第9話
半年に及ぶ修行が終わり、ジーナと共に村に戻った。
オレが村に戻ると、母さんに父さん、マリーにミリー、ヤス君にユキちゃん、それとギルさんなど、たくさんの人が出迎えてくれた。その光景を見て、やっと修行が終わった、という感覚が湧いてきた。修行初日からハプニングがあったが、なんとか無事に終えることが出来た。この修行で力を得ることができただけでなく、大切な人と出会うことができた。修行の機会をくれた母さんとギルさんには感謝だ。
マリーとミリー、ユキちゃんがジーナを見て青い顔をしている。うちの妹たちに限って、亜人を差別するなんてことはないと信じたいのだが…
「「お兄様、そちらの方は一体?」」
「ああ、彼女はジーナ。修行初日にゴブリンに捕えられているところを助けて以来、一緒に行動してる人だよ。信用できる人だと判断して村まで連れて来たんだ」
マリーとミリーが同時に訊いてきたので答える。
言った瞬間2人の眼がジトッとしたものに変わる。ユキちゃんは顔を赤くしている。
そんな反応を見せられてなぜか焦るオレ。やましいことは…しまくりました。
オレの焦燥を察したのか、ジーナが助け船を出してくれる。
「私はソフィアン様の奴隷です」
おい!
「間違えました。従者です」
こいつ火に油を注ぎやがった。
オレを困らせるような子じゃなかったでしょ?どうしたのさ?
「いやいやいや、ジーナは助けたことに恩を感じてそう言ってるだけであって、決して他意はなくてですねー…」
家族の前で自分の性生活を暴露する訳にはいかないので、どうしても言葉尻がしぼむ。そんな羞恥プレイはオレにはまだ早い。寧ろ一生いらない。
「ソフィアンも修行で疲れてるだろうし、家でどんな修行をしたのか父さんたちに教えてくれないか?ジーナさんも家に来ないかい?」
「お誘いいただきありがとうございます。喜んで伺わせていただきます」
父さんが空気を読んで助け船を出してくれる。命が少し伸びただけかもしれないが、家に戻るまでにこの空気を変えよう。ありがとう父さん。影が薄いとかそんなこと思ってないよ!
みんなでわいわい話しながら半年ぶりの我が家に帰る。マリーとミリーがオレの左右に陣取って腕を絡ませてくる。半年間の留守で寂しかったんだろうな。お兄ちゃんは可愛い妹がいて幸せだよー。
家で修行について話す。
この半年間、オレが修行していた方角から魔物がほとんど現れなかったことから、オレの無事を察していたみたいだ。やり過ぎたかしら。
上級の魔物を楽々倒せるようになった、という件まではギリギリ予想の範囲内だったようだが、最上級のキングトロールを倒したことを話したら、
『ええええええええええええええええええええええ』
驚きの大合唱が家中に響いた。これは確実に外に聞こえてるだろう。いやー、こう驚かれる機会が多いせいか、驚かすのがだんだん快感になって来たよ。はっはっは。
「信じられないようならアイテムボックスに入ってるから出そうか?」
「ソフィアンのことは信じてるから、そういう冗談はやめなさいね」
母さんがオレの冗談を窘める。ちぇ。
「それほど腕を上げたのなら、少し試してみたいわ」
オレと母さんで模擬戦を行うために、外に出た。
今まで武術の稽古を行っていた場所に行くと、僕と母さんが対峙する。
母さんの立ち姿からは一切の隙がなく、本気であることがわかった。
それと同時に、半年でヴィーラ村最強の母さんを本気にさせることができ、嬉しかった。
ギルさんの掛け声とともに、模擬戦が始まる。
先ずは母さん。自身の【火炎】の魔法から《火の槍》に派生させ、オレを狙ってくる。同時に、剣を構えてオレに振りかざす。
それらを難なくかわし、母さんの目の前で拳を寸止めする。
拳を突き出した瞬間、拳速で風が吹き、それにより母さんが後ろに吹き飛ぶ。
母さんは空中で姿勢を変え、足から着地する。
「ふぅ、すごいわね。全く見えなかったわ。降参よ」
ギルさんもやるの?と聞いたら、今ので実力は十分に分かったからやらないそうだ。
ってあれ?母さんに勝ったってことは村一番の座はオレの物?実感湧かねー。そして力が出せなくて欲求不満である。あとで八つ当たりに森にでも行こうか。
そんなオレに妹たちがキラキラした目を向ける。
「「やはりお兄様はすごいです!結婚するならやっぱりお兄様が良い」」
くはっ、眩しい!
11歳になってもそう言ってくれるのは嬉しいんだけど、いい加減兄離れさせた方が良いのかな?まぁ、夏の成人の儀が終われば出てくし、無理矢理でも兄離れはできるだろう。
のんきにそんなことを考える。
それから、新しく取得した魔術について話し、実際に使って見せる。
雷の魔術や軽量化の魔術にみんな驚いてたな。えっ、こんなのも魔術で出来るの?みたいな感じで。
【紫電】から取得した式が他の魔術よりも大きく、多くの魔力を消費した理由だが、通常の式の外にそれを囲むようにさらに式を描くことで威力を強めているのが原因のようだった。それを外した状態で電撃を出したら、明らかに威力が下がっていた。逆にそれを既存の火、水、石、氷、風、治癒に付け足したところ、威力が増加したのが分かった。
今までは、ある一定以上の魔力を使用したとしても威力がそれ以上大きくなることはなかったのだが、新たな式を取得したことで、魔術の威力を上げれるようになった。その分消費する魔力も増えたが、戦力の増強には変わらない。
そうすると、強化した魔術の名前どうしようかなーとか、もういっそのこと全て改名してしまおうかとか考えるのだが、どうしようね。
直感
…改名すれば?
改名することにした。
自分で決めておいてなんだが、めんどくさいなーもう。
まあ、良い機会かもしれないね。《岩石》とか《水流》とかわけわかんないし。
ちょうどいい機会だし、今のところ解っている魔術についておさらいしてみようか。整理していくうちに良い名前が思いつくかもしれないし。
魔術には基礎となる術が存在し、それが《岩石》や《水流》などである。これは魔力で対象を生みだし操ったり、またはその場に存在するものを操るという魔術だ。《火炎》で空中に炎を出すのは魔力をエネルギーにして火を生みだしている為に前者であるが、《水流》のように空気中の水分を凝固させて水を出すのは後者にあたる。《火炎》で発生した炎は、炎に込めた魔力がなくなれば消えてなくなるが、何かに燃え移せばそのまま燃え続ける。多少境界線が曖昧だったりするが、基礎魔術はこんなものである。名前はアクア、ウィンドのように一言で良いんじゃないかな?今のところ持っている基礎の式は火 《ファイア》、治癒 《ヒール》、氷 《アイス》、石 《ストーン》、風 《ウィンド》、水 《アクア》、雷 《サンダー》、の7つである。
その基礎魔術から発展したものが《氷の槍》や《石の壁》などである。これは基礎魔術に新たに式を追加することで、槍の形にしたり、壁になったりなどの命令を行わせる魔術である。応用魔術とでも名付けようか。~ランスや~ウォールなどの名称で良いんじゃね?持っている応用式は槍 《ランス》、壁 《ウォール》、弾 《バレット》、刃 《ブレード》の4つ。
【紫電】に付いていた魔術の威力を高めていた式は、強化式と命名。取りあえず一段階の強化は~IIにしよう。二段階目の強化式が存在するかわからないけど。《ファイアII》、《アイスランスII》みたいな形で使用。無強化のものは《ウィンドバレット》のようにする。
基礎魔術とは異なる補助系のものが《高速化》、《軽量化》などである。これらに強化式を付けても効果は変わらなかったが、これらを他の魔術と併用することで、その魔術を強化することは可能である。《ファイアランス》《ファスト》みたいにね。まー、分割思考ができないとおそらく無理だと思うけど。これらを補助魔術とする。持っている式は高速化 《ファスト》、遅延化 《ディレイ》、軽量化 《ライト》、重量化 《ヘビー》、の4つ。
逆に、応用式や補助魔術とは使えないが、特定の基礎魔術や応用魔術、強化式との併用が可能なものがあった。睡眠 《スリープ》がそれだ。《スリープ》は単体でも一定範囲を眠らせる効果の魔術だが、《アクア》や《ウィンド》との併用でも使用することができた。《アクアウォール》に突っ込んできた的にも効果があったことから、応用魔術との併用も確認済みだ。まぁ、《ウィンドブレード》みたいな攻撃との併用は痛みで眠気が覚めるから意味なさそうだけどね。これはサンプルが足りないから名称は未定で良いか。
上記の魔術と全く異なるものが《解析》、《収納》、《念話》である。これらは強化や、補助魔術をかけたり、これら自体が他の魔術を補助することはないが、その働きは独特で、面白い効果を持つ。これらを特殊系魔術と呼ぶことにする。また、《収納》で出す空間をアイテムボックス、《念話》で相手からの呼出をコールとする。
よっしゃああああ、なんとか改名作業終わった!!
今後また増えてくだろうけど、一先ずこれで良いだろう。
それぞれの魔術をたった今改名したことを告げる。この間、高速化した思考のお陰で10秒も経っていない。
突然の改名宣言に文句が出るかと思ったが、解り易くなった、とのことで文句は出なかった。
一通り修行と魔術の話が終わり、ジーナの話になった。やはり我が家とその知人には、亜人に対して悪感情を持っているものはいず、みんながジーナを歓迎した。
「それで、ジーナさんはこの村に住むつもりなのですか?」
「ソフィアン様が成人の儀を終えられたら、一緒に付いていくつもりです。それまでこの村でお世話になれたらと思うのですが、どうでしょうか?」
「ああ、それは構わないよ。使っていない部屋があるから、後で案内しよう」
父さんがジーナに聞くので、ジーナの中での決定事項を述べる。ジーナのこの村での拠点が決まって何よりだ。
「「私もお兄様に付いていく!」」
「私も…」
ジーナの発言に対し、マリーとミリー、それに恥ずかしがり屋のユキちゃんまでもがそんなことを言いだす。
「あなたたちはあと4年しないと成人しないでしょ、それまで待ちなさい」
「「えー、でもママー!」」
「…」
渋る妹たち。オレからも何か言っといた方が良いだろうか。
「みんなが成人して、それでも外の世界が見たいって言うならオレは連れて行くことに反対しないよ」
「本当に?マリー達の成人の儀に来てくれる?」
「4年後にミリー達を迎えに来てくれる?」
「うん、絶対に4年後の成人の儀までには戻って来るよ」
「「約束だよ!」」
「約束…」
「うん、約束する」
ふぅ。なんとか落ち着かせることができた。
その後は他愛のない話をして過ごした。
マリーは槍を、ミリーとユキちゃんは弓の稽古をしているとか。
ヤス君の身長が196cmとさらに男らしくなり、女の子にモテモテだとか。
ギルさんの息子自慢(下ネタではない)とか。
獲って来た魔物の素材から新しい装備をマイお姉さんに作って貰ったら?とか。
マリーとミリーが成人の儀に一緒に踊ろう、と誘ってきたりとか。
旅に出たらどこに向かうつもりなのか?とか。
親しい人たちと久しぶりにゆっくりした時間を過ごした。
今更ながら、設定の一部改変を考えています。ひらきょんです。
大きな設定の変更ではないのですが、今後の展開を考えて、《収納》の難易度をみんなが使える低ランクのものから使える人がほとんどいない超高ランクのものにしたり(随分な変更な気も…)するなどの魔術の難易度調整、馬鹿みたいにデカイ魔物のサイズを調整したりしたいと考えています。
話のだいたいの流れは決まっているのですが、魔法や魔術、魔物、果ては登場人物など、一部ノリで書いてしまうから、「改変しなきゃ」とか言いだし始めるのです。グダグダでホントすみません。
次回投稿『第10話』にて第一章を完結とし、世界観を知っていただく為に設定を投稿したいと思います。また、設定の投稿で更新は一時停止させていただきます。今後の展開を細かく決め、第二章は出来るだけ早く皆さまにお届けしたいと思います。
(11/7/24)
第10話のあとがきにも書く予定ですが、上の通り調整を行いました。対象は第4話、第5話、第7話、第8話です。
また、ゴロが悪いと思った為、《解析》《収納》《念話》等の魔術の総称を独立魔術から特殊系魔術に変更しました。ホントに無計画ですみません。
以後、変更が少なくなるよう努めます。
(11/7/25)
魔物のランクを『~位種』から『~級』に変更
スキルを撤廃。高速化された思考、分割された思考は【解析】じゃない方の魔法による影響としました。
舌の根が乾かないうちに変更とか…第二部に向けての準備、って良い方に受け取って貰えると嬉しいかな?
ご意見、ご要望、ご感想、誤字に誤用などなどありましたら、お気軽に感想までお書き下さい。
魔物や魔法などのアイディアを提供してくださると大変助かります。皆さまの感想、お待ちしています。