Prologue(改稿済み)
世界に罅が入った。
比喩ではなく、本当に罅が入ったのだ。
その瞬間、世界のルールが変わった。
ぱっと見では何も変わってない。
それに、全てのモノが実際にその光景を見たわけでもない。
しかし、その世界に住む全ての生命が何かが変わったと感じた。
そして、その亀裂の隙間から、今まで見たことのない異形の群れがやってきた。
動物に似たモノ
空想上のモノ
人型のモノ
人々はそれを『魔物』と呼んだ。
魔物達は獲物を探し、殺し、喰らい、犯し、この世界を浸食していった。
罅の入った国は数日のうちに滅ぼされ、魔物は世界中にその牙を剥いた。
突然の侵略に世界はなす術なく蹂躙され、絶望が世界を覆った。
それから15年。
生き残った人達は、城壁のある都市に立て篭もり抵抗を続けていたが、その瞳は疲弊の色が濃く、限界を迎えようとしていた。
15年前に現れた魔物は今ほどの力はなかった。だが、罅が入り魔物が襲ってくるという突然の事態に人々は混乱し、次々と倒れて行った。魔物はその魂を食らうかのように徐々に強力になっていき、いつしか強力な個体へと『進化』していった。
魔物のように、何故か人間も生き物を殺すことで力を得ることができるようになっていたが、最初の襲撃で蹂躙された人間達に、この事態を盛り返すだけの力は無かった。
そこに一人の『少年』が現れた。
太陽の輝きのような金色の髪、エメラルドの瞳を持つ15歳の『少年』。
彼は虚空から炎や雷を出し、人とは思えぬ力で魔物を斬り伏せた。
彼は各地で暴れる魔物を倒し、人々は瞳に力を取り戻した。
彼の活躍により、一つ、また一つ都市は解放され、態勢を立て直した人類は反撃を開始した。
世界に亀裂が入った『あの日』、世界のルールが変わった。
生き物を殺すことによってその魂を吸収し、肉体を強化することができるようになった。
また、『あの日』以来生まれた子供の中に、『少年』のような不思議な力を持つものが現れた。
人々はその力を魔法と呼んだ。
魔法は通常、一人一つしか持てないが、世界の理を曲げるほどの力を持っていた。
その中でも『少年』は別格だった。
彼は魔法が一人一つという理すら曲げ、複数の魔法を使うことができた。
数年経ち、少年は青年に変わった。
その力は万の魔物を相手にしても引けを取らず、人々を勝利に導いていった。
いつしか彼は『勇者』と呼ばれるようになった。
彼やその仲間、そして世界中全ての人々の力によって、
徐々にだが人類は大地をその手に取り戻していった。
だが、しかし…
『あの日』以来罅は徐々にだが広がっていった。
そしてそれが砕け、巨大な穴になった時、異界の穴から、
本当の絶望がやってきた。
異界の穴から一体の魔物が現れた。
ソレは人型をした人間より少し大きな魔物だった。
人型の魔物ならすでにこちらの世界に来ていたが、
それは魔物の中でも異質だった。
ソレの体は闇よりも暗く、瞳は黄金のように煌々と輝いていた。
見る者に、そこに存在するだけで世界を浸食しているような錯覚を与え、その力は今までいたどの魔物よりも強大だった。
一度腕を振るうだけで何千人もの人間が死に、ソレが通り過ぎた後には死しか残らなかった。
魔物の王 『魔王』。人々はソレをそう呼んで恐れた。
魔王は巨大な大陸の一部を奪い、魔物の支配下とした。魔王と魔物の攻撃により、優勢だった人間はまた追い込まれていった。
魔王を倒す為に、勇者が仲間と共に魔物の大陸に渡った。
彼の仲間は帰ってくることができたが、勇者は帰ってこなかった。
彼は魔王を異界にまで追い込み、死闘の果てに魔王を倒したらしい。
倒してもなお強い力を持つ魔王を封印するため、彼は自身に残った力で異界の穴を閉じ、
そして世界を救った。
世界中に魔物が残り、魔物に奪われた土地は未だ人間の手には戻っていなかった。
だが、勝ったのは人間だった。
人々は勇者との別れを悲しみ、その武勇を語り継いだ。
復興していく世界に彼の姿はなかったが、
人々の心にはいつも彼がいた。
彼は『始まりの魔法使い』、『封印の英雄』と呼ばれるようになった。
(11/7/29)一部追加、変更。レイアウトも変更。
ご意見、ご要望、ご感想、誤字に誤用などなどありましたら、お気軽に感想までお書き下さい。
魔物や魔法などのアイディアを提供してくださると大変助かります。皆さまの感想、お待ちしています。