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magia(改稿諦めた)  作者: ひらきょん
第一部
8/12

第6話

 檻を壊してジーナさんを出す。鉄格子を素手で捻じ曲げて出したら、顔をポカンとさせ、「私でも無理だったのに…」とか呟きながらオレの腕を触ってきた。


 ジーナさんの呟きの意味が解らなかったが、自分が考えていたよりも簡単に鉄格子が捻じ曲げれたことに内心驚いていたので、その呟きについてあまり考えなかった。


 立ちあがったジーナさんはオレより少し背が高いのがわかった。年齢は16歳らしい。


 少しここで待ってて、と言って、オーガの死体を捨てに行くふりをする。ジーナさんの視界に入らないところまで引きずった後、アイテムボックスを開き、中にオーガを放り込む。


 しばらくは外に出ないつもりなので、洞窟の入口まで行って《岩石》で石を操作して入り口をふさぐ。空気の流れは多少悪くなったが、酸欠で死ぬことはないだろう。


 大量のゴブリンやホブゴブリン、そしてオーガを倒したオレの肉体は、戦闘前と比べて格段に強化されていた。感覚だが、戦闘前の倍以上にまで強化された気がする。鉄格子が簡単に曲げることができたのもレベルが上がった為だろう。急激な強化に、意識が付いていかないだろうと思い、少なくとも今日1日は慣れさせる為に使うつもりだ。


 オーガと戦っている際に感じた、思考が高速化される感覚や複数のことを同時に考えれる感覚は、あの戦闘限定で起きた出来事ではなく、今も自由に扱えた。


 もしかしてアレか?【解析】じゃない方の魔法の影響か?


 魔法を解読し、魔術を使うのに最適化した脳だから、そういうことができるようになったとか?謎魔法について解れば、この現象についても解るようになるかもしれないのだが…。まー、今考えても解らないし、便利だから良いか。


 ところで、ステータス確認の魔法って、その人が持ってる魔法まで解るようになるのかな?村を出たらその魔法を持つ人を探すのも良いかもしれない。


 自分の将来について色々考えながら、アイテムボックスから食べれそうなものを選び、ジーナさんの元に戻る。


 ジーナさんはここ数日碌なものを食べていなかったらしく、オレが出した食事を貪るように口に入れた。オレが食べた量はジーナさんの十倍以上だが…昔から良く食べる子だった、とは母さんの言葉である。ジーナさんがまたオレの体を触って来る。「一体どこにあんな量が」とか言ってるけど、胃袋に決まってんじゃん?


 食事のあとは、今後の方針について話し、今日これからの予定を相談した。


 オレは半年間は絶対に村に帰らないつもりなので、それを先ずはジーナさんに了承してもらう。そして密かに決めたことは、ジーナさんが信頼に足る人物か見極めることだ。ジーナさんはオレについて来るつもりだが、オレの村は外部の人間を簡単に入れてはいけない場所だ。なら、この半年間でジーナさんが信頼できるか確かめ、ダメなようなら心苦しいが山を下りてどこかの集落に押し付けるしかない。


 いや、直感だと大丈夫だと思うんだけどね。こんな時でも家訓に従うべきなのか迷うところである。


 オレは半年間修行を行い、ジーナさんには身の周りの世話を頼んだ。実際はやって貰う必要がなかったのだが、彼女が何かしたい、と言うので任せたのである。


 方針が決まり、今日これからについて決める。


 オレは広間で剣術と格闘術の型を行い、先ほどのオーガや母さん、ギルさんを架空の敵とした模擬戦闘を行うつもりである。魔力もかなり上昇したのだが、ジーナさんがいる前で《火炎》以外の魔術を試すわけにはいかない。


 ジーナさんには快適な生活空間を作って貰う。寝床を整えたり、食事を作って貰うつもりだ。


 予定も決まったので、ジーナさんに松明を一本だけ渡し、自分の予定をこなす。



 《火炎》


 広間の天井に火の球を複数作り、それをぶつからないように素早く動かしながら武術の型を行う。


 剣を振った時や蹴りを放った時、力に振り回されて何度も失敗した。時間がかかっても良いから、今の肉体のコントロールを完全に握れるようにする。


 急激なレベルアップの所為で、大切な人を抱きしめたら力のコントロールが出来ずに全身の骨を砕いてしまう、なんて話はよくあるらしい。


 力を得るということはその力に責任を持つことだと父さんが言ってた。


 大切な人を傷つけるのではなく、守れる力にするためにオレは動き続けた。


 2時間ほど経っただろうか。汗を大量にかいたオレは、あることにやっと気付いた。


「水、確保してないや…」


 アイテムボックスから出そうとした水筒を飲まずに中に戻した。あれは唯一ある水なのだ。水を確保できていない今、あれは上手に使わなければならない。


 《氷塊》


 口に入るくらいの小さな氷を作り、口に入れる。ひんやりして美味しい。舌で氷を転がしながら、ゆっくりと水分を補給していった。


 何個か氷をなめて、水分を補給することができたので、稽古に戻る。


 力の制御は問題なく行えるようになったので、次は仮想の敵との戦いを始める。


 最初はオーガ、母さん、ギルさんとの一対一をやってみる。先ほどの戦いよりもオーガをあっさりと倒すことができた。オレの前では半分程度の実力しか出していなかった母さんやギルさんも同様だ。


 ちょうど仮想の敵との模擬戦が終わった頃、ジーナさんがごはんの準備ができたとオレを呼びに来た。


 食糧庫にあった謎野菜と謎肉を炒めた山の如く用意された大量の料理は、調味料が無かったために味は薄かったが、食べる量としては満足だった。ごちそうさまでしたー。


 ジーナさんに水が手元に少ししかない為、今は飲料以外の用途の使用ができないことを謝った。


 明日水を確保しに行くと行ったら、「大丈夫です。気にしないでくださいませ」と言われた。


 寝床は、ゴブリン達が狩ったのであろう魔物の毛皮を床に敷いた簡単なものだったが、複数枚重ねたお陰で床の固さを味合わずに済んだ。


 ジーナさんと同じ部屋で寝たが、ジーナさんが声を押し殺して泣いていたことを除けば、問題は何も起きなかった。



 翌日、軽い朝食(オレ基準)を食べた後、ジーナさんに留守番を頼み、水を確保しに洞窟を出た。念のため入口のロック(石だけに)は忘れずに。


 太陽の位置から、だいたいの方角を知り、河があるであろう方向に向かって移動を開始した。


 ヴィーラの横を流れるプラトュス河が近くにあるはずである。オレはそれを探していた。


 途中、木の実や果実、薬草などを見つけたので、採取してアイテムボックスに入れた。果実はたまにかじりながら進んだ。


 魔物の気配はしたが、見つからないように移動したため、戦闘はしなかった。


 しばらくすると、水の音が聞こえるようになった。


 洞窟から3km程歩いたところで河を見つけ、思いっきりのどを潤した。水浴びをしたい欲求に駆られたが、ジーナさんが留守番していると思うと、できなかった。が、河までの道のりを護衛すれば、ジーナさんもここまで来れると思ったので、道を戻った。


 ジーナさんが安全に進むために、今度は出来る限り近くにいる魔物を倒して帰った。


 こうもたくさんいると綺麗なまま収集したくなる。そう思い全て素手で倒していく。


 そのほとんどが単独で行動する中級の魔物で、ゴブリンのような下級の魔物はあまり見えず、上級の魔物とは出会わなかった。


 あのゴブリンの群れは、オーガという守護者がいたから成り立っていたんだなー、とかそんなことをぼんやりと考えていた。


 上級の魔物がアレ一体とは限らないが、ここ近辺ではそう遭わないのだと解った。


 中級の魔物を倒してはアイテムボックスに突っ込んで、洞窟に戻ってきた。


 ジーナさんは環境の美化に努めていたようで、朝洞窟を出た時よりも生活する環境は良くなっていた。


「河を見つけたんで、一緒に行きませんか?」

「はい、わかりました。水を入れる(かめ)がありましたので、それも持っていきますね」


 いや、良いんだけどさ、(かめ)ってでかくね?アイテムボックスに入れて良いなら問題ないのだが、(かめ)持って護衛って無理くね?


 直感で村の秘密と自分の苦労を天秤にかける。


 うん。


 面倒だ。


 奇術ってことにしよう。


 奇術とは言っても、そう言う魔法ということにするつもりだ。


 火を出したり、大きなものを一瞬で消したり出したり。


 村の外に出た時もこの手は使えるかな?出来ることが多すぎて目を付けられる気もするが…


 自分の中で方針を決めると、ジーナさんがかなりでかい(かめ)を抱えて来た。もしかしてジーナさん怪力?


 (かめ)はゴブリンの集落で使用していたものだからか、それなりに大きく、重さは100kgを超えてそうだ…


「ジーナさんって何かやってたの?(村の外の常識を予想して)普通そういった物って一人じゃ持てないと思うんだけど」

「私、何故か昔から力が強いんです。ソフィアン様には負けますが…」


 得意げな顔をしている。オレの腕力は訓練の成果なので少しへこむ。オレが才能を羨んだりしたら(ばち)が当たるんだろうけど。


「まあ良いや。それを運んで移動するのは無理だと思うからちょっと貸して」

「?はい、どうぞ」


 ジーナさんがオレに(かめ)を渡してくる。やはり100kgオーバーしてるだろこれ。この人なんでしれっとしてるのさ。


 悔しかったのでアイテムボックスを開いて(かめ)をしまう。ふふふ、驚いてる驚いてる。


「―!? (かめ)は一体どこに…?ソフィアン様は火の魔法使いではないのですか?」

「火も出せるけど、こうやって物を出したりしまったりも出来るんだよ。奇術の魔法、かな?」


 魔法は個体によって異なる為、もしかしたらそういう魔法もあるのかもしれない。


 そういう風に都合の良いように解釈してもらう。


 未だに驚いた表情でいるが、現実を否定する材料もなく納得した様子だ。


「よし、他にも(かめ)があるならそれも持って行こう」


 ジーナさんに案内され、更に4個の(かめ)をアイテムボックスに収め、洞窟の外に出る。


 洞窟の入口が石で塞がれていたが、それを魔術で動かして開けると、「ソフィアン様は何でもアリなのですね」などとジーナさんが言っていた。ジーナさんの常識がどんどん壊されていく。


 戸締まりをして、プラトュス河に向かう。


 途中何度も中級の魔物と遭遇したが、どれも単体だったために簡単に倒せた。


 それでも魔物の方がレベルは高いようで、経験値がぐんぐん入って来る。今日のごはんになって貰うために全てアイテムボックスに入れる。


 戦闘があった為に時間がかかったが、ようやく河についた。


 血の匂いと汗が気持ち悪く、河についた途端に服を脱いで下着だけになり、プラトュスの流れに飛び込んだ。


 川幅は広く向こう岸は見えない。(ふち)はかなり深く、5m以上ありそうだ。瀬は腰の高さなので、水浴びならそこで充分だ。


 なかなか来ないジーナさんに声をかける。


「ジーナさんも水浴びしようよー!気持ちいいよー」











 ■


 私の村がオーガ率いるゴブリンの集団に襲われ、私はやつらの子を孕ませる道具として攫われました。


 絶望と恐怖で何度死のうかと思ったか。だけど私は臆病で自殺することができませんでした。


 そんな中現れたのがソフィアン様です。


 騎士団が束になって、ようやく倒すことができるオーガを一人で倒したというのです。


 ソフィアン様は不思議な方です。


 魔法使いであるのに偉そうな態度はせず、それでいて慈悲深く、私の面倒まで見てくれます。


 火を出したりするだけでなく、物を消したり出したり、石でさえも操ってしまう魔法使いなんて、私が知る限りは『始まりの魔法使い』、オーガスタ様以外に存じません。


 魔法使いの戦闘は、魔法を主体に置いたものになりがちなので、その体は弱いのが一般的なのですが、ソフィアン様は格闘術もお強いご様子で、ここに至るまでの道中、中級の魔物を素手で倒していました。


 それでいて、実戦は昨日がほとんど初めてらしいのです。私はソフィアン様に何度驚かされるのでしょうか。


 河に着いた途端、服を脱いで河に飛び込む様子は年相応の行動で微笑ましいのですが、その美しさに私は見惚(みと)れてしまいました。


 乙女のようにきめ細かい白い肌、華奢なのではなく引き締まった細い体、プラチナブロンドの輝く髪に空色の美しい瞳、そして整った顔立ち。


 精霊王イリス様がこの世界に与えた精密な細工のようだと思い、ソフィアン様が声をかけてくださるまで、私はしばらくぼーっとしていました。


「ジーナさんも水浴びしようよー!気持ちいいよー」


 私がいた村でそのようなことを言われた日には、「変態!」と即効ぶん殴っていたところですが、ソフィアン様の言葉には一切下心のようなものは感じられません。


 私は知らず高鳴る胸を押さえ、服を脱いで河に入りました。


 ソフィアン様に助けていただいたこの命、彼に捧げたい。


 いつの間にか、そう考えている私がいました。


 昨日会ったばかりの彼に、どうしてこう魅かれるのでしょうか。


 本当にソフィアン様は不思議な方です。


 火照った体に、冷たい水が心地よかった。











 ■


 水浴びを終えて河を出る。


 体を冷やして体調を崩すわけにはいかないので、焚き火をするための木を集めてきた。


 ジーナさんに何かあってはいけないので、気配探知で周辺の安全を確認し、近づく魔物は掃討した。


 そういやジーナさん、下着つけてなかったな。


 恥ずかしそうにしてたから見ないようにしてたけど、おっぱい大きかったな。


 初めて見る家族以外の異性の胸が、やけに印象的だった。


 なぜあんなにも気になってしまうのか。あれはただの脂肪の塊だろ?だが…


 などと良く分からない思考に捕らわれつつも、作業を進めていく。


 ジーナさんも水浴びを終えたようで、胸を隠しながら焚き火にあたった。


 血や汗で汚れた衣服は洗い、焚き火のそばで乾かす。


 お昼ごはんがまだだったので、先ほど倒した魔物の中にライトニングディアがいたので、何体か解体し、見つけたハーブを使って香草焼きにして食べた。


 噛むたびに肉汁が溢れ、かなり美味しかった。自分で獲った食事がこんなに美味しいものとは…


 腹ごしらえも済み、服も乾いたので、(かめ)に水を入れてしまってから洞窟に戻った。


 戻る途中も魔物が何体か来たが、せっかく体を綺麗にしたのだから近づいて戦いたくなく、魔術で刺したり風の弾をぶつけたりして倒した。回収回収。


 ジーナさんは水浴びをし始めたあたりから態度がよそよそしくなった。魔物が出る場所で知らない男と二人きり、なんて状況じゃ仕方ないよね。でも少しさびしい。


 洞窟に付いたら、今日は何もする気が起きなかったので、火の球を出しながらジーナさんの手伝いをした。


 夕ごはんを食べ、明日の予定を考えつつ、さっさと寝床についた。明日はもっと周囲の探索を行おう。ここは広すぎるし、拠点にするのにもっと良い場所があるかもしれない。


 今日はジーナさんがオレのすぐ隣で寝た。泣きながら寝ていたので、どうしたら良いか解らなく、とりあえず抱きしめてみたら泣き止んで抱きしめ返された。


 怪力でがっちりホールドされて身動きがとれなかったが、特に困ることも無いのでそのまま眠った。

お気に入り登録件数、PV数、ユニークアクセス数など、どれも日々多くなっていくのを見て小躍りしています。ひらきょんです。


昨日の後書きにて、第9話で一章とか言っておきながら、こちらの都合で第10話までで一章になりました。この場にて報告させていただきます。


(11/7/22)

河の名称をプラトュス河としました。

(11/7/25)

魔物のランクを『~位種』から『~級』に変更

スキルを撤廃。高速化された思考、分割された思考は【解析】じゃない方の魔法による影響としました。



ご意見、ご要望、ご感想、誤字に誤用などなどありましたら、お気軽に感想までお書き下さい。

魔物や魔法などのアイディアを提供してくださると大変助かります。皆さまの感想、お待ちしています。

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