前章
初めての投稿ですがお手柔らかにお願いします。
「いや~、今日も大成功だよ!いつもありがとう!いまや事務所の看板にまで成長してくれて本当に私は嬉しいよ!」
褒められるのは悪くない。
むしろ嬉しい。
目の前で話してる社長さん。
木崎茜さんはいまや中堅事務所の取締役だ。
三年前に彼女に拾われて無ければ僕らは終わっていただろう。
もう、充分過ぎるほどに恩は返したと思うが。
彼女との出会いは唐突だった。
なんせいきなりライブの後で名刺を渡して、
「私が貴方達を日本で一番にしてあげるわ!」
なんて言い出したからだ。
もちろん、その時は走って逃げた。
だが、彼女は何度も何度も足を運んでくれたし契約金として充分な額のお金と保護者を引き受けてもらえることを考慮すれば悪くない。
むしろ良い取引だったと言えるだろう。
北海道から東京に出て来た僕らは最低限の荷物を持って茜さんの家。
茜さんの父親の残した古い平屋に転がり込んだ僕らは高校入学早々デビュー、そして二枚目のシングルにして確か深夜の番組にタイアップをねじ込むことに成功し着実に人気を増していった。
次の年に移る頃には人気も出て来たのに平屋じゃまずいということで学校とスタジオの丁度真ん中辺りにある駅前の雑居ビルに引っ越しことが出来たのは充分順調なしるしと言えるだろう。
雑居ビルはそれまで会社が借りていたものを僕らの稼いだお金で丸ごと買うことが出来たので上の2フロアに住まわせてもらっている。
若干あの狭い畳の匂いがする平屋が嫌いじゃなかったのはここだけの話。
ちなみに茜さんが風呂上がりに下着姿でうろつくのだけは許せない。
周囲からは敏腕美人社長とか言われてるし、スタイルも顔もレベルは高い方だと思うが結婚どころか彼氏も出来ないのはあのおばさん臭い缶ビールの飲みっぷりだというのは僕らメンバーの共通認識だ。
「…とゆうわけで!あんた達!これからもがんがん稼ぎなさい!以上!解散!」
「「「「お疲れ様でしたー。」」」」
ようやく茜さんの評価が終わったみたいだった。
茜さんは社員からもそのさばさばした性格で人気と信頼を勝ち得ている。
もちろん僕らにとっても楽に話せるのはメリットだ。
時々ずけずけ入り込んでくれるのは遠慮して欲しいが真剣な話は真面目に聞いてくれるのも上手いと思う。
「紫苑、これからどっかで飯食って帰らねぇ?」
「あ~、うん。僕は別にいいけど司と朔は?」
「……構わない。」
「俺も大丈夫だが煌綺、お前は今週勉強しないとまずいんじゃないか?来週のテストで赤点だけは取るなよ?」
「余計なお世話だっ!勉強は帰ってからやっからいいんだよ。」
今の会話からわかる様に一言でメンバーを説明するなら煌綺はやんちゃなヤンキー、司は無口な読者家、朔は真面目な優等生って感じだろうか。
パートはそれぞれ煌綺がベースとコーラス、司がドラム、朔がリードギター、僕がリズムギターとヴォーカルを担当している。
リーダーは朔でバンドのマネージャーもやっている。それに朔は僕らの生活管理もやっていて収入を分けたり家賃払ったり食費出したり飯作ったりなんでもやってくれる。
多分僕ら三人は朔がいないとまともに生活出来ないに違いない。
夜も一人だけ事務所に残ってスケジュール調整したりして帰りも遅いのに朝起きて朔の部屋に行くと美味しい朝ご飯が待っているのを見るとどんだけ超人なんだってツッコミたくなるほどだ。