合成獣。
周りには立ち向かったのであろう兵士達数人が倒れていた。
そして息吹直属の部下…来斗も立ち向かっているが…。
「おおおぇぇぇ…!!ヤベッ…吐く…!!」
「い…息吹さん!助けなくて良いんですか!?」
「あー…うん。なんとかなんじゃね?」
右腕を合成獣に噛まれ、振り回されている。
焦る鈴音だが至って呑気な息吹。
しかし、あのままでは腕を食い千切られる。
「息吹さん!」
「…あの程度じゃ死なねえよ。見ろ。」
息吹に言われ、来斗を見ると…
「う゛ぇ…っ。ちょ…マジリバースする…。酔った…。」
真っ青な顔である。
「全く大丈夫な要素無いですけど…。」
「ダイジョーブダイジョーブ。アイツナラナントカナルヨー。」
(…棒読み…。)
助けに行こうとした鈴音だがその必要はなかった。
「気持ち悪ぃって…言ってんだろコラ!!」
あいていた左手で銃を持ち、合成獣の牙に狙いを定め撃つ。
「グオオオォォォ!!」
「ぃでッ!!」
いきなりの反撃に怯んだ合成獣の口が来斗の右腕が離れ、来斗がそのまま落っこちた。
「…マヌケだなー。あの合成獣。」
ポツリと息吹が呟く。
その視線の先には牙が一本抜けた合成獣。
「ぷっ。」
その姿に思わず吹いてしまった鈴音。
「ガアアアアアア!!」
「うわ怒った!!」
笑われたのが恥ずかしかったのか鈴音と息吹に襲い掛かる合成獣。
その直前で何発か銃声が響く。
「ギイイイィィィ!!」
悲鳴をあげる合成獣の身体から血が噴き出す。
「息吹隊長、これで最後よ。」
「おー。」
合成獣を撃ち抜いたのは楓。
「楓ーぃ!」
合成獣に踏み潰されていたと思った来斗がどこからか飛び出してきた。お前は不死身か。
「うわ汚ね!手袋びちゃびちゃじゃねーか。」
「うわホントだ汚ねぇ!」
「今気づいたのかよ。自分の事だろ。」
「新しいの買ったらどうかしら?」
「…給料日前で金無い。」
「「ああ。そう。」」
「借してくれたっていいじゃないっスかー!」
「「やだ。」」
「………。」
敵を前にしてかなり呑気な三人。もはやマイペースの領域ではない。
来斗が合成獣の唾液でべたべたになった黒い手袋を取って、地面に投げ捨てる。
黒い手袋の下にあったのは…
「…義手?」
鈴音が目を見開く。
そこにあったのは生身の腕ではない。鈍い光を放つ機械の腕。
「だから言っただろ?アイツはあの程度じゃ死なねえ。」
「くーッ!やっぱあのおっさん良い仕事するねー!誤差動なっしッ!!」
「高いお金払っただけあったわね。もしかしてそれで金欠?」
「………うん。メンテナンス行ったら何十万とられた。」
「………手袋なら買ってあげるわ。」
「楓大好きッ!!」
「はいはい。」
抱きつこうとしたら銃口を向けられてた。仲良いね二人とも。
「おいてめぇら。合成獣さんがお待ちだぞー。」
「「「あ。」」」
「グルルルルル…。」
息吹に言われ、見ると合成獣さんが怒ってた。待っててくれたらしい。いい子だ。
だが我慢の限界らしい。
「グオオオオオオ!!」
見られた瞬間襲いかかってきた。
来斗に。
「うわわわわわわわわわわわ!?なんで俺だけ!?」
「牙折ったの怒ってるんじゃないですか?」
「「ああー。」」
「納得してないで助けて下さいよ!!」
追いかける合成獣と逃げる来斗。命懸けのおいかけっこが多い軍である。
「しかたねぇなー。楓、援護頼む。」
「了解。」
よいしょーとなんとも気の抜けた声を出し合成獣に向かっていく息吹。
「息吹の旦那はやぁぁぁく!死ぬ!!俺死ぬ!!」
来斗は合成獣に捕まり、なんとか鋭い爪を剣で防いでいる。
「…ッらぁ!!」
息吹は来斗にかかる爪ごと剣で合成獣の前足を切り裂く。
「グオオオ!!」
(なんで俺ー!?)
合成獣の反撃は息吹に向かう事はなく、再び来斗にもう片方の鋭い爪が迫る。
「来斗!伏せて!!」
「うぉうッ!?」
だがそれを楓が銃で撃ち抜き阻止する。
「来斗!!銃よこせッ!!」
合成獣のがら空きである横腹に移動した息吹が叫ぶ。
「息吹の旦那ァ!!パスッ!!」
それに従い来斗が自身の銃を息吹にぶん投げる。
それに気付いた合成獣が息吹に襲いかかるが…
「おせぇ。」
合成獣の攻撃が届く前に息吹が銃の引き金を引く。
銃弾は合成獣の横腹を貫通した。
「グオアァ…ァァァ…!!」
呻き声をあげ、合成獣の巨体が倒れた。
「おーし。大将首討ち取ったりー。」
いぇーいと聞こえてきそうな声のトーンでの息吹の言葉。
「…なんで俺ばっかり…。」
「来斗、今日は厄日ね。」
「楓ー…。慰めてー。」
「やだ。」
「………。」
微妙なトラウマ話(笑)
捕まってたソルディアの方々は捕虜でした。
ちなみに来斗さんの義手は強度が半端ないです。
殴られたらかなり痛いです。はい。
ていうか鉄ですから。鉄バットで殴られた位の痛みが…(笑)
おまけ。
今日のおまけ当番
来斗&楓&息吹&鈴音
楓「来斗ー。」
来「ん?どしたー?」
楓「この子犬の名前なんだけど…」
来「あぁ。結局何にした?」
楓「それがメアリーじゃ全く反応しないのよ。やっぱりジョニソンとかジョニーの方が反応するの。」
来「じゃあJohnny。」
楓「…で、ジョニーやジョニソンに近い名前にしようかしらと。」
来「あれ無視?ねえねえ、無視?」
楓「なにがいいかしら…」
鈴「マリアーノティラッシクウィンディとかどうですか?」
来「長い!!却下ッ!!」
息「パトラッ○ュで。」
来「アウトォォォ!!フラン○ースか!?フ○ンダースなのか!?」
息「セーフッ!!」
来「違うッ!!」
楓「ジョセフィーヌ。」
犬「(°∀°)!」
全員(ああ…ジョセフィーヌか…。)
楓「あ。」
来「今度はなんだッ!?」
楓「この子…やっぱりオスだった。」
来&息&鈴「え。」
結局『ジョニファー』に決定したようです。(完)