第十二章:勇者のパーティ
オークの町を出発して1週間。
北の王国の王都は、まるで金貨でつくりあげられた夢の遊園地のように、ものすごくにぎわっていた。
道のりょうわきには真っ白な石でできたごうかな建物がならび、高級な服を着た貴族や、りっぱなそうびの冒険者たちが歩いている。俺はふところにある四天王からハギ取った重い金袋をなでて、肩で風を切って歩く無敵モードに入っていた。
これまでの長旅のつかれをいやすため、俺はまようことなく、都で一番の超高級レストラン「ロイヤル・グリフォン亭」の、きれいなドアを押し開けた。
案内されたふかふかのソファー席にどっかと座り、俺はえらそうに手を挙げた。
「ボーイ!この店で一番高いコース料理をひとつ!それと、一番いいワインもだ!」
しばらくして、テーブルには宝石のようにキラキラ光るごうかな料理がならべられた。
俺はゴクリとつばを飲み込み、フォークとナイフを手に取った。
「よし、いただきます!」
そして、最高級のステーキを切り分け、いざ一口目を口に運ぼうとした――まさにその瞬間だった。
うしろのドアが静かに開いた。チリンという風鈴の音といっしょに、ココロが洗われるような、さわやかな風がお店に吹き込んだのだ。
「すみません、みなさま、少々道をお開けください。重装甲が通りますので、足元にご注意を」
身長は150センチくらいだが、横幅も同じくらいあるガチガチの男ドワーフ2人が、ていねいな言葉でうしろの仲間のために道を開けた。めちゃくちゃ分厚いタワーシールドと重いヨロイを着ているのに、その足どりはびっくりするほど軽い。
つづいて、真っ白な服に身をつつんだ、美しすぎる女プリースト4人が2列になって入ってきた。彼女たちはやさしいえみをうかべ、空中に聖水をパラパラとまきながら、「女神の光がみなさまの食事を祝福しますように。お邪魔してごめんなさい……」と、小鳥のようにつぶやく。
さらに、でんせつ級のツエを手にした、クールで美しいエルフの大賢者が2人つづく。
「ライアン、やっぱりお昼の間に、明日の魔法陣のならびを復習しておくべきよ」と、1人のエルフがあきれたように言う。
「まあまあエラ、ライアンには休ませてあげましょうよ。彼は私たちの、大事なリーダーなんだから」もう1人のエルフは笑いながら、仲間のカンペキなメイクをたもつサポート魔法をかけた。
そして最後に。全員の視線をあつめ、全身からキラキラしたエフェクトを出しながら、金髪の青年がわらいながら入ってきた。
思わずなぐりたくなるほど「カンペキ」な男だった。まぶしい金髪、すきとおる青い目、モデルのような長身。さらに、どう見てもガード力がカンストしている『神聖ミスリルアーマー』を着ている。
これぞ、でんせつのパーフェクト勇者、ライアンである。
「マネージャー、本当にごめんなさい」
ライアンは店のマネージャーの前に歩みより、さわやかさ100%のスマイルを向けた。
「我々はもうすぐ魔王討伐へ出発します。チームのみんなにゆっくりと休んでもらうため、今日のランチタイムは我々の『貸し切り』にしてもらえませんか?マイナス分はすべて私がはらいますので」
マネージャーはペコペコと何度もバカみたいにうなずき、クルッとふり返って、うしろのスタッフたちに激しく手を振った。
「急げ!何をしている!勇者様のご命令だ!すぐにほかのお客さまに出ていってもらい、最高の席を用意しろ!」
スタッフたちはすぐに動き出し、テーブルを回って客に店を出るようにお願いし始めた。
すると、おいしいランチを楽しんでいたはずのほかの客たちは、と中で追い出されることに文句ひとつ言わないどころか、まるで聖なる光をあびたかのように、熱狂的な顔になったのだ。
「ライアン様だ!」「おお、魔王をたおしに行く英雄に席をゆずれるなんて、我が家の一生のほまれだ!」
彼らはあわてて口をふき、コートをつかむと、まるで信者のように、自分からすごく協力的に店を出て行った。ドアを出る時、顔を真っ赤にしてライアンに向かって手を振り、キャーキャーと叫ぶ若い女の子たちまでいた。
わずか1分で、満席だった広いお店はガラガラになり、すみっこの席で「フォークに最高級ステーキを刺したまま」の俺だけがポツンと残された。
マネージャーはそこでやっとふり返り、ただ1人「空気を読まずに」座っている俺に向けて、こまった顔を作った。「あー、そこのお客様。お聞きになった通りでして、本当に申し訳ありませんが、どうかお店の外へ……」
「ふざけんな!俺のステーキは一口目すら食べてないんだぞ!金だってあるんだからな!」
俺は怒ってテーブルをバンッとたたいた。
それを聞いたライアンは怒るどころか、すまなそうな顔で俺の前にやってきた。
「そこのおじさん。本当にすみません、私たちが急すぎました」
ライアンはすごく優しく、しかし強烈な『ほどこし(上から目線)』の空気を含んだ声で言った。
「そのホコリまみれの姿……長旅でさぞおつかれでしょう。この銅貨を受け取ってください。私個人のわびの印です。どうか別の店でおいしいものでも食べてください」
彼はチャリンと、俺のテーブルに銅貨を1枚置いた。
その瞬間、ライアンのパッシブスキル――【選ばれし者の加護】が無意識のうちに弱く発動した。このスキルはパッシブ状態でも、「明日は晴れてほしいなと祈れば本当に太陽が出る」レベルで、ものごとを彼の望む方向へ少しだけ誘導する力がある。
入り口にまだ残っていた客たちが、この見えないオーラにあてられ、ライアンの心の広さを口々にほめ始めた。
「さすが勇者様、なんてお優しいんだ!」「おっさん、それ受け取ってさっさと出ていきなよ。勇者様のジャマすんなって」「そうだそうだ、早く席を空けろ!」
まわりの圧倒的な「善意のプレッシャー」の前に、俺は完全に『空気の読めない悪役』にされてしまった。2人のドワーフも、ていねいに俺へ「どうぞお出口へ」というポーズをしてくる。
俺は食べそこねたステーキをにらみつけ、ギリィッと歯をくいしばりながらリュックを掴み、逃げるようにお店を出るしかなかった。
しかし、俺が背を向けたその瞬間。
リュックの中から、「シャドウ・デス」の大カマからこじ開けたあのルビーの飾りがポロリと転がり落ち、お店の入り口のそばに落ちてしまった。
席に着こうとしていたライアンは、視界のハシで、微弱な魔気を出すそのルビーを見つけた。
彼の瞳孔が、わずかに縮む。
(あれは……1ヶ月前に俺が聖光ビームを12発ブチ込んで死にかけにさせた四天王、シャドウ・デスのそうびか?)
ライアンは心の中でヒソカに計算した。あの四天王は虫の息だったとはいえ、その辺の村人がどうにかできる相手ではない。このどう見ても貧乏くさいオッサンが、なぜあの戦利品を持っている?それに、さっきの『選ばれし者の加護』のパワーも、コイツには微妙に効きが弱かったような……?
この異世界に来て5年。ライアンはあまりにも順調に過ごしてきたため、天界からもらった最後の切り札(神チート)――【加護の恩賜(好きなスキルを無条件で1つゲット。1回使い切り)】を使うチャンスすらなかった。
(……お前が一体何者なのか、見せてもらおうか)
ライアンは心の中で念じた。「『加護の恩賜』発動。スキルを一番上の解析スコープ――『見破り』にチェンジ!」
見えない黄金の光がライアンの目をよぎった。彼は生死を分けるほどの神スキルをあっさりと「無駄づかい」し、窓の外を歩く俺に視線をロックオンした。
【名前:佐藤誠】
【レベル:1】
【職業:なし】
「データは完全にただの村人……待て、あの剣はなんだ!?」
ライアンの視線が、俺の腰にある地味なサヤに入った鉄剣に移った瞬間、『見破り』スキルがまぶしい赤色の警告を出した。
【警告:この武器には、天界のえらい神様が宿っているのを発見しました!】
ライアンは息をのんだ。女神が宿る隠しアイテム(神装)!?
このオッサン、まちがいない。天界が俺の監視のために送り込んできた『隠密のプロ』だ!
「……なるほどな」
ライアンの目に、面白がるような光がやどった。
「魔王城には、即死トラップやタチの悪い呪いのバリアが腐るほど張られている。ちょうど『ワナよけ(デコイ)』に使える無敵の前衛が欲しかったところだ。お前が弱者のフリをするというなら、その設定に乗って、恩を売ってやろうじゃないか」
……
その頃、お店の外。
俺は悲しいオーラを出しながら道ばたのベンチに座り、めぐんでもらったあの銅貨1枚で買ったハムサンドをかじっていた。さっきの高級ステーキとの落差に、冷たい風が身にしみる。
(佐藤さん……さっきのヤツ、ものすごくヤバいです)
リリアの声が脳内にひびいた。
(私、さっき天界の転生者データベースにアクセスして、あの『勇者ライアン』のステータスをカンニングしてきたんですけど……いいですか、絶対にビビらないで聞いてくださいね)
「言ってみろ。あいつが空でも飛べるとでも言うのか?」
リリアは大きく深呼吸した(ような間を置いた)。
(あいつの5つのチートスキルはこれです――
1つ目、【全データ限界突破】(レベルと数字の上限なし。飯食って寝るだけで勝手に育つ)。
2つ目、【死亡時に絶対復活】(残機が3つある無敵アイテム持ち)。
3つ目、【全属性スキルマスター】(すべての魔法と剣術を最初から極めている)。
4つ目、【選ばれし者の加護】(ふだんは運が良くなるだけだが、本気で使えば、ターゲットを『強制的に洗脳』できる)。
5つ目、【加護の恩賜】(好きなスキルを何でも1つだけゲットできる。1回限定)。)
「……」
俺の手にあった半分残ったハムサンドが、「ポトッ」と地面に落ちた。
短い沈黙の後。
俺は人通りの多い首都のど真ん中で、頭を抱えてくずれ落ち、絶叫した。
「なんだそれはぁぁぁっ!!!廃課金トップのガチ勢と、無課金の無料ユーザーほどの差じゃねえか!!システムにゲームバランスって言葉はねえのかよ!
こんな豪華フルアーマー装備なら、魔王なんてわざわざたおしに行かなくても、金貨で魔王城ごと買い取って物理でなぐりつぶせばいいだろがぁぁ!!!」
(そうですよ!あいつのパーティ、最初から『ダメージを1ミリも受ける気がない』メンバーじゃないですか!)
リリアもサヤの中で、一緒に絶望の叫びを上げた。
俺と剣が一匹ずつ、道ばたで運命の不平等をなげいて叫んでいると。なんと勇者ライアンが1人で店から出てきて、わらいながら俺に向かって歩いてきたのだ。
「そこのあなた。先ほどは大変失礼しました。深く反省しています」
ライアンは軽く頭を下げた。
「な、なんだよ?」
俺はビビッて一歩下がった。
「実は私、あなたの中に隠された『巨大なポテンシャル』を見抜いたのです」
ライアンは意味ありげに俺を見つめ、その目の奥で突然、黄金の光がピカッと光った。
【選ばれし者の加護(ココロをあやつる洗脳効果)――発動!】
「我々は明日、魔王をたおしに出発しますが、魔王城はなぞのバリアだらけです。我々のチームには今、あなたのように『経験が豊富で、恐れを知らない』前衛が必要なのです!
どうか我々に加わってください。成功した時は、魔王の財宝の半分をあなたにさし上げましょう!」
その瞬間、俺の脳ミソの奥で「ブツンッ」と音がした。まるで温かい電流が、神経にムリヤリ入り込んできたような感覚。
魔法耐性ゼロの俺は、1秒たりとも抵抗できなかった。
俺の目の前の世界が、突然キラキラと輝き始めた。ライアンの姿が、とてつもなく偉大で頼りになる神のように見える。魔王の財宝?半分?最強チームの前衛?これはまさに、神が俺にくれた最高の栄誉じゃないか!
(待って!佐藤さん!あいつの言葉を聞いちゃダメです!)
リリアが俺の脳内で狂ったように悲鳴を上げた。
(あいつの洗脳スキルをモロに食らってますよ!あいつ、あなたをデコイの肉盾にしようとしてるだけです!早くことわってぇぇ!)
「任せてください!ライアン様!」
俺はバッと気をつけの姿勢になり、勇者の両手をガシッと握りしめ、アホのように熱狂した目で叫んだ。
「前衛のポジション、この佐藤誠が引き受けました!私が皆様のためにイバラの道を切り開き、この体を盾にして道を切り拓いてみせます!」
(あああああああ!このバカぁ!!!あんたレベル1でしょ!その腹黒い男の手を放しなさぁぁい!)
リリアの絶叫が俺の脳ミソをブチ破りそうだった。
しかし、完全に洗脳されている俺は、ただただ熱血のパッションにつつまれていた。
「素晴らしい!あなたこそ熱い心を持つ真の勇士だと思っていましたよ!」
ライアンは満足げに笑った。
彼はクルッとふり返り、腰からまぶしい光を出す聖剣を抜き、高くかかげた。
そして、道に集まってきた何千人もの人々に向かって、神聖でいげんに満ちた声で大々的に宣言したのだ。
「北の王国のほこり高き民よ!我々はついに、最強の前衛を見つけ出した!
明日の早朝、我ら魔王討伐軍は正式に出陣する!勝利は、必ずや我々の手に!!」
「うおおおおおおおおっ!!!」
大通りは一瞬にして熱狂のうずにつつまれ、地鳴りのような大歓声が爆発した。両わきの窓からは花びらと紙吹雪が降りそそぎ、お店から出てきた勇者チームのプリーストたちが歌を歌い始め、エルフたちがド派手な花火の魔法を打ち上げた。
俺はよろこぶ人々のど真ん中に立ち、胸を張り、自分が本当に世界を救うヒーローにでもなったかのような「救いようのないアホ面」でヘラヘラと笑っていた。
この栄光と狂熱に満ちた空気の中で。俺の腰にぶら下がるサビた鉄剣だけが、限界まで絶望しきった悲鳴を上げていた。
(どうしてこんなことになっちゃったの……私、剣になったばかりなのに、これから魔王城の『地雷タンチキ』にされるの……?うぇぇぇん、助けて、誰かこのバカなオッサンをなぐって目を覚まさせてよぉ……)
読まなくても全く問題ない裏設定
カンペキに見える勇者ライアンだが、前世はお金持ちの家の次男坊。
家族のプレッシャーにつぶされて大学受験に落ち、家を追い出されて道ばたで餓死したという、けっこう悲惨な過去を持つ。
たまたま担当になったルシアンが彼をあわれみ、チートスキルを山盛りにしたうえに、自分の顔をベースにしてライアンのルックスを作ってあげたのだ。
(もちろん、本物のルシアンのイケメン度にはおよばない「劣化コピー」であるが)。
ライアンの【選ばれし者の加護】は、常に弱く発動し続ける「パッシブ洗脳」のようなもの。このおかげで、彼は異世界に来てすぐ強い仲間を集め、ご飯代もほとんど払ったことがない。
レストランの外で佐藤のおっさんが、めぐまれた銅貨でハムサンドを買ってしまったのも、「俺なんてみじめなオッサンだ…」とスキルに心をあやつられていたからである。
本当なら、ライアンが店に入ってきた時点で、佐藤もほかの客と同じようにニコニコしながら自分から店を出て行くはずだった。
彼が最初は「俺が先だ!」と抵抗できたのは、腰にあったリリア(剣)が生まれつき持っている『神のアンチ魔法ガード(魔法耐性)』が、無意識に佐藤を守っていたからなのだ。
(しかし、ライアンが本気を出してアクティブでスキルを使ったため、剣のパッシブガードでは防ぎきれずに、結局アッサリ洗脳されてしまった。やっぱりどこまでも不遇な主従である)。
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