第十三章:魔竜王ラオ・ルベル
「うわあああああああーーっ!!!」
豪華な部屋のふかふかベッドから、俺はバネのように飛び起き、頭を抱えて豚が潰されるような凄い悲鳴を上げた。
ライアンの洗脳のタイムリミットがついに切れたのだ。脳がリブートしたかのように、数十分前の広場での記憶が怒涛のように押し寄せてくる。
自分がどんなにアホ面で、あの腹黒勇者の手を力強く握りしめ、「俺がトップバッターをやります!」「この体を盾にして道を切り拓きます!」などという、バカみたいなセリフを熱狂的に叫んでいたか、ハッキリと思い出してしまった!
「俺はなんてことを!自分から魔王城の『地雷踏み』に志願するなんて!あの金髪クソ野郎、絶対に俺に変な呪いをかけやがったな!」
俺は発狂して床をのたうち回り、高級な絨毯をグルグル巻きにしてしまった。
(今さら正気に戻ってどうするんです?)
テーブルに放り投げられたリリア(剣)が、冷たい笑いを放つ。
(さっきの広場でのあなた、宝くじの一等に当たったアホみたいな笑顔でしたよ。私が腰でどれだけ叫んでも、どれだけブルブル震えても全く無視して、ヘラヘラ笑いながら周りのおばちゃんたちに手を振ってたじゃないですか!)
「黙れ!今はツッコミを入れてる場合じゃない!」
俺はピョンと飛び起き、慌ててリュックを掴んだ。
「早く!今すぐ窓から逃げるぞ!日が暮れる前に夜逃げして、南の帝国で名前を隠して焼き芋屋でもやったほうが、魔王城で犬死にするより一万倍マシだ!」
(無駄な抵抗はやめなさい)
リリアの声は、俺の百倍くらい絶望していた。
(さっきあなたは洗脳されたまま、『前衛としての情熱と誠意』を見せるためだと言って、私たちが泊まっている宿の名前も部屋番号も、全部ライアンに教えちゃったんですよ。おまけにご丁寧に、エルフの大賢者にスペアキーまで渡して、『明日の朝は必ず起こしに来てくださいね!』なんてお願いまでしてましたからね!)
「……なんだと!?」
俺は雷に打たれたように、その場でピタッと固まった。
(それだけじゃありません)
リリアはため息をつき、窓の外を見るように促した。
(ライアンはすでに、あなたの『偉大な自己犠牲』を大々的にアピール済みです。明日の朝6時、王国の騎士団と街中の市民が、この宿の下であなたの出発を『お見送り』するそうです。今のあなたは、蚊になってもこの都から逃げ出せませんよ)
俺は震える足で窓際に歩み寄り、カーテンを少しだけめくって下を覗いた。
なんと、宿の下の通りには、すでに色とりどりのテントがびっしりと張られていた。無数の熱い市民たちが「最強のおっさん前衛」「勇者様の無敵の探知石」と書かれた応援うちわを手に、明日の朝、俺の勇姿を近くで見るために徹夜で場所取りをしているのだ。
「これ……お見送りじゃない……公開処刑の前の、市中引き回しじゃねえか!!!」
俺はカーテンを力任せに閉め、腰から崩れ落ちて完全に床に土下座した。
(佐藤さん……私たち、終わりましたね)
リリアも生気を失った声ですすり泣く。
(私、魔王城の酸液トラップでドロドロに溶かされたくないです……)
「いや!まだ諦める時間じゃない!」
俺は血走った目で、ギリィッと歯を食いしばりながらシステムウィンドウを呼び出した。
「俺たちにはまだ、最後のガチャが2つ残っている!無敵のガード魔法か、『瞬間移動』みたいな神スキルさえ引ければ、魔王城でも生き残れる……いや、むしろ大逆転だって可能だ!」
これが俺の最後の命綱だ!俺は念動力でウィンドウに残された2つの金色の「?」マークをロックオンし、深呼吸をして、同時にタップした!
『ピロリンッ!ピロリンッ!』
二つの光が同時に部屋の中で弾けた。
俺は期待に胸を膨らませて、まずは第4のスキルの説明カードを見た。
【スキル名:情熱的なハイタッチ(Give me five!)】
【スキルレベル:測定不能】
【スキル説明:使用者が両手を高く上げ、「Give me five!」と叫ぶと、半径10メートル以内にいるロックオンされたターゲットはすべての行動を強制的にストップし、笑顔で歩み寄ってきて、あなたと快音を響かせる両手ハイタッチを行う。】
【備考:このスキルにダメージは一切ないが、気まずい空気を効果的に和ませ、友情を育むための素晴らしい第一歩となる。】
「……」
俺はこのカードを睨みつけたまま、脳の処理能力が5秒間完全にフリーズした。
(なんなんですかそのクソスキルは!)
リリアが真っ先に発狂して文句を浴びせた。
(魔王が私たちに向けてヤバい魔法を撃とうとしている時に、突撃して『Give me five!』って叫べって言うんですか!?魔王はついでにあなたの手と頭を一緒に吹き飛ばすだけですよ!いったい何の役に立つんですか!)
「お、落ち着けリリア!もしかしたら神レベルの強制キャンセル技かもしれないだろ!少なくとも……少なくとも2秒くらいは時間稼ぎができる……」
俺は冷や汗を拭きながら、自分ですら全く説得できない言い訳を並べ、慌てて視線を最後のガチャへ移した。
「大丈夫だ、まだ最後の一つがある!これぞ大トリの第5連、間違いなく戦局をひっくり返すSSRの大技――」
極度に大げさで、目を潰すような七色の光とともに、ついに5つ目のガチャの中身が現れた。
しかし、俺の目の前に現れたのは、スキルカードでもなければ、凄いアイテムのホログラムでもなかった。
それは……半透明の「ポップアップウィンドウ」だった。
ウィンドウの背景はおめでたい真っ赤な色で、悪趣味なデジタル花火が画面上で「パンッ、パパンッ」と音を立てて弾けている。そしてウィンドウのど真ん中には、お正月気分丸出しの、金ピカで巨大な立体文字がこう書かれていた。
『謹賀新年!あなたの願いが叶いますように!』
そして、その巨大な文字の右下には、極小のフォントでこう添えられていた。
(ルシアンより贈る)
部屋の中は、死んだような静けさに包まれた。
ただ、半透明のウィンドウの中のデジタル花火だけが、疲れを知らずに「パンッ、パパンッ」と煽るような音を鳴らし続けている。
「……リリア」
(……はい)
「今は何月だ?」
(異世界のカレンダーは知りませんけど……天界なら、お正月まであと8ヶ月はあります)
俺は震える指を伸ばし、その電子ウィンドウを指さしながら、極限の怒りと絶望に震える声で言った。
「あのオールバックの金髪クソ野郎……最高ランクのガチャの中に、『電子グリーティングカード』を仕込みやがったのか?俺たちをコケにしてるんだろ!?絶対今ごろ監視カメラ越しに俺たちを見て大爆笑してるに決まってる!!!」
(ルシアンのバカヤロウーーッ!!!)
リリアも完全にブチギレて、剣身がテーブルの上でガタガタと狂ったように振動し、耳障りな音を立てた。
(前は天界の良心だと思ってたのに!生死を彷徨ってる私たちに、おじさん構文のスパムカードを送ってくるなんて!絶対にクレーム入れてやる!最高神評議会に訴えてやるぅ!)
俺と剣が一匹ずつ、この「新年のご挨拶カード」に向けて全宇宙で一番ひどい悪口を吐き出していたその時。突然、ドアの外からものすごく優雅なノックの音が響いた。
「コン、コン」
「偉大なる前衛様、お休み中ですか?」
エルフの大賢者の、ウグイスが鳴くように美しく、しかし俺にとっては鳥肌が立つほど恐ろしい声がドア越しに聞こえた。
「リーダーが広場で前夜祭を開いておりまして、あなたをご招待するよう私を遣わされました。みんな、あなたをお待ちですよ」
俺とリリアは一瞬にして、借りてきた猫のように静まり返った。
逃げることもできず、手持ちのスキルは完全にギャグ仕様。俺は泣くより酷い引きつった笑顔を顔に貼り付け、猛烈に抗議するリリアを腰に結びつけ、腹を括って部屋のドアを開けるしかなかった。
広場はピカピカにライトアップされ、焼肉のいい匂いと高級なビールの香りが空気に満ちていた。勇者パーティは一番豪華な長テーブルに陣取り、ライアンはワイングラスを片手に、街中の人々からの称賛と歓呼を一身に浴びている。
「おお!我らが勇敢なる前衛の到着だ!さあ、お座りください!」
ライアンは俺を見ると、すぐに自分の隣にある「VIP席」へと熱烈に案内した。
俺はロボットのようにカクカクと座り、テーブルいっぱいの凄いごちそうを前にして、これが自分の「最後の晩餐」であると確信した。
前夜祭のムードが最高潮に達し、ライアンが立ち上がって出陣のスピーチを始めようとした、まさにその時――。
「ドゴォォォンッ!!!」
空が突然不吉な暗赤色の雨雲に覆われ、気温が急降下した。息が詰まるような恐ろしいプレッシャーが天から降り注ぎ、喜びに包まれていた広場は一瞬にしてパニックに陥った。
「グルルルオオオオオッ――!!」
鼓膜を破るようなドラゴンの咆哮が夜空を引き裂いた。暴風が吹き荒れ、広場の屋台が次々と吹き飛ばされる。
雨雲の中から姿を現したのは、空を覆い尽くすほど巨大な体を持ち、真っ黒なウロコに覆われ、両翼に地獄の炎をまとった巨竜だった。そのうしろには、数百匹のヤバそうなガーゴイルの軍勢が首都の上空を飛び回っている!
「ま、魔王軍四天王のトップ!『魔竜王』ラオ・ルベルだぁ!」
その恐ろしい姿を見た者が、絶望の悲鳴を上げた。
魔竜王は空中で、偉そうに怒りに満ちた声をあげた。
「勇者ライアン!我が仲間シャドウ・デスに重傷を負わせ、あろうことか彼の装備までひん剥くとは!万死に値する!今夜、この街を灰にして、ヤツの恨みを晴らしてくれるわ!」
「うわあああっ!キタ!ファンタジー定番の『街壊滅の危機』イベントだ!」俺は恐怖のあまり、這うようにして焼肉テーブルの下に潜り込み、頭を抱えてガタガタと震えた。「リリア!終わった!俺たち魔王城に行く前にここで死ぬんだ!」
しかし、広場で逃げ惑う一般市民とは違って、長テーブルに座っている勇者パーティの面々は、なんと誰一人として腰を浮かせようとすらしていなかったのだ。
「まったく空気が読めないわね。私のお肉が冷めちゃうじゃない」
エルフの大賢者が軽く眉をひそめる。
「エラ、さっさと片付けましょう。市民にケガ人が出ると面倒よ」
4人のプリーストに至っては、座ったまま優雅にフルーツティーを一口すすると、同時に柔らかな白い光を放つ杖を空に掲げた。
「ブゥン――」
広場全体を覆う、巨大な緑色の魔法陣が一瞬で広がった。最高ランクの【絶対治癒エリア】だ。この陣の中にいる限り、どんなダメージも強制的に瞬間回復される。
それと同時に、空中のガーゴイル軍団が雨あられと急降下してきた。
「うるせえ虫けらどもめ」
ドワーフの肉盾2人は、立ち上がることもせず、ただ手に持っていたカチカチのタワーシールドを天に向けて掲げただけだった。
絶対に壊れない半透明な黄金のドームが空中に出現する。凶暴なガーゴイルたちがそのドームに激突すると、まるで石にタマゴをぶつけたかのように、ドームに一筋のヒビすら入れることなく、一瞬で粉々になって散っていった。
「役立たずどもめ!俺自ら葬ってやる!」
ブチギレた魔竜王が血まみれの大口を開く。周りの空気が急激に熱を持ち、ヤバいエネルギーを秘めた超巨大な黒い火球がその口の中で形づくられた。
「死に絶えろ!『滅世の竜息』!」
街の半分を吹き飛ばすほどの黒い火柱が、凄まじい音とともに降り注ぐ!
まさに絶体絶命のその瞬間、今まで呑気に赤ワインを転がしていたライアンがようやく立ち上がった。彼は軽くため息をつき、腰の眩しすぎる聖剣を抜くと、地面を蹴って金色の流星へと姿を変え、なんと一直線にそのヤバいブレスへと突っ込んでいった!
「ドゴォォォォンッ!!!」
聖剣とブレスが空中で激突し、目もくらむような光が弾ける。さすがは四天王トップの魔竜王、怒りの声とともに強烈なシッポのなぎ払いを放ち、音の壁を破るスピードで空中のライアンを容赦なく打ち据えた!
「バギィッ!」
クリーンヒットだった。俺はハッキリと見た。ライアンが空中で吹き飛ばされ、その完璧な頬に、竜のウロコによって「およそ1センチほどの、血が少し滲むだけのすり傷」が刻まれたのを!
「ラ、ライアンがケガをしたぞ!?」俺はテーブルの下から思わず声を上げた。
(やりました!あいつにもダメージが通るんですね!)
リリアが腰で大興奮して叫ぶ。
だが、俺たちのぬか喜びは一瞬で終わった。
ライアンの顔の血のしずくが落ちるよりも早く、下の広場に広がっていた【絶対治癒エリア】が強烈な緑色の光を放ったのだ。
「シュワッ」
ライアンの顔のそのちっぽけな「カスダメ(すり傷)」は、0.01秒で完全に塞がり、傷跡ひとつ残らなかった。彼の肌は再び透き通るような完璧な状態に戻り、髪の毛一本すら乱れていない。
空中の魔竜王は、完全に目を疑っていた。
「バ、バカな!俺のシッポの風圧をかすっただけでも、人間なら木っ端微塵になるはずだ!なんだそのふざけた回復力は!」
「危ないところでした。顔に傷が残るところでしたよ」
空中に浮かぶライアンは、すでに無傷となった頬を軽く撫で、その瞳に氷のような殺意を光らせた。
彼がゆっくりと聖剣を魔竜王に向けると、下にいるエルフの大賢者たちが瞬時に「攻撃力倍化」「詠唱カット」「属性パワーアップ」などのチート補助魔法を、十数回も重ねて彼にかけた。
「私の前夜祭を邪魔した罪、その命で償ってもらいましょう」
ライアンは呪文を唱えることすら面倒くさがり、ただ軽く剣を振り下ろしただけだった。
「『超・聖光ドラゴンスラッシュ』」
長さ数百メートルにも及ぶ、天地を真っ二つにするような恐ろしい黄金の剣気が、圧倒的なパワーで夜空を切り裂いた。
「ま、待て――」
魔竜王はまともな遺言を残すヒマすらなく、その巨大な体は、熱したナイフで切られたバターのように、頭からシッポまできれいに真っ二つに両断された。
空を舞う血の雨は、地面に落ちる前に剣気がまとう聖なる光によって、すべて金色の光の粒へと浄化されてしまった。
バトル開始から終了まで、わずか1分足らずの出来事だった。
広場の市民たちは3秒間静まり返った後、屋根を吹き飛ばすほどの熱狂的な大歓声を上げた。
ライアンはホコリ一つつけずに広場の中央へフワッと着地した。彼は笑顔で群衆からの崇拝を一身に受け、その後、長い脚を動かして、俺が隠れている焼肉テーブルへと真っ直ぐ歩いてきた。
彼は優雅に腰をかがめ、テーブルの下でポカンと口を開けている俺に向かってその美しい手を差し出し、あのトレードマークである爽やかな笑顔を向けた。
「おじさん、今夜のショーはお気に召しましたか?ご覧の通り、我がパーティのバックアップは完璧です。ですから、明日の魔王城での『先行地雷チェック』は、無敵の切り札であるあなたにすべてをお任せしますよ」
俺は彼のその完璧すぎる笑顔と、空にまだ消え残る金色の光の粒を交互に見つめ、完全に石化した。
(……佐藤さん)
リリアが鞘の中で、蚊の鳴くような、絶望のどん底にある悲鳴を漏らした。
(私たち明日……できるだけ痛くないポーズで死にましょう。この男、前衛なんて最初から必要としてないんです。ただ、自分がチートで魔王城をぶっ壊すのを、一番いい席で見ててほしいだけなんですよぉ……)
読まなくても全く問題ない裏設定
四天王のトップであるラオ・ルベルは、ただのボスキャラではない。
先代魔王軍のころから最前線で戦い続け、その功績によって魔王軍のナンバーツーにのぼりつめた大幹部である。
先代の魔王が寿命をむかえた時、今の魔王の教育をすべて彼にまかせたほどの信頼を得ていた。年齢はなんと5000歳の大魔族だ。
実は、勇者ライアンがこの異世界に来てからぶつかった数々のピンチや難関は、だいたいぜんぶこのラオ・ルベルが裏で手を引いて仕掛けたものだった。
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