第10話
成人の儀までは、修行の日々が嘘みたいにのんびり過ごした。
ジーナを村の人に紹介して、その怪力(まだオレの方が上だが、このままだと確実に追い抜かれる)に驚かれた。みんな亜人に対して普通に接しており、本当に良い村だよなーと実感した。
新しい魔術を村のみんなに教え、改名したことも告げた。最近では子供たちも魔力のコントロールを行って、将来の訓練に備えているらしい。頼もしい限りである。
魔術の使用に関する質問を受けて答えたりと、魔術の指導も行った。人に何かを教えるのって楽しいかもしれない。
消費する魔力と魔術の難易度の関係もわかった。やはり発動するのに必要な魔力が増えれば増えるほど、魔術の難易度は上がるようだ。基本魔術を難易度で更に分け、《ファイア》《ウィンド》《アクア》を下位属性、《アイス》《ストーン》を中位属性、《サンダー》《ヒール》を上位属性とした。《ウィンド》は他の下位属性と比べて若干必要な魔力の量が多いが、難易度的には同じくらいと評価された。《サンダー》は《ヒール》と同じく、村の中では使えるものがほとんどいないので、上位属性と分類しても良いだろう。一先ずはこの区分で良いように思う。下位よりも下とか上位よりも上とか出てきたら面倒だな。
魔術について新たにわかったことだが、今までの《ヒール》では治療に多少の時間がかかったが、強化された《ヒールII》はそれを今までよりも短時間で治療できるようになり、さらに、軽度の病気等も治療できるようになった。村のみんなもそうだが、診療所を開いている父さんはこれを特に喜んでいた。僕も父さんの手伝いが出来て良かったよ。
《念話》のテストもしてみたが、消費する魔力も少なく、魔術の発動も簡単というもので、その使い勝手はかなり良かった。たぶん今までで一番簡単なんじゃないかな?その効果は、お互いに魔力を交換しあうことで、どれだけ離れても話をすることができるというものだ。イメージを送ることもでき、さらには複数人との会話も可能であった。また、魔力を交換した副産物として、相手が今どこにいるのかだいたいの距離と方角を感じることができるのも便利だった。相手と話したく無かったり、場所を知られたくないときは、そう念じれば相手との繋がりを一時的に断つことができ、完全に繋がりを断ちたいと思えば相手との繋がりは切れる。オレは家族やギルさん、ヤス君にユキちゃん、そしてジーナと魔力を交換した。これでいつでも連絡を取れるようになった。が、妹たちが、近くにいるにもかかわらずに毎日コールをかけるのはどうにかして欲しかった…。
オレが半年間いなかったのを、引き籠っていたのだと勘違いして突っかかって来た同年代の男がいたが、デコピン一発で倒した。加減したつもりだったが、相手は盛大に吹っ飛んで気絶してしまった。《ヒールバレット》を飛ばしたし、怪我とかは特になかったけど、流石に焦った…。自分がかなり人間離れし始めたのを実感したよ。
ファンクラブは未だにあるらしく、会員は続々増えているそうだ。ジーナも受け入れてくれて良い村だよなーとか思ったオレの気持ちを返せ!会員が男の方が多いとか、なぜに!?マリーとミリーも会員だったのにはあまり驚かなかったが、実はさっきのデコピン男も会員とかさぁ…。この村の将来が心配になって来た。
ジーナはオレの従者になると張り切っており、掃除に洗濯、料理などの家事全般を手伝い、母さんの信頼を勝ち取っていった。妹たちは最初はジーナにツンケンしていたが、今では「お姉さま―」と呼んで慕っていた。偶にこっちを見て3人(ユキちゃんを入れた4人の時もある)でヒソヒソと話し合ってるけど、何話してるんだろう?あの組み合わせだと悪口ではないと思うけどなー。
旅の準備として、マイお姉さんに、魔獣系上級の適応トカゲ(どんな環境でも適応するからとかそんな安易な名前を付けられた可愛そうな魔物だが、一度食らった攻撃にも適応するため、その強さは上級に相応しいものである。色は灰色で、体長は2mを超える。肉は歯ごたえがあり美味しかった)の皮で作ったフード付きのマントを1着作ってもらった。その素材と作った人の腕が良かった為、この暑い中着ても暑くない、という素晴らしい出来になった。着心地が良かったので、余った分の素材と新たな適応トカゲの素材で、代えの分をもう1着とジーナの分を2着作って貰った。お金を払おうとしたら、「いつも家の子供たちと仲良くしてくれてるし、村の為に頑張ってくれたソフィーちゃんからお金なんて取れないわ」と言われて受け取って貰えなかった。仕方がないので店を出る際に上級の魔物の素材をこっそりごっそり置いてきた。それにしても、鍛冶だけでなく裁縫もこなすとは…マイお姉さんは凄腕である。ヤス君は家業を継ぎたいらしく、昔からマイお姉さんの手伝いをしている。いつかヤス君に装備を作って貰えるだろうか?楽しみである。
ユキちゃんは魔術の才能があるのか、オレ以外で唯一《収納》の魔術を使うことができた。他にも上位属性の魔術を使えたりと、今のところ僕が使える魔術はユキちゃんは全て使えるみたいだ。魔力量がまだ多くない為、難しい魔術は日に一度しか使えないようだが、それも日々の特訓の成果で少しずつ増えて行っている。「ユキちゃん頑張ってるね。えらいえらい」と言って頭を撫でたら、顔を真っ赤にしつつも嬉しそうだった。うんうん、ユキちゃんもウチの妹ズと同じくらい可愛いのう。嫁入りして欲しくないなー。
修行の時は無かった香辛料を使ったごはんは格別で、修行のお陰でそのありがたさが分かった。マリーとミリーが料理を張りきって作ってくれ、以前作ってくれた時よりも格段に上達していた。このシチュー美味ーい!キッシュも良い焼き加減だし。幸せである。
「二人は良いお嫁さんになれるね」
「「ホントですかお兄様?」」
「うん。オレが保証するよ」
二人の料理の腕を評価すると、かなり食いついてきた。自称美食家(公称は地喰らい)のオレに料理を作ると、30人前はペロリと平らげる(そこまで食べなくても生活する分には良いのだが、食べるのが楽しい)ので、その調理はいつも戦いになる(らしい)。その所為か二人の料理の技術はぐんぐんと上がるのであった。オレの素直な感想に嬉しそうな二人。お兄ちゃんも可愛い妹のごはんが食べられて幸せだよ。嫁入りして欲しくないなー。
そして成人の儀の当日を迎えた。
数日前から祭りの準備をはじめ、準備の間もみんな楽しそうに笑っていた。
オレも、修行をしていた場所で狩りを行い、魔物をたくさん仕留めてきた。みんなの為というのもあるが、半分は自分の胃袋の為である。しかし、毎度自分がたくさん食べるから、少し近隣の生態系が心配になってきた。魔物だから構わない気もするが。
祭り当日は広場にテーブルや椅子を出し、村の女性たちが作った料理を並べた。お腹減った。
つまみ食いしようとしたら母さんに阻止された。ちぇ。
成人の儀の為にマイお姉さんに新調してもらった新しい服を着て、祭りに参加する。
今年成人するのはオレとヤス君だけなので、当然注目を集めてしまう。
おい、誰だ?『美女と野獣』とか抜かしたやつ?デカイけど、ヤス君は優しくて良いやつなんだぞ?何よりもオレ、男だから!
村の人たちが楽器を演奏する。おじいちゃんもいれば、小さい子供も演奏に参加している。オレたちはその演奏に合わせて踊った。マリー、ミリー、ユキちゃん、そしてジーナと踊った。なぜかオレに踊りを申し込んでくる男が何人もいたが、何を言ってるんだか。暑いのに鳥肌が立った。
用意されていた料理を片っぱしに食べていく。いやーどれも美味しいなー。
目の前から次々と料理が消えていく光景を見て、「さ、さすが地喰らい…」「早く食べないと全て持っていかれるぞ!」「―ッ!料理が一瞬で消えた、だと。やつは化物か!?」「この光景もしばらくは見れなくなるんだよな」とか言う声が聞こえて来た。拝みだしたおじいちゃんすらいるッ!?
成人したということでお酒も飲んでみるが、どれも美味しかった。「…ゴクリ。これが新しい地喰らいの伝説か…」「村の酒があああああ!」「馬鹿な、あの度数の酒を一気だと…さすが地喰らい!」などと聞こえてくる。そんなにオレの食事の光景は面白いのか?いつか見物料でも取ってやろうか…。
かつて無いほど食べて、流石にお腹がきつくなってきた。大量にお酒を飲んで、酩酊感が気持ち良かった。「地喰らいにも限界があったようだな」「いや、油断はできんぞ?やつは日々進化しておる」「な、なんだってー!?」自分でもこの体のどこにあの質量が入るのか疑問である。
勝手なことを言われていたが、この騒がしさが楽しかった。
すっかり夜も更け、村人は家に帰ったり酔いつぶれたりと、一人、また一人、広場から人が消えて行き、祭りは自然と終わりを迎えていた。
片付けは明日、ということでオレも家に戻った。
マリーとミリーは途中で眠くなったようで、既にベッドの上で眠っていた。その寝顔が可愛くて、オレは二人の額にそっと口づけた。良い夢を。
明日は片づけを手伝って、お世話になった人に挨拶をしに行こう。それで明後日の早朝に村を出よう。
翌日、みんなで片づけをし、昼ごはんの前には終えることができた。よし、挨拶回りをしよう。
先ずはギルさんの所に向かった。ギルさんは昨日飲みすぎたらしく、二日酔いで狩りに行っていなかった。
「なぜあれほど飲んで、ソフィー嬢はケロリとしてるんだ…」
「さぁ?酔いにくい体質なのかもしれませんね。二日酔い治しますよー…はい終了。
あとソフィー嬢って呼び方、いい加減やめてくださいよ」
ギルさんの数倍の量の酒を飲んでいたにも関わらず、二日酔いも何もないオレに恨めしそうな顔を向けたギルさん。《ヒールII》で二日酔いを治して、いつも通りのやり取りを始める。
「一度呼び始めたのに変えたら、なんだか負けたみたいだろう?」
「ギルさんは何と戦ってるんですか!?」
このやり取りもしばらく出来ないと思うと、少し寂しく感じる。
仕切りなおす。
「明日この村を発ちます。今までご指導ありがとうございました!」
「そうか、寂しくなるな。この村はオレ達が守るから心配するな。
そうだ。アルメリア王国に行くことがあったら、王都にいるグランって爺さんを訪ねてみると良い。オレの格闘術の師匠で、けっこうな年だがオレより遥かに強い。操気術の扱いはあの国一番だろうから、ソフィー嬢でも勉強になると思うぞ」
「わかりました。最後まで本当にありがとうございました」
「まぁ、見かけはあれだがな…」
ギルさんが最後にボソリと呟き、気になったが、グランさんに会いに行けば解ることか。
ギルさんに挨拶を済ませ、次はマイお姉さんのところに向かう。
オレが向かうと、ヤス君はマイお姉さんの弟子として手伝いをしており、ユキちゃんはそんな母と兄を座って眺めていた。
オレが来たのに気付いたのか、作業の手を止めてこちらを見るみんな。
「マイお姉さん、このマントありがとうございました。大切に使いますね」
「こっちも良い仕事ができて楽しかったよ。それにしても律儀に『お姉さん』なんて言ってくれるのはソフィーちゃんだけだよ。こちらこそありがとね」
マイお姉さんに改めて礼を言う。ここまで『お姉さん』で通したのなら今後もマイ『お姉さん』である。別に何かと戦っているわけではない。ギルさんじゃあるまいし。
「ヤス君、今までありがとう。ヤス君が友達で良かったよ」
「俺もソフィアンが友達で楽しかった。また会えるんだよな?」
「ああ、勿論だよ。その時には旅の話を嫌ってほど聞かせてあげるよ」
「それは楽しみだな。ほら、ユキも挨拶しろ」
「え、と、あの…ソフィーお兄ちゃん、気を付けて、行って来て、ね?
ユキも、魔術の訓練、がんばるから」
「うん、ありがとうユキちゃん。お土産買って来るね」
大きなヤス君に小さなユキちゃん。オレの大事な友達に挨拶を済ませた。
次は村長や他の村人に挨拶をし、全て終えるころには夕方になっていた。
家に戻ると、普段より豪華な夕ごはんが並んでいた。母さんとジーナ、マリーとミリーが腕を奮ってくれたようだ。その味を噛みしめるように、いつもより味わって食べた。
湿っぽい感じにはならずに、いつも通りの明るい会話をした。マリーとミリーが普段以上に甘えてきたが、しばらくは会えないのだから良しとするか。今でも充分美少女な二人が、4年後にどのような成長をしているか楽しみだ。その時には恋人とか出来ているのだろうか…。うーむ、自立して欲しいような複雑なような…。そんなことを考えているうちに、二人はオレに寄り添いながら寝てしまった。
妹たちを寝室に運び、母さんと父さん、ジーナと話をする。
「ちゃんとごはんを食べるのよ。あと、危ないことは極力しないようにね。」
「そうだぞ。ソフィアンは危ないことに自分から巻き込まれていくような気がするからな。ジーナさんもソフィアンが暴走しないようによろしくお願いします」
「わかりました旦那様。奥様、ソフィアン様のことは私にお任せ下さい」
「自分の身は自分で守れるから心配ないのになー。大抵のことなら何とかできる自信あるし」
「それでもだ。この世界にはソフィアンの想像を超える悪意や強さを持った者がいる。そんな危険な奴に自分から関わるようなことはないようにな」
オレの心配をしてくれるのは嬉しいのだが、過保護すぎないだろうか。やーでも強くなったことで慢心していた部分もあるだろうし、ありがたく聞き入れることにする。
「わかったよ。そんな悪意や強敵を撥ね退けられる位強くなるね!」
「わかったのかわからないのか良く解らない返答ですよ、ソフィアン様」
父母の愛を感じ、照れてそんなことを言ってしまう。
この温もりともしばらくお別れかと思うと、少し涙ぐんでしまった。
そのことに気付かれないように、リビングをあとにして眠りについた。
翌日の朝、みんなに見送られてオレたちは旅に出た。
雲ひとつない空がオレたちの出発を祝福しているようだった。
オレはしっかりと村の様子を目に焼き付けた。自分には帰る場所がある、それを忘れない為に。
出発して早々、妹たちからコールが来て、思わず笑ってしまった。
それに応えて、寝る前になったらまたするね、と言われて《念話》は終了した。この分だと毎日してきそうだぞ、あの双子。せめて週一回にさせようと心に誓った。
「楽しい旅にしよう」
「ソフィアン様がいて、楽しくならないわけがありません」
違いない。ジーナと一緒なら、楽しくならないわけがないな。
オレたちの前には道が広がっている。その道は広い世界に繋がっていた。
ひらきょん先生の次回作にご期待下さい!とか書けそうな終わり方だの。
第一章がなんとか終わって一安心。
あと、総合PVが10000を超えたことに今気付きました。驚きのひらきょんです。
どうでも良いのですが、「驚きの」ってはじめると「白さ!」と続けたくなりますね。
無事に(?)第一章を終えることができました。↓の方にも書いていますが、細かな設定がずぼらだったりして、後で変更とかホントすみませんでした。
magiaは自分が楽しくて書いていたものだったのですが、楽しく書く為にも設定は大事というのが良く解りました。その反省を胸に第二章の執筆に入りたいと思います。
ひらきょんの冒険は続く!
以下、お知らせです。
さきほど第9話の後書きにも追加したのですが、魔術の難易度の調整と魔物のサイズの調整を行いました。対象は第4話、第5話、第7話、第8話です。
また、ゴロが悪いと思った為、《解析》《収納》《念話》等の魔術の総称を独立魔術から特殊系魔術に変更しました。ホントに無計画ですみません。
以後、変更が少なくなるよう努めます。
設定は現在まとめ中なので、近日中に投稿しようと思います。
第二章の開始は8月中旬を目標にしたいと思います。その際、毎日の更新は出来ないかも知れませんが3日に一回くらいのペースで出来るよう努めます。何かありましたら活動報告に書こうと思います。
(11/7/25)
魔物のランクを『~位種』から『~級』に変更
スキルを撤廃。高速化された思考、分割された思考は【解析】じゃない方の魔法による影響としました。
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