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第十四章:無限復活の地雷ふみオッサン

暗くてじめじめした廊下は、真っ黒な黒曜石でできている。壁にはヤバそうな赤い文字が光り、空気には強い硫黄の匂いと魔物のくさい匂いがまざっている。たまに底のほうから聞こえてくるひどい悲鳴が、さらに鳥肌を立たせる。


まちがいなく、ここは全大陸で一番あぶなくて恐ろしい最後のエリア――魔王城だ。


そして俺は、この討伐チームの一番前を歩きながら、人生で一番ひどい地獄の苦しみを味わっていた。


「ドゴォォンッ!」


「うわあああっ!熱い熱い熱い!丸焼きになるぅぅ!」


俺がちょっと出っぱった床のタイルを踏んだ瞬間、足元から何千度もある地獄の炎が吹き出し、俺の体を完全に飲み込んだ。自分の髪の毛が焦げる匂いがハッキリとわかり、肌からは引き裂かれるような激痛が走り、視界は一瞬で真っ暗になった。


しかし、自分が灰になったと思った0.1秒後。


「シュワッ――」


やさしくて生命力にあふれた濃い緑色の光が、うしろの10メートルくらい先から、俺の体にピッタリと降り注いだ。


それは、うしろにいる4人の白衣のプリーストが協力して放った、しかも「前衛を全自動でロックオン」するようにセットされた最高ランクの魔法――【大天使の超回復バリア】だった。


焦げた肌は一瞬で新しい肉になり、干からびた血は再び流れ出し、着ていたそうびまで元の姿に戻った。俺はキズ一つなくその場に立っていた。脳にはさっき生きたまま焼かれた「幻の痛み」が残っているが、汗一滴すら流していない。


(あああっ!熱い!溶けちゃう……あれ?治った?)

腰にぶら下がっているリリアが声をあげ、すぐにホッと息を吐く。

(びっくりしたー。鉄の水になるかと思いましたよ)


「お前は自分のサヤのことしか心配してないのか!俺はさっき一回死んだんだぞ!痛みはホンモノなんだからな!!」

俺は頭を抱えてブチギレた。


「あらあら、前衛のおじさま、どうぞそのまま前へ進んでくださいね。ご心配なく、私たちの魔力が切れない限り、あなたがミンチになっても一瞬で生き返らせますから」

うしろのプリーストのお姉さんが、ニコニコしながら言った。


俺はふり返って、怒りで血を吐きそうになった。


俺のうしろを歩く勇者チームは、今まさにカンペキな亀の甲羅のような陣形を作っている。2人のドワーフが左右でタワーシールドをかかげ、4人のプリーストは真ん中で笑いながらおしゃべりしている。

エルフの大賢者にいたっては、空中にきれいなティーセットを出し、歩きながら金髪勇者のライアンにバラの香りの紅茶をそそぎ、オシャレなマカロンまで添えているのだ!


「ドワーフの盾があんなに硬いなら、どうしてあいつらを一番前に歩かせないんだよ!」

俺はビールを飲んでいるドワーフたちを指さして文句を言った。


「おじさん、これはあなたが自分から強くお願いして手に入れた前衛のポジションですよ。私たちがあなたの見せ場をうばうわけにはいきませんからね」

ライアンは優雅に紅茶を一口飲み、さわやかさ200%のスマイルを向けた。「さあ、続けて私たちのために道を切りひらいてください」


俺はギリィッと歯をくいしばり、前を向いて歩き続けるしかなかった。


そこからの10分間は、まさに地獄の血みどろフルコースだった。


「グサッ!」見えない落とし穴に落ちて、底にある毒のトゲに胸を貫かれた。激痛!緑の光が光り、一瞬でHP満タンになって穴から飛び出す。


「ズバッ!」壁からサビた巨大なオノが飛び出し、俺の体を真っ二つに切った。ぜつぼうの痛み!緑の光が光り、上下の体がすぐにくっつき、傷跡すら残らない。


「ジュワァッ――」

天井から強い酸が降ってきて、俺の体が骨だけになるまで溶かされた。また緑の光が光り、血と肉がすぐに再生する。


(佐藤さん、あなたの左の眉毛、右よりちょっとだけ高く生え直したみたいですよ)

リリアが俺の脳内で、他人事のように感想を言う。


「だまれ!俺の頭の中は今、切られたり焼かれたり溶かされたりした走馬灯でいっぱいなんだよ!俺のメンタル値はもうゼロだ!」

俺は足がガクガクになり、壊れたぬいぐるみのようにはいつくばって進む。

「いったいこれのどこが魔王討伐なんだ!これじゃ勇者チームの魔王城ピクニックに、俺個人の『無限デスゲーム体験ツアー』がオマケでついてるだけじゃねえか!」


(ポジティブに考えましょう。少なくともあなた、もう痛みには少し慣れてきたんじゃないですか?)

リリアが急に冷たいツッコミを入れてきた。


俺と剣が一匹ずつ、脳内で中身のない口ゲンカをしていると、チームの足が止まった。


俺たちは高さ10メートルもある、無数のドクロがほられた青銅の大きなドアの前に着いたのだ。


ドアの左右には、恐ろしい死のオーラを出す「デスナイト」が2体立っていた。彼らは青白い炎を出すナイトメアにまたがり、長さ3メートルもある巨大な剣をにぎり、空っぽのヘルメットの奥でヤバい赤い光を光らせている。


「おろかな人間どもめ……魔王様の寝室に勝手に入ろうとは……」

左のデスナイトが、鳥肌の立つような低い声でつぶやく。


「お前たちの魂を差し出せ。我らが馬のエサにしてくれるわ!」

右のデスナイトが巨大な剣をかかげると、狂ったような殺気が一気に広間をつつみこんだ。


俺はビビッて何歩も後ずさりし、ドワーフのうしろに隠れてあの「超回復」のガードに入ろうとした。だが、ライアンはニコニコしながら前に出てきて、俺の肩をポンと叩いたのだ。


「おじさん、この2匹の番犬はなかなか元気みたいですね」

ライアンはティーカップを持ったまま、1ミリも緊張していない。むしろ、重課金プレイヤーが初心者エリアでザコをいたぶる時のような、ものすごく退屈そうな目をしていた。


彼は俺を見て、おもしろがるように口の端を上げた。

「さあ、前衛のおじさん。あなたの『かくされた実力』とやらを見せてもらいましょうか。さっきの地雷ふみのショーも面白かったですが、見慣れると少し飽きてきましてね。私を退屈させないでくださいよ」


その目は、絶対に頼れる仲間を見る目じゃなかった。ただ自分のヒマつぶしになるオモチャを見る目だ。彼はチートを使いすぎて人生がイージーモードすぎるせいで、この変なおっさんがデスナイトの前でどんな面白いダンスをおどるか見たいだけなのだ。


俺はその場で固まった。

実力?俺の実力ってなんだ?

ターボライターか?クシャミか?それともあのクソみたいなお正月の電子カードか!?

この2体のデスナイト、どう見ても物理ガードも魔法ガードもカンストしてるエリートモンスターだろ!俺が前に出たって、カスダメすら与えられないぞ!


(佐藤さん!早く適当に何かスキルを出して!そうしないとあの腹黒勇者、あなたが真っ二つにされるまでずっと隣で見てるつもりですよ!プリーストが助けてくれるとはいえ、私はあのサビたデカい剣で自分の体を切られたくないんです!)リリアもあせりだした。


デスナイトが高くかかげた巨大な剣を見て、俺の頭は真っ白になり、考える力が完全にゼロになった。


「クソッ!ヤケクソだ!」


俺はギュッと目を閉じ、前に両手を突き出し、手のひらを外に向けて、やぶれかぶれの怒鳴り声をあげた。


「第4のガチャスキル発動!くらえ……『Give me five』!!!」


その言葉が終わった瞬間、言葉にできないほど奇妙なルールが、この殺気だらけの空間に降りてきた。


さっきまで巨大な剣を振り下ろし、俺を真っ二つにしようとしていた2体のデスナイトの動きが、とつぜん「一時停止ボタン」を押されたように、空中でピタッと止まったのだ。


そして、ライアンや勇者チームが少し驚いて見ている前で、この恐ろしいアンデッドの騎士2体は、なんと同時に馬から飛び降りた。


彼らはあのヤバい武器をしまい、空っぽのヘルメットの奥の赤い光を、やさしいピンク色に変えた。そして、タップダンスでも踊るような軽いステップで、左右から俺の目の前まで歩いてきたのだ。


そして彼らは、重いヨロイでおおわれた冷たい両手を上に向け、俺の正面に立った。


「パンッ!」

「パンッ!」


二つのいい音をひびかせる両手ハイタッチの音が、広い広間に響きわたった。


ハイタッチが終わった後、2体のデスナイトはなんと、俺に向かってものすごくフレンドリーに軽くうなずいた。まるで、コートでいい試合をした後のスポーツマンのように。まわりにはなぜか、平和のオーラを出すピンク色の花びらまでフワフワと舞い落ちてきた。


魔王城のドアの前全体が、短い静寂につつまれた。


俺はジーンとしびれる両手をあげたまま、魂がぬけた状態になっていた。


(……あなた、本当に魔物とハイタッチしちゃいましたね)

リリアが俺の脳内で弱々しい声を出した。

(しかも空気がすごくホンワカしてるし……これ、いったい何のクソスキルですか……)


俺のうしろに立つ勇者ライアンは、ティーカップを持った手を空中で止めたまま、そのカンペキな顔に初めて「ドン引き」の表情を浮かべていた。


「……プッ」


短い驚きの後、ライアンはとつぜん、キャラも忘れて大爆笑し始めた。


「アハハハハ!なんですかそれ?強制的に武器を捨てさせるギャグスキルですか?おじさん、あなたは本当に面白い!私がこの世界に来て5年、ここまで笑える魔法は初めて見ましたよ!」


ライアンは笑いながら涙をふき、しかしその目は一瞬にしてものすごく鋭く、最高のえものを前にしたトップクラスの捕食者の目になった。


「ですが、せっかくモンスターのガード状態が強制リセットされたんです。遠慮なくいかせてもらいましょう。みんな、やれ」


勇者チームのチームワークがここでハッキリと出た。


ライアンが剣を抜く必要すらなかった。2人のドワーフが大きくジャンプし、重いタワーシールドを城を壊すハンマーのように振り下ろし、「ハイタッチのよろこび」にひたっているデスナイトのヘルメットを思い切りブチ殴ったのだ!


「ドゴォォン!ドゴォォン!」


続いて、2人のエルフの大賢者のヤバい火球と、プリーストたちの最高ランクの浄化の聖水が、同時に上から降りそそいだ。


かわいそうな2体のデスナイトは、ガードのポーズをとるヒマすらなく、一瞬のうちにこのオオカミのように凶暴なチートチームによって、粉々のゴミと骨の灰にされてしまった。


バトルは意味がわからないまま、あっさりと終わった。


「いやあ、本当に楽勝なバトルでしたね」

ライアンはティーカップをエルフに渡し、ノンキに俺の前に歩いてきて、面白いペットでも叩くように、俺の肩をバシバシと重く叩いた。


「おじさん、その技はバカみたいに見えますが、強制的に相手を止めるサポートとしてはかなり使えますね!あなたをオモチャ……コホン、前衛として連れてきたのは、本当に大正解でした」

ライアンはキラキラのえがおで笑う。

「さあ、行きましょう。引き続き案内を頼みますよ。あなたが次にどんなお笑いトリックを見せてくれるか、ますます楽しみになってきました」


俺は床に散らばった骨の灰と、すべてをゲームとして楽しんでいるライアンのえがおを見て、ココロの底から深い無力感を感じた。


(佐藤さん……)

リリアの声には、悲しさがまざっていた。

(私たち、完全にヒマつぶしのピエロにされてますね)


「……ああ、わかってるよ」


俺は肩を落とし、さっきまで焼かれ、刺され、切られては生き返ったばかりの疲れた体を引きずって、魔王城の奥へと歩き続けた。

このルール無用のチート勇者の前では、俺とこの震える鉄剣なんて、本当にただのちっぽけな、ワナふみ&お笑い担当のオモチャでしかないのだ。

読まなくても全く問題ない裏設定


勇者チームのメンバー紹介

エルフの大賢者:エラとナナウ

年齢は2067歳と2133歳(人間でいう20歳と21歳)。同じ村で育った幼なじみ。ライアンが「世界樹の森」を訪れた時、世界樹が直々に勇者のサポートとして指名した最強の魔法使いコンビ。


ドワーフの肉盾:ノドラとプラス

2人とも152歳、ドワーフの寿命はだいたい300年くらいなので、人間でいうと40歳くらいである。ライアンが南の帝国に行った時、皇帝がみずから帝国軍の中から選びぬいた最強の盾だ。


人間のプリースト:シスネ、フィリス、ルルリン、ティミリス

年齢はそれぞれ24、26、27、30歳。大陸にある四大教会が、ライアンが国を訪れた時に「ぜひうちの聖女を!」と指名して同行させた回復のスペシャリストたち。

つまり、この勇者チームはライアンのチート能力を抜きにしても、すでに『この世界における最強の戦力』だけを全て集めたドリームチームなのだ。佐藤のおっさんが入るスキなど最初から1ミリも存在しないのである


エルフの大賢者やプリーストたちは、内心ではレベル1の佐藤のおっさんを完全に見下している。しかし、リーダーであるライアンの命令があるため、表面上はとても礼儀正しく、そして「超プロフェッショナル」に彼のHPを回復し続けているのだ。


ライアンはおっさんを完全に「壊れないオモチャ」として遊んでいるが、一応「絶対に死なせない」というラインだけは守っている。


しかし、生きたまま焼かれたり、酸で溶かされたり、体を真っ二つにされるという「究極の苦痛」を平気で他人に味わわせることができる時点で、彼の倫理観はすでに崩壊している。

この異世界に来てから5年間。チート能力のせいで全てがあまりにもイージーモードすぎたため、ライアンの中の人間としての道徳の底辺は、限界までバグってしまっていたのである。



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