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将軍と魔女  作者: 八郎
6/9

ニコラの真実

固く閉ざされた扉を見つめながら、ニコラはただ立ち尽くしていた。

「ニコラ様、失礼します」

ノックの音でふと我に返ったニコラは、その声に返事を返して扉を開ける。

そこには心配そうな顔をしたアイラがいて、ニコラは安心したのと申し訳ないのとで泣きそうになった。

「アイラ!! ごめんなさい。また迷惑をかけてしまって……」

「そんなことないですわ。それより大丈夫でしたか?」

「ええ、もう大丈夫です。沢山寝たからすっきりしました。昨日は緊張してあまり眠れなくて……だからあんなことに……本当にごめんなさい」

するとアイラは驚いたように目を見開いた。

「ニコラ様は眠気と緊張で倒れたんですの? 私てっきり……閣下の格好を見て気絶されたのかと思っておりました。あの血だらけの服はないですわ!!」

アイラが珍しく声を荒げていたが、その言葉にニコラは首を振る。

「陛下が“閣下はお仕事だ”っておしゃってたじゃない。お忙しいなか来て頂いただけでも感謝しないと罰が当たります。それなのに倒れてしまって、本当に情けないですけど」

落ち込むニコラを見て、アイラは呆れたように肩を落とした。

「ニコラ様はお優し過ぎますわ」

先程のアーダベルトの格好は誰が見ても令嬢の前に出てくる格好ではない。

普通ならその失礼な態度に怒ってもいい所なのだが、良くも悪くも世間知らずなニコラには、一般的にそれが相手を軽んじている行為だということが分からなかった。もちろん、アーダベルトの心中は誰にも分からないが……

それより、とニコラは目を輝かせた。

「閣下の方がお優しいわ。先ほどまでいらっしゃたのよ。すぐ出て行かれたけど」

最後の方は自分で言いながら表情がどんどん曇っていくのが分かったが、不器用なニコラにポーカーフェイスなどと言う高等なことはできない。

アーダベルトがすぐ出て行ってしまったのは自分に興味がないからだろう、とまたもや落ち込むニコラを見て、今度はアイラは首をかしげた。

「閣下を優しいだなんていう方をはじめて見ましたわ」

「え?」

「いえ……何でもありません」

アイラはいつものように美しく微笑みながら、何か軽く食事をしましょうか、と話題を変えた。


そう言えば昼前の謁見から何も食べていない。

本当はあの謁見の後昼食会をすることになっており、今の時間も本当ならアーダベルトと二人で夕食をとっているはずだった。ニコラが倒れたことで、すべて中止になてしまったらしい。

きっと沢山の人が、色々と準備をしていてくれたに違いない。もちろん自分のためではなく将軍閣下のために。

自分のせいでその全てをダメにしてしまったかと思うと、ニコラは悲しくなってきて深い溜息がでた。

「はぁ」


「溜息ばかりついてると幸せが逃げちゃうよ、魔女殿」


「きゃあ!!」

いきなり後ろから聞こえてきた少年の声に、ニコラは思わず叫んでしまった。

食事の準備をしようとしてくれていたアイラも、久々に聞くニコラの大きな声と、突然現れた少年に驚いたようで足をとめる。

「フランツ!! あなたまで無断で女性の部屋に入ってきたのですか。この王宮には礼儀知らずしかいませんのね!!」

いつも穏やかなアイラが今日はやけに声を荒げているのに驚きながら、ニコラはゆっくりと振り返った。

「あ、あなたさっきの……」

そこにいたのは先ほど案内をしてくれたあの美少年だ。

サラサラと揺れる金髪から碧い瞳が覗いている。

「申し遅れました魔女殿。僕はフランツ=バトラーです、以後お見知り置きを」

スマートに礼をとったフランツは、もういいよね、と言いながら襟元を緩めた。

そのあまりにも砕けた態度に、ニコラの緊張もあまりない。

「えっと、ニコラ=アルバートです。あの、魔女殿って……?」

「貴方意外に誰がいるの?」

「そう、……ですよね……」

自分でもこの黒髪と不気味な瞳は、物語に出てくる悪い魔女のようだと思ったことは何度もあるが、さすがに人から直接言われるとショックが大きい。

「ちょっとフランツ!! まだ閣下は何もお話されてないのよ」

アイラが間に入ってニコラを背でかばってくれた。

それにフランツは不機嫌そうに顔をしかめるが、アイラの言葉を反芻して次第にその大きな眼をより見開いていく。

「え? アーダベルト様、何も言ってないの? ずっとこの部屋で一緒にいたじゃん」

アイラの肩越しに問われたニコラは一人混乱していた。

「私は、さっき目を覚まして……閣下はすぐに出て行かれました」

それがニコラが見た真実である。

いつからいたかは分からないが、話したのは5分もない。

体面を気にして仕方なくアーダベルトが見舞いに来てくれた時に、自分が都合よく目を覚ましてしまったのだと思っていたが違うのだろうか。

いったい何がどうなっているのか分からずにいると、アイラが呆れたように溜息をついた。

すかさずフランツが「幸せが逃げるよ」と小突いていたが、アイラは全く気にしていない。

「フランツが無礼をして申し訳ありません。ニコラ様、閣下とは少しはお話されましたか?」

ニコラは先ほどの会話を思い出した。

特に色っぽい話をした訳ではないのに、なぜか思い出しただけで体温が上昇する。

「えっと、“体調は大丈夫か”と聞かれて……」

「それから?」

「あとは……“王宮を2・3日空けるので、何かあったらアイラかフランツに聞け”と」

「他には?」

「……それだけです」

「そうですか、やはり閣下は何もお伝えしてませんのね」

そう言って考え込むアイラを他所に、フランツが「フランツって僕のことね、何でも聞いて」とおどけてみせた。ニコラがそれにくすくすと笑っていると、真剣な顔をしたアイラがニコラに向かって話し始める。

「ニコラ様よく聞いてくださいな。私からお話していいのか分からないのですが……」

「いいんじゃない、アーダベルト様が僕たちに聞けって言ったんだろ?」

「おだまり」

フランツをキッと睨んだアイラは、またニコラに向き直って話を進める。


「いいですか、落ち着いて聞いてくださいな」

「はい」



「実は、ニコラ様は……魔女なのです」



「はい?」


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