第3話
予想通り雨が降ったので、家で実験を行った。
先ず、僕が【解析】で再構成したものを"魔術"と名付けた。既存の魔法とは発動方法など様々な違いがあった為、違う名前を付けて区別した。
母さんに協力してもらった結果、魔術は魔力さえあれば誰でも使えるものだと解った。人は多かれ少なかれ魔力を持つ。魔力がない人間というのはほとんどいないらしい。
また、式の組合せを変えることで効果も変わることが解った。
この2つのことが解っただけで、魔術の価値はとんでもないものになった。
下手をすると、国家間のパワーバランスを崩しかねないのだ。
現在、各国の軍は魔法使いを中心にした編成になっている。これは、魔法使いという存在が強力であるためだが、ここに魔術という物を落としたらどうなるだろう?一国にのみ魔術の存在を教えたらどうなるだろう?発動するまでに時間がかかるのが今のところ難点だが、その点を差し引いても汎用的で応用力に富む魔術は魅力的と言える。
それを考えると、魔術の使用に関して慎重になった方が良いと思う。
とは言うものの、盗賊に石の槍をブチ込んでいるところを、村の人にバッチリ目撃されていたらしく、既に村中に噂が広まってるらしいが…曰く、ソフィーが盗賊を魔法で倒したとか、ソフィアンが魔法を使った時に空中に何か描いていたとか…
その晩、夕ごはんを食べた後、父さんは僕のことを相談しに村長さんの家に行った。
僕が寝る時間になっても父さんは帰ってこなかった。
翌日目が覚めると父さんがいた。話が長くなり夜も遅くなったから村長さんの家に泊ったと言っていた。お泊り羨ましい。
朝ごはんを食べながら昨夜のことを聞いてみる。
村長さんの耳にも噂は入っていたらしく、魔術に関して父さんは包み隠さず話したらしい。
その結果、今日の昼にでも、村長は僕のことを村のみんなに話して理解を得よう、という結論になった。
カルサに近いこの村では、使える技術は何でも使いたいらしい。
この村は一応はバルディア帝国の領土内に存在するが、実際はどこの国にも属していない。外からの訪問者はなく、閉ざされた環境のこの村なら秘密は漏れまい、とのことだ。
魔術がみんなの生きる力になるなら、それは素敵なことだと思った。魔術の有効的な使い方を考えていた僕には嬉しい提案だった。
「僕はそれで良いよ。家の外でも色々試したいし」
「そうか、村長さんにそう伝えておくよ。ただし、魔術の使用にはお父さんかお母さん、あとはギルが帰ってきたらあいつも大丈夫かな?必ず誰かが同席すること。良いかい?」
僕はうん!と元気よく答えた。
昨日実験した中で、盗賊が貴重品を入れた黒い空間 ―【解析】によると《収納》と言うらしい― を作っても、中には何も入っていなかった。それを解消するために、母さんと一緒に外に出た。
戦闘向きの魔法を使える2人の盗賊は、あの一味の中で頭をやっていたらしく、その二人が死んだことで盗賊たちは投降した。最初は逃げようとしたらしいが、盗賊の頭が作った壁で脱出できないと気付いたようだ。
捕えた盗賊は、村から盗んだ物をどこに隠したか吐かないらしく、村の出入り口の近くに手足を縛って転がしているらしい。その芋虫の中に、アイテムボックスを出せる盗賊がいないか探したら、いた!
母さんに脅してもらって盗賊に魔法を使わせる。あっさり自供させるなんてさすが母さん!キラキラと尊敬のまなざしを向ける。
魔法を使った盗賊の近くに黒い空間が現れる。それを【解析】を使って調べてみると、個人識別のロックがかかっているらしい。【解析】したからロックの外し方が解ったけど。
《収納》
僕が出したアイテムボックスに驚く盗賊たち。中にはこの村で盗んだ物の他に、かなりの量の宝が入っていた。
それを確認すると、アイテムボックスを閉じ、盗賊たちにニコッと笑みを見せた。
バイバイ
取られた宝を村長さんに確認して貰ったら、あの盗賊たちには用がなくなるんだろうなー、と思って手を振った。
どうも、この間の事件以来、自分が酷薄な人間になってる気がする。これはあまり良くない傾向だな。癒しを探そう。妹萌えとかどう思う?冗談だけど。
しかし、それは冗談ではなく、近い将来現実になるのであった…
とか空の声を入れてみる。
遊びって大事だよね。心に余裕を!生活に潤いを!
そんなことを考えつつ村長さんの家に到着。
母さんが、盗賊たちが奪った物が見つかった旨を話す。
昼に村のみんなに知らせる前に、村長さんには魔術とはどういったものか見せた方が良いと思って、《収納》の魔術を発動する。
今日何度目になるか忘れたけど、空中に黒い空間が開く。中は見えないが、発動者である僕には何が入っているのか解る。とりあえず村の人の物を取り出して、残りの物はゴミ箱をひっくり返すように一気に出す。
大量の銅貨、銀貨、金貨、白金貨、宝石、酒に食糧まで。あとは本が一冊。かなりの量が出て来てあっという間に山を作る。
やらかしちゃった☆
何が入ってるのか解ってたつもりだったんだけど、実物は凄まじいなー(棒読み)
驚きすぎて村長さんのアゴが外れそうだ。
なんとか正気になった村長さんにこの宝をどうするか訊ねたら、
「ソフィーちゃんがその『あいてむぼっくす』で管理してくれんかのう」
と頼まれたので了承する。
取りだしたものを全てアイテムボックスに戻す。【解析】した結果、アイテムボックスの中は無限に空間が広がってるらしく、中の時間は止まってるようだ。生き物はダメだが、死んでるものや体の部位などは入るみたいだ。余命幾許もない芋虫に感謝とお別れを。こんな便利なものをありがとう!そしてさようなら。ご都合主義まんせ―!
村長さんの家を後にして診療所へ。マリーとミリーの顔を見る。お兄ちゃん5歳にして汚れちゃったよ…二人の無垢な寝顔に癒される。妹萌え、アリかもしれない!いや、血のつながりは無いのだし、義妹萌えか…胸が熱くなった。
お昼ごはんを食べた後、広場で村長さんの話が始まった。村の入り口にはもう芋虫の姿が見えなかった。
あんな芋虫状態にされたあげくに殺されるなんて、最高にカッコ悪い人生だよね。カッコいいと思われる人生を歩みたいものだ。
村長さんの話を聞きながらそんなことを考えていた。村長さんの話は、盗賊の襲撃はうんぬんかんぬんから始まり、犠牲になった方には~~~~と続き、今後このような悲劇を繰り返させないと誓おう!と締めた。
そこから改めて僕の紹介をして、盗賊が来たときの僕の行動を褒めちぎってくれた。そこまで言われると照れる。美化されてる自分の行動を聞いて体中が痒く感じた。
そして魔術の紹介になった。外に一時間近くいて暑かったので氷の魔術にしよう、と使う魔術を決める。大きさと場所をイメージして魔術を発動。
《氷塊》
話を聞きに来た人たちの後ろに、2m四方の氷の塊を作る。
突如現れた氷に、村人が驚きの声を上げる。子供たちは初めて見る氷に興味津々で、恐る恐ると言った感じで氷に触れ、その冷たさに目を丸くする。
僕も氷を見るのはほぼ初めての筈なのだが、初めて見た氷が門番さんに刺さったオブジェだった為、感動も糞もなかった。いやー、純真さがまぶしい。
年中蒸し暑いこの村には氷の魔術は最適だと思う。戦い以外にも使えると、魔術の有用性を示す。紹介の仕方としてこれ以上の物はないんじゃないかな?
村長さんに、まだ魔術について解ってないことが多いということと、術発動までの時間を短くできないか試したいと伝え、みんなに魔術を教えるのはしばらく待ってもらう、ということになった。
魔術のデモンストレーションが終わり、広場から解散した。後には溶け始めている氷と、その冷たさに夢中の子供たちだ。そんなに喜んで貰えるなら明日も広場に氷塊を出そう、と僕は決めた。
村を囲んでいる石の壁と石の槍を地中に還して、家に帰った。思ってた以上に魔力を使った為、かなり疲れた。
大量の魔力を使うと、魔力疲労を起こす。今みたいに倦怠感だけの時もあれば、このあいだのように魔力を全て消費すると気絶することもある。
魔力も、筋肉のようにたくさん使うことで強化されていく。魔力の場合、筋肉痛にあたるのが魔力疲労だ。魔力は休息を取ることで回復するので、僕にとっては鍛え易い。わざわざ『僕にとって』としたのは、普通は魔法を使うことでしか魔力は消費されないからだ。
うだー、とテーブルに伏せながら休憩する。ある程度回復したところでまた外に出る。
盗賊の襲撃があってから、ヤス君に会ってなかったので、マイお姉さんの工房に行った。
ヤス君とマイお姉さんは、前と同じように僕に接してくれた。いやー癒される。
ヤス君と一緒に広場の氷を削ったり、おやつを食べて和んだり、ユキちゃんをあやしたりした。鬱屈した僕の心がかなり癒された。ありがとうヤス君。君は本当に良い友達だよ。
夕方になって、ヤス君にまた明日ーと手を思いっきり振る。ヤス君も思いっきり手を振って送ってくれた。
夕御飯ができるまで、ベッドの上でアイテムボックスの中に一冊だけあった本を手に取る。知らない文字の本だったが、【解析】を使ってだらーっと読んでみたら10分くらいで読めるようになった。この魔法ホント便利だなー。
本はエルフが書いた日記みたく、裏表紙に『シルヴィア』と名前が書いてあった。
村長さんの家で読んだ歴史書に書いてあったが、エルフは1000年前の幻魔戦争の際、異界よりやってきた亜人の一つだ。
亜人とは、魔物が僕たちが住む世界に侵攻した際、異界から現れた人間のことで、エルフ、ドワーフ、竜人、獣人のことを指す。それ以外にもいるらしいが、主なものは先の四種族だ。
エルフは全ての者が美しい容姿をしており、生まれながらに高い魔力を有し、長寿の一族とされている。
ドワーフは成長しても身長が成人男性の胸ぐらいまでの高さしかないが、怪力と手先の器用さが特徴的である。
竜人は竜の鱗と角、尾を持つ種族で、怪力、高い魔力、長い寿命を有す最強の種族であるが、繁殖力が低い為その数は多くない。
獣人は野生の力を持った種族である。例えば猫族は猫耳、尻尾を持つ種族で敏捷性が高いなどである。犬耳やウサ耳もいるらしい!
異界から来た為、僕らが使う言語と亜人が使う言語は異なる。
そんな亜人たちだが、一般的には異界からの侵略者と見られることが多く、差別の対象になっている。会ったこともない人間を差別する、というのは僕には理解できない感情だ。
別に彼らは侵略者としてやってきたわけではなく、活発化した魔物から追われ、こちらの世界に逃げてきただけなのだ。
世界に唯一ある宗教、世界を守護する精霊たちの王、イリスを祀るイリス教の教皇によって、彼らが侵略者ではなく、姿かたちは変わっていても同じ人間である、という知らせを世界中に出したのにもかかわらず差別は止まなかった。
その差別は見える形で表れる。
奴隷だ。
奴隷制度は幻魔戦争前から存在し、犯罪を犯した者(重罪の場合は牢獄や処刑台行きだが、保釈金の払えない人間が軽犯罪を犯した場合は奴隷となる)や、身売りしたものを奴隷として売買するものだ。
人攫いは全世界で違法としているにも関わらず、亜人を奴隷として捕まえるのは見て見ぬふりされている状況である。
亜人たちのほとんど全てが、強力な魔物が犇めくカルサで暮らしているが、滅多に人前に現れないその希少さから、人攫いによって捕まり、奴隷として売られる。
参考までに、奴隷となった彼らが子を作ったことは今まで無いそうだ。そうなる前に自害するらしい。
長くなったが、そんなエルフの所持品を盗賊が持っていたのだ。そのエルフがどうなったのか想像に難くない。芋虫のくせに。
考えたら気分が悪くなったので、今日は本を読むのをやめた。
アイテムボックスに本を突っ込んで、夕ごはんを食べに向かった。
夕ごはんを食べ終わった頃にはエルフの本のことは頭からすっぽりと抜けていた。
夕ごはんの際に、母さんにもっと剣を習いたいと言った。魔力の制御や感知も習いたかったのでその旨も伝えたが、意外や意外、良い返事がかえってきた。危ないことはダメ!と言われるのかと思ったが、そういう危ないことに進んで首を突っ込みそうな僕に、対処できるだけの力を付けさせた方が良い、ってのが理由らしい。いつから僕の評価はそんな風になってしまったのか。心外である。が、了承してくれたのなら文句は言えない。否定できないというのもあるが。
後日、ちゃんとした剣の稽古が始まる。
稽古は早朝と夕方に、素振り、母さんと直接木剣を打ち合う実戦形式、その反省点を上げてまた素振り、のような形式で行う。稽古の間は【解析】は常に使用することを厳命されている。その方が稽古の効率がよく、且つ戦闘中も魔力を使用する集中力を身につけるためらしい。
精神の方は色々達観しちゃってたのでアレだが、体の方はまだまだ幼いのでそれほど激しい運動はしていない。が、体力もそれほどない為、すぐにへばってしまった。その所為でランニングが追加された。
魔術の方は、問題が2つ発生していた。
1つは発動する度に指で式を書かなければいけないその時間をどうにか短縮出来ないかということ。
もう1つは、魔力で描いた式を他人が見ることで、魔術が漏えいする危険があることだ。式の色は意識することで透明にできたが、そうすると見えなくなったために式が描けなくなった。
何このジレンマ。未だに解決方法は見つかっていない。
それほど簡単に新しい技術を確立できるはずもなく、気長にやるしかなかった。
2週間ほどしてギルさんが帰ってきた。
ギルさんは、盗賊の襲撃があったことと敵に魔法使いがいたために死者が出たことを聞いて、自分がいれば…と後悔していた。
僕が魔法を使えたことに加え、魔術という新しい技術を確立させつつあると知ってえらく驚いていた。
「ソフィー嬢が凄いのは知っていたが、これ程とは…」
などと感慨深げに言う。今回は訓練の後でクタクタだったので突っ込まなかった。
ギルさんが街で調べてくれたことによると、僕のいた村は、みんな僕と同じ色の髪と瞳で、なんでも解りきったような醒めた性格をしていたらしい。事件の前までは僕もそんな感じだったんだろうなー。アレ以降だいぶ性格変わった気がする。
僕のように魔術のようなものを使用したという話は聞かなかったらしく、やはり脳をいじったことで魔法が解るようになったんだろうなー、と思った。
最後に、僕が母さんから剣を習ってると言ったら、いつの間にかギルさんから格闘術を習うことになっていた。曰くあいつには負けられないとか、あいつに弟子がいてオレにいないなんてありえないとかだ。この人こんな性格だっけ?どんだけ母さんに対抗心燃やしてるんだよ。
そう言うわけで、僕の多忙な生活はさらに加速するのであった
「ハァイ♪TIGER & BUNNYの同じメガネを5つ持ってるほう、バーナビーです。」
のフィギュアを予約できなかったひらきょんです。負けません、勝つまでは。
お気に入り登録数が8件に増えていてビビりました。
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