第2話
自分の胸の内を両親に明かして以来、以前よりもっと家族のことが好きになった。
マリーとミリーの様子を見に行って二人に絵本を読んだり、それを二人が聞いて喜んでくれたり、それから、マリーの出した火で火傷しそうになったり、だっこしてる時にミリーがお漏らしをしたりなど、散々な目にも遭ったけど、それでも妹たちが愛しいと思えた。
それから、本の知識を本当に理解してるのかを確かめるために、母さんから剣術を、父さんから薬の調合などを習った。実際にやってみると、頭の中のイメージと少し違ったが、修正しながら学んでいった。薬の調合は本の通りの物ができたが、剣の方は教本通りで綺麗過ぎるとダメ出しを食らった。それでも、上達が早すぎて二人とも驚きを通り越して呆れていたが…この上達の速さも魔法の影響なのだろうか?はじめて木刀を振って、手に豆ができた。
魔法と言えば、父さんが傷を治す時や、マリーが火を出した時、自分の中で何かが届きそうな感覚がした。昔、言葉を覚えようとした時や、一人で文字を覚えようとした時、本の内容を理解した時もそんな感覚がしたかもしれない。その時はちゃんと届いた。だけど、それらとは違って、後もう一歩なんだけど、その一歩が永遠に届かない。そんな良く分からない感覚を感じていた。
あと、ギルさんが街に交易に行くらしく、父さんが僕の魔法について調べてくれ、とお願いした。
「ソフィー嬢の為なら仕方ないですね」
そう了承してくれた。父さんは、僕が産まれた村について調べれば何かわかるかもしれない、とギルさんに伝え、道中の無事を祈った。あと、僕は男だと何度言えば…
ギルさんは村では2番目に強いから、街までの道のりなら大丈夫だと思う。ちなみに、一番強いのは母さんだ。魔法抜きの状態だとギルさんの方が強いらしいが、魔法ありなら母さんが一番とのことだ。
今まで通り、家族と団欒して、ヤス君たちと遊んだりと幸せな日々を過ごした。
そんな幸せを壊すように、事件は起きた。
今日は朝ごはんを食べた後、ヤス君と遊んだ。マイお姉さんの工房を見たり、ユキちゃんと遊んだり、年上の子供と一緒に鬼ごとをしたりして過ごした。お昼ごはんは昨日約束していたので、マイお姉さんの所で食べる。
食べ終わってウトウトしだした頃、外で悲鳴が上がってビクッとした。
何があったんだろうと思って外に出てみると、村の出入り口で見張りをしていたおじさんが、血を流して倒れていた。
背中に氷の槍を刺した状態で。
「盗賊だー!」
村の誰かが言って、武器を持った村の男たちが盗賊と戦い始めた。
村の周りにはいつの間にか石の壁ができており、村の外に逃げることはできなくなっていた。
迷い込んだただの盗賊なら、簡単に返り討ちに出来るのだが、奴らは強く、村の男たちと互角の勝負をしていた。
なぜそんなに強かったのか、後で聞いた話では、盗賊たちはカルサを根城にしていたようだった。
さらに、盗賊たちの中に、魔法使いがいるようで、このバランスは崩される。
村の人たちは一人、また一人と殺されていった。
ある者は空中から降ってきた氷の槍に貫かれ、またある者は突如現れた石の壁に視界を塞がれ、それに動揺した隙に切り殺されていった。
僕たちは村で一番大きい村長のおじいちゃんの家に避難した。
村長さんの家に急ぐ途中にある家を過ぎる時、貴重品を黒い空間に入れてる男が視界に入った。あれも魔法なのか?
届きそうで、だけど絶対に届かない感覚。僕はまたそれを感じる。
村長さんの家に着いた後、母さんと父さんがマリーとミリーを抱いて入ってきた。僕の無事を確認すると、母さんは敵の魔法使いを倒しに戦いに、父さんはけが人の治療をはじめた。
母さんを見送りながら、何もできない自分の体の小ささを呪った。いや、小さくても攻撃用の魔法が使えれば戦えるのに…
窓から見える光景は、母さんが魔法使いを二人相手にしている。魔法使いを相手にするには魔法使いか、対魔法使いの訓練を積んだ者じゃなければダメだと母さんが以前教えてくれた。敵の魔法使いを母さんが引き受けてくれたお陰で、村の男たちは普通の盗賊との戦いに集中することができた。
母さんが魔法で火を生みだし、盗賊の片割れにぶつけようとするも、石の壁がそれを阻む。
さらに、接近しようとした母さんの目の前に石の壁が現れ、視界を防ぐ。
すぐに母さんが石の壁から後退すると、元いた場所に氷の槍が2本降り注ぐ。
今はまだどうにか戦えているが、このままだと母さんが負けると思った。母さんが殺される…!
どうにかしたい。
どうにかできないのか。
母さんと盗賊の魔法を使った戦いを見ながら、永遠に届かないという感覚を感じる。届いても何も変わらないかもしれない。でも何もしないで大好きな人がいなくなるのはイヤだ!
なら届けば何かが変わる!そう願った。
届かないなら届くように変われば良い。
【\txンa[dョウ】
自分の中で何かが起き、そして変わった。
頭が一瞬痛み、その痛さに膝をついた。
次の瞬間には、自分に起きたことを理解する。詳細は不明だが僕が魔法を使っているのだと解る。
父さんが僕に何か言ったような気がするが、今はそれどころではない。
【\txンa[dョウ】発動 脳の未使用領域を解放。
まだ届かない。
【\txンa[dョウ】発動 脳の構造を最適化。
頭が割れるように痛んだ。
だけど、これで届いた。
そして、感じた。
僕は魔法を理解した。
そう確信したと同時に村長さんの家を飛び出した。
後ろから父さんやマイお姉さんの呼びとめる声が聞こえる。
だけど、今だけは振り向かない。
僕ができることをやり遂げる!
盗賊に見つからないようにこっそりと、だが迅速に移動する。
村人と盗賊の戦闘地帯から離れ、且つ母さんの姿が目視できる場所を見つけ、魔法を発動する。
【解析】
言葉を覚えた時、文字を覚えた時、そして本の内容を理解した時、そして魔法を見た時、
今まで無意識に発動していた魔法を意識的に発動する。
僕が今まで見た魔法を分析、そして理解する。
更に、再構成。
イメージするのは先ほど見た魔法。
体の魔力の流れを意識し、魔力を指先に集め、空中に再構成した式を描く。
それは円の中に様々な記号や文字を描いたもの。
式を描き終わり、式にありったけの魔力を注ぎながら発動させる。
《石の槍》
■
かなりやばい状態かもしれない。軍にいた時なども多対一の魔法戦を行ったことがあるが、今度ばかしはダメかもしれない。剣の間合いに入ろうとしても、目の前を石の壁で塞がれ、その隙に氷の槍で攻撃するという息のあったコンビネーションが厄介だ。
一対一に持ち込めれば勝機はあるのだが、相手がそれを許さない。
ギルがいればどうにかなったのに、と思うが、今ここにいない人物のことを考えても意味がない。
どうすればこの状況を突破することができるか、動きながら思索していると、少し離れた場所からかなり大きな魔力を感じた。
下手すると私より大きな魔力に冷や汗をかく。
新手かと思ったが、違う。
魔力を感じた場所に視線を移すと、そこにはソフィアンがいた。
ソフィアンは空中に何か図のようなものを描き、そして異変が起きた。
二人の盗賊の足元に魔力が走った後、
石でできた槍が地面から生えたのだ。
その槍は、根元の太さが直径50cm、高さが3mにも及ぶものだった。
突然の事態に対処できずに、盗賊の一人は槍に貫かれて死んだ。
同じ地面を利用する魔法だからか、石の壁を作る盗賊は槍を避けた。
だが突然の事態に隙が出来る。
私はすかさず残った盗賊を火で燃やし、一瞬で灰にする。
盗賊二人の死を確認した後、ソフィアンのいる方を見ると、あの子は地面に倒れていた。
目を離している間に攻撃されたのかもしれない。
そう思った私は、進路上の邪魔な盗賊を燃やし、斬り伏せながら、ソフィアンの元に全力で駆けた。
■
目を開けると、視界に映るのは毎日見る家の天井だった。
窓から漏れる陽の光から、今はまだ昼頃だと予想した。
横を向くと母さんが椅子に座りながら僕のベッドのそばで寝ている。
いつもは妹たちと一緒にいる時間なのに…
これはどういう状況?少し整理する。
マイお姉さんの所で昼ごはんを食べた後、村に盗賊が来て、母さんが戦ったけど、少し押され気味で、なんとかしたいと思ったら良く分からない魔法が発動して、脳をちょっといじったら母さんたちが使っている魔法を理解できるようになって、再構成した魔法で盗賊の一人を殺した、と思ったら体が重くなって、えーとそれから…
それから先を覚えていない。もしかして気絶した?
などと考えていたら母さんが目を覚まして、僕が起きてるのに気付いた。
「ソフィアン起きたのね!?どこか痛くない?」
「大丈夫だよ、母さん」
僕の体を触りながら確認してくる。少しくすぐったくて体をよじらせると、ある程度触って気がすんだのか、確認をやめる。母さんは僕が起きたことを父さんに伝えに行き、父さんと一緒に戻ってきた。マリーとミリーは寝ているようで、今はマイお姉さんに様子を見て貰っているようだ。
父さんに触診と問診をされ、何も異常がないという診断を下された。父さんに聞いたところ、僕はどうやら2日意識を失っていたらしく、母さんが付きっきりで看病してくれたそうだ。大量の魔力の消費が原因のようだ。
診断を聞いて母さんがやっとホッとした顔をした。と思ったら顔をキッと怖くして
「ソフィアン!どうしてあんな無茶をしたの!」
怒られた。怖いので正直に答える。
「母さんが殺されちゃうと思ったから…」
「だからってソフィアンが危ない目にあったらどうするの!」
「まあまあ、カルラ。ソフィアンが無事だったんだから、良かったじゃないか。」
父さんが仲裁に入ってくれた。
「心配掛けてごめんなさい」
「ああ。母さんを助けようとしたのは立派なことだと思うが、無茶はいけないと思うぞ。」
僕が母さんがいなくなるのと同じくらい、二人は僕がいなくなるのが怖かったらしい。本当に申し訳ない…
「それにしてもソフィアンが石の魔法を使えたとはな。てっきり補助系の魔法だと思っていたが…」
「石の魔法以外にも使えるよ?」
僕はそう言うと、空中に式を描く。
以前描いた時よりも落ち着いている為、前より速く描けそうだ。
イメージするのは氷の塊。
少量の魔力を使用して、《石の槍》とは所々異なる式を発動させる。
《氷塊》
部屋の誰もいない空間に、30cm位の大きさの氷の塊が出現する。
それを見て、二人は口をパクパクと開けたり閉めたりしていた。言葉を発しようにも出てこないようだ。
ようやくショックから抜け出した母さんが僕に訊いた。
「ソフィアンは2つも魔法を使えるの?」
「いや、母さんの火の魔法も父さんの癒しの魔法も使えると思う…」
「!?どうしてこんなことができるようになったの?」
僕は母さんが戦っている時に自分の身に起きたことを話した。【解析】で盗賊が使っていた魔法を解析し、それを再構成したのが先ほどの光景だった。魔法で脳をいじったくだりで父さんにまた怒られた。
「じゃあ、ソフィアンの魔法はその【解析】と脳をいじったっていう魔法の2つなのかい?」
「多分そうだと思う…」
僕の話を聞いて二人は絶句する。顔が少し青くなっている…僕自身未だに信じられないほどだ。
以前読んだ本の中に、魔法に関するものがあったが、それによると、魔法とは以下の様な特性がある。
『魔法は遺伝するが、必ず遺伝されるものではない。
生まれた時点で一定の魔力を持っていれば魔法は遺伝される。
両親が異なる魔法を使える場合、どちらか一方の魔法しか遺伝されない。
親が魔法を使えない場合、子に魔法は遺伝しない。
稀に血筋に関係なく魔法に目覚めるものがいる』
このことから、通常、魔法とは一人一つが原則である。
が、何にでも例外は存在する。
その例外とは、
1000年前に起きた人類と魔物の戦い、幻魔戦争を人類の勝利に導いた勇者
『始まりの魔法使い』にして『封印の英雄』
オーガスタ・マクベインである。
彼の英雄は、僕が読んだ英雄譚に拠ると、火や雷などを虚空に出現させては魔物を倒したらしい。それ以外にも魔法を使っていたようだが、僕が読んだものには記されていなかった。
魔法が人類の力になって以来、複数の魔法を所持した人物はオーガスタ以外に存在しない。
そんな伝説の勇者の話を引き合いに出すほどの異常事態が現在進行形で自分の体で起こっている。
それに、僕の持つ魔法自体にも問題があった。こっちの方が魔法の複数所持よりも問題かもしれない。
魔法の片方は効果が良く分かっていないが、もうひとつの【解析】が異常なのだ。
いや、異常を通り越して異端とも言える。
魔法を解析して、他人の魔法を使えるようにしてしまうというこの魔法は、とんでもない可能性を秘めていた。
全ての魔法の使用
そんな夢物語、魔法使いの妄想のようなことを現実にできるかもしれないのだ。
「ソフィアン。魔法が2つ使えるということと、【解析】で使えるようになった魔法はまだ誰にも言ってはいけないよ」
父さんが言ったことに僕も同意見だった。村の人になら知られても大丈夫かもしれないが、外の人間にもしばれたら、良いように使われてしまうだろう。
「よし、この件はひとまず置いときましょ。2日も眠りっぱなしだったから、ソフィアンお腹すいたでしょ?みんなでお昼ご飯にしましょう」
そう言われた途端、僕のお腹から大きな音がした。それを聞いた父さんと母さんが笑ったので、少し恥ずかしかったが、みんなでごはんを食べに向かった。
12名の死者を出した今回の盗賊騒ぎは、村に深い傷を残したのと共に、僕の分岐点になる出来ごとだった。
僕はこの力をどうすればいいのだろう?
何か有効に使えないかとごはんを食べながら僕は考えに耽る…
昼ごはんを食べた後、母さんたちと家の外に出たら、村の出入り口と川のある方向の石の壁は崩されているのが見えた。石の槍は2本ともまだあり、片方は赤黒く変色している。
自分が人を殺したという実感したが、罪悪感は感じなかった。罪のない人を殺めてしまったのなら感じたのかもしれないが、大切な人を害しようとした盗賊には何も感じなかった。
初めて人を殺しておいてあまり動揺していないのも、【解析】で自分のことを客観的に解析した所為かも知れない。
今まで無意識に行っていた【解析】だが、意識的に行うと今まで解らなかったことも解るようになった。
「あと30分もすれば雨が降るよ」
母さんたちに教える。
そして半刻後に雨が降った。
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