捜索
「あー!!見失ったぁー!!」
(…高い所からなら、捜せるかしら…?あの金髪が少しでも見えればいいのだけど…。)
食堂で一瞬だが見た。
子供の髪は輝く金色だった。
商店街の中でギャー!!と騒ぐ来斗と冷静な楓。
「!」
「…?どうしたの?来斗。」
「…多分、いや絶対あの林の中だ!!」
「…?」
来斗が指差すのは商店街の入り口の横にひっそりある林。
確かに隠れるにはぴったりだが…。
「根拠はあるの?」
「ないッ!!」
「…胸を張って言う事じゃないわよ。」
「強いて言うなら俺の勘!!」
「来斗!」
言いたい事だけ言って駆け出す来斗。後で狙撃の的にすると決めてその後を追いかける。
だが、来斗の勘は鋭い。
(…もしかしたら。)
「開けるっぽいぞ!」
来斗の声に顔をあげると生い茂っている木々の間から光が漏れている。
その間を抜けると、予想通りに開けた場所に出た。
そこに。
「あ。」
「「……。」」
休憩していたらしい、先程食堂で見つけた金髪の子供がいた。
(恐るべき野生の勘ね…。)
「見つけたァァァ!!」
また逃げられてはたまらない。
ソッコーで確保しようと駆け出す来斗。
「…?」
だが、おかしい。
あんなに焦って店を飛び出したのに今度は全く逃げようとしない。
考えられる事は一つ。
「来斗!!」
罠だ。
ニコッと子供が笑った。
「んなッ!?」
地面が抜けた。
まあ当然身体は真っ逆さま。
「ぎゃああああああああああああああ!?」
ドサッとなにやら鈍い音がしたがそれどころでは無い。
金髪の子供が再び林の中に逃げた。
「くッ…!」
「ちょ、楓!俺放置!?」
「ごめんなさい!後で助ける!!」
「後で!?」
落とし穴の中から悲痛な声が聞こえたが構ってられない。
林の中に消えた子供を追う。
「…ッどこに」
キョロキョロ辺りを見渡していると…。
「クーン…。」
「……。」
大きな木の根元に箱の中に入った茶色い毛並みの子犬がいた。
しかもご丁寧に箱には「拾ってください」と書いてある。
(…!!いけない。仕事中よ…しっかりしなさい私…。)
一瞬心を奪われてしまった自分を叱咤し、子供捜す。
だが…。
「クーン…。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
「……。」
~5分後~
「か…可愛い…!!」
負けていた。
というか初め見た時からもうガッツリ心を奪われていたのだからしょうがない。
「……。」
楓がひたすら子犬を愛でる様子を木の影からそっと見守る人影。
(うう…幸せになるんだよ…。ジョニー…。)
金髪の子供…鈴音である。
実はあの子犬…ジョニーは、北部で鈴音が拾った捨て犬である。
まあ、なんというか愛着があるというか…寂しいような。
多分娘を嫁に出す父親の心境である。
しかし、旅を続ける鈴音にジョニーの面倒はみる事が出来ない。
寂しさ故か、九つの尻尾がダラーンと下がっている。
(うう…お幸せに…ッ!!)
ジョニーの幸せを願いながら泣く泣くその場を後にする。
トコトコ木々の合間を抜けながら思案する。
(うーん…。軍の人に目付けられちゃったなあ。)
東部は後にして、他の地域を回ろうか、等と思っていると…。
「はい確保ー。」
「うえっ!?」
急に持ち上がる身体。
見上げると、息吹がこちらを見下ろしていた。
「ちょい失礼ー。」
「わぶっ!!」
べしっとフードを取られる。
現れたのは金色のポニーテール。
「やっぱ女だったか…。」
「はーなして下さいいいいい!!」
ジタバタ暴れるが、鈴音と息吹では体格も身長も違い過ぎる。
特に彼女のコンプレックスである身長は…。
(ちっちぇーなーコイツ。)
息吹が片手で持ち上げられるのでよっぽどである。
恐らく横に並べば、鈴音は肩か胸くらいしかないだろう。
そして息吹の視線はいつの間にか出ていた鈴音の九つの尻尾に移る。
(人間と狐…?の合成獣か…はじめて見た。)
十数年前、突然現れた生物。
そして合成獣の生体もあまり分かってはいなかった。
何があって、こんな生物が生まれたのか、軍の力を持ってしても分からない。
息吹自身も、人間と動物の合成獣を見たのは初めてだった。
でも、この少女に尋問すれば何か分かるかもしれない。
事態は一刻を争う。
今ではその強大な力を戦争に利用する連中も出てきたのだ。
「悪ぃが…一緒に来てもらうぞ。」
少女の大きな青い瞳に写った自分は…どんな顔をしていたのだろうか?