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幕間:王都へむかう六日間の特急馬車

いつも読んでいただき、ありがとうございます!


実は今回の幕間から、作品にサブタイトルを追加してみました。

やっぱり、もう少し多くの人に読んでもらいたいなーと思いまして(笑)。


それから、あらすじに書いていた「全17章」という部分も直しました。

いざ書いてみたら、ぜんぜん17章じゃ終わらないことに気づいてしまったので……!


というわけで、まだまだ続く佐藤とリリアの旅を、これからもよろしくお願いします!

【一日目】


この「豪華特急馬車」とよばれる乗り物は、たかいチケット代にみあうだけのことはあった。


車内にはやわらかい魔獣の毛なみカーペットがしかれ、シートには温度ちょうせつ用のまほう陣まである。三食つきだけど、元しゃちくの俺が一番かんどうしたのは、シートのとなりにあるウェルカムバスケットだった。


中にはおいしそうなおかしや、高級な高山茶のティーバッグ、さらには「つかいすて魔晶石ホットアイマスク」までつまっている。


「ごくり……」


俺はつばをのみこんだ。これまでの人生けいけんが、俺にこうささやいている。こういうのは、つかわなきゃソン、もらわないやつはバカだ、と。


俺はキョロキョロとまわりをみて(車内には俺ひとりだけど)、ものすごいスピードで、テーブルの上のティーバッグとおかしをボロボロのリュックにかきこんだ。


『……佐藤さん』


腰の鉄の剣から、リリアのつめたい念話がきこえてきた。


『なにしてるんですか? 今のあなたのこうどう、道ばたでこどものアメをうばうゴブリンよりもサイテーですよ』


「うるさい! これは『ぶっし管理』っていうんだよ!」


俺はえらそうに、さいごの「エルフとくせいクルミクッキー」をリュックの底におしこんだ。


「こういうのは、あの金貨一枚のチケット代にふくまれてるんだ! 俺はしょうひしゃのせいとうなけんりをまもってるだけだ! 世間しらずの見習い剣にはわからないだろうけどな!」


『わたしたち、今は四天王のぜんざいさんを持ってるんですよ!? なんでそんな、なりきんみたいにセコいんですか! 冒険者のはじです!』


リリアはさらに俺をさげすんだ。


「プライドでメシがくえるか! 王都について、もしぶっかがとんでもなく高かったらどうするんだよ!」


俺もまけじと言いかえす。


そのあとの二時間、リリアからきびしいおせっきょうをうけた。だけど、俺がポロっといった一言でじょうきょうがかわった。


「こういう高級な高山茶のティーバッグって、王都のやみ市でうったら、一包で銀貨何枚になるか知ってるか?」


車内が、一瞬だけシーーンとしずまりかえった。


『それって……』


リリアの声が急にちいさくなり、ほんのすこしだけワクワクしているようにきこえた。


『さっきシステムでけいさんしてみたんですけど……もしシートの下にある「あんみん用アロマ魔晶石」もほりだしたら、わたしたちのしさんは、あと約2.5パーセントふえますね』


「よし、そのちょうしだ。シートの下に、よびのベルベットのスリッパがないかさがしてみてくれ」


一日目、俺たちは車内のびひんを「りゃくだつ」するざいあく感と、ほんのすこしのたっせい感のなかですごした。



【二日目】


二日目の午後、まどから差しこむ光がカーペットをてらしていた。


『佐藤さん、出してください』


「なにを?」


俺は足をくんで新聞をよんでいた。


『もちろん、オークの町で大金をはたいて買った「さいこうきゅうスライムつうき金ぞくオイル」ですよ! 早くわたしの剣をメンテナンスしてください!』


リリアがえらそうにめいれいしてくる。俺はあきれながら、リュックからうっすらミントのにおいがするガラスのビンをとりだした。


「おまえさ、オークの町のカジ屋で、金はらってドワーフのおっさんにサビおとしをたのもうとしたとき、ぜったいイヤだってリュックの中でふるえてたよな? なんで今さらセレブぶってんだよ」


『ちがいます!』


リリアがさけんだ。


『あのドワーフのおじさん、あせくさかったし、それにグラインダーをつかおうとしてたんですよ!? グラインダーですよ!? わたしの剣のひょうめんが削られちゃいます! あんなのははかいこうさくです! メンテナンスっていうのは、やわらかい布とさいこうきゅうのオイルで、やさしくケアすることなんです!』


「はいはい」


俺はテキトーにへんじをして、リリアをぬきはなち、指でオイルをどっさりとってから、テーブルをふいたのか顔をふいたのかわからないボロ布を手に取り、剣をものすごいイキオイでこすりまくった。


「くらえ! とっきゅう革ぐつみがき!」


『ひゃあああっ!』


リリアが悲鳴をあげた。


『つめたっ! その布、ザラザラすぎます! しかもあつかいがザツ! つばのところにはぬらないで! そこ、すごくミンカンなんですから!』


「うるさい! ちゃんとぬらないとサビるだろうが!」


俺はさらに力をこめた。


『あっ……ダメ……そこはほんとにダメ……なんかヘンになっちゃう……佐藤さんのバカァ!』


「そのあやしい言いかた、やめろ!」


三十分後。オイルでテカテカになった剣が、カーペットの上でかすかにふるえていた。


『こんなことなら、やらなきゃよかった……いつかぜったいにコロしてやる……』


リリアの声はすっかりぬけがらになっていた。



【三日目】


旅の三日目、たいくつもピークにたっした。

まどの外のけしきは森から平原にかわったけど、三分でめがあきた。


俺のしせんは、しぜんと空中にうかぶ、俺にしかみえないシステム画面にむいていた。そこには、あやしい金色の光をはなつ、ハテナマークのガチャがあと二つのこっている。


「……いっこだけ」


俺はブツブツとつぶやきながら、「オープン」ボタンのギリギリのところを指でなぞっていた。リリアが俺のイヘンに気づいた。


『おととい、「ガチャのジンクス」がどうとか言ってませんでしたっけ? 今ひいたら、ぜったいにゴミしか出ないって』


「あの時とはちがう!」


俺は目を血ばしらせて、あたらしいリクツをならべた。


「みろ! 今ちょうど川をとおってる! これは地球のふうすいでは『玉帯環腰ぎょくたいかんよう』っていって、チョー大吉のサインなんだよ! しかもこの二日、ぜんぜんモンスターに会ってない。これはもう、ぜったいに運気がたまってるショウコだ!」


『それ、ただのガチャ中どくですよね』


リリアが冷たくつっこむ。


『こんな、にげばのない高級車内でひくつもりですか? もしルシアンせんぱいがくれたスキルが、「ひゃくパーセントの確率で大洪水をよびだす」とかいうまほうだったらどうするんですか?』


俺の指が、ピタッと空中でとまった。


『もし、その大洪水をよぶスキルの発どうじょうけんが「呼吸をすること」だったら、あなたはずーっと息をとめてるつもりですか?』


と、リリアのツッコミはとまらない。


「……くそっ」


そう言われると、あのハラグロ神様なら、マジでやりかねない気がしてきた。


俺はくうきがぬけた風せんのようにシートにたおれこみ、だまってシステム画面をとじてから、心の中でルシアンのやつを百回くらいのろった。



【四日目】


四日目、俺たちはついに、毎日おなじことのくりかえしの車内せいかつにウンザリしてきた。


『ねえ、佐藤さん』


リリアの声が、すこしダラダラしている。


『急に、あるギモンがうかんだんですけど』


「言ってみろ」


『強い魔王軍とかデカいモンスターは、みんなあの「かんぺき勇者ライアン」がたおしちゃったんですよね……だったら、なんでわたしたち、わざわざ王都にむかってるんでしょうか?』


「……」


『わたしたちの手元には、四天王のいさんがあります。これだけのお金があれば、田舎に土地をかって、家をたてて、農家のひとをやとって畑しごとをおまかせすることだってできるんですよ』


リリアはだんだんテンションがあがってきた。


『とかいのそうおんからはなれて、魔王もいなくて、あのハゲ主任もいない! これって、さいこうの引たいせいかつじゃないですか!?』


俺はハッとした。この剣、めちゃくちゃいいこと言うな。ぜんぜん言いかえせない。

そうだよ、なんで俺は王都になんて行こうとしてるんだ? 俺はスライムにすら負けそうになった、ただのライターおじさんだぞ!


だけど、カンジンなところで俺の「りせい」がストップをかけた。


「ゆめみるのはやめとけ」


俺は鼻でわらって、彼女のもうそうをぶちこわした。


「俺が行きたいと思ってるか? もし俺たちがこのまま田舎にひきこもったら、天界の上層部はこの『じっしゅうプロジェクト』をどうあつかうと思う?」


『……え?』


「あの勇者ライアンが魔王をたおしたとして、天界が『はいミッションおわり! 二人とも天界にもどってよし!』って言うと思うか? ぜったいありえないだろ! だから俺たちは、ハイエナしてでもいいから、なんとかしてジッセキをつくらないとダメなんだよ! それともおまえ、サビた鉄の剣のまま、俺といっしょにこの異世界で何十年も畑たがやしたいのか?」


俺の、たましいをえぐるようなマジレスに、リリアはピタッとしずかになった。

しばらくして、俺のあたまの中に、血のにじむようなさけび声がひびきわたった。


『……ぜったいに魔王をたおします! わたしは正しゃいんになるんです! 給料にじゅっパーセントアップ!』



【五日目】


ひまつぶしに、俺は車内におかれているVIPむけの『北の王国日報』を手にとった。


「どれどれ……トップきじは『えいこうと光のけしん! かんぺき勇者ライアン様、昨日、かれいなる聖なる光のまほうでこじ院のこどもたちをいやし、王様のけっこんのていあんをことわる! ライアン様いわく、私の剣は、ただ民のためにふるわれる!』……だそうだ」


俺はむひょうじょうのまま、新聞をくしゃくしゃに丸めた。


『……なんかウソくさいですね』


リリアのひがみっぽい声がすぐさまきこえた。


「だろ!? めちゃくちゃウソくさい!」俺はなかまを見つけたように大声でどういした。「光のまほうでちりょう? あいつ、自分のことを歩くさっきんライトだとでも思ってんのか! しかもお姫さまとのけっこんをことわる!? あいつぜったいなんかおかしい! ウラでぜったいになにかたくらんでる!」


『そうですよ! ルシアンせんぱいがじかにきたえたヤツなら、ぜったいにハラグロにきまってます!』


リリアも、なんのコンキョもないネガキャンにさんかした。


『「私の剣は民のために」? そんなセリフ、三流のネット小説でも書きませんよ! ぜったいウラで魔王軍とつながってて、この世界のふどうさんをかいしめるつもりなんです!』


「そうそう! しかもこいつ、写真だとやたら背がたかくみえるけど、ぜったいシークレットブーツはいてるぞ!」


「だいたい、なんで金ぱつのロングヘアなんだよ? モンスターとたたかう時、木のえだにひっかからないか!? ぜったいカツラだ!」


その日のごごはずっと、社会の底辺をいきるボッチ二人が、せまくてかいてきな車内で心をひとつにして、会ったこともないきゅうせいしゅにむかって、えげつない悪口とジンカクひていをくりひろげた。


あいつが朝ごはんに目玉焼きをいくつ食べるかまで、かき集めてヒハンした。こんな、一方的につくりあげた『アンチ同盟』のおかげで、俺たちのチームワークはかつてないレベルにたっしていた。



【六日目】


馬車はついに、北の王国の王都のちかくにやってきた。

とおくのほうに、でっかい白いお城のシルエットがうっすらとみえる。


『オロロ……』


俺のあたまの中で、急にリリアのはげしいえずき声がきこえた。


「どうした? 道は平らだぞ、また車よいか?」


俺はフシギに思ってリュックをたたいた。


『ちがい……ウップ……あなたです……』


リリアの声は、今にもちっそくしそうだった。


『佐藤さん……あなた、もう六日間もシャワーあびてないんですよ! しかもこの数日、食べ残しのおかしとか、半分かじった黒パンとか、あのドワーフのおじさんが吐きかけたお酒のにおいまで……ぜんぶこのリュックと車内にこもってるんです!』


「そんなにひどいか?」


俺はうでをあげて、鼻のちかくでにおいをかいでみた。


はっこうしたお酒、くさったクルミクッキー、そしておじさんのキツい汗のにおいがまざりあった、バイオハザードきゅうの悪臭が、はなをドカンとついた。


「オボッ!!」


俺じしんも吐きそうになった。


『今のあなた、魚のタルの中で死んで、三日間おひさまにさらされたゴブリンみたいなにおいがしますよ!』


リリアがさいごのけいこくをした。


『もしそのクサイままでわたしをぬいたら、ちかいます、わたしその瞬間に自分で剣をへしおってやります! こんなせいぶつ兵器みたいなにおいにまみれるくらいなら、死んだほうがマシです!』


俺のゆいいつの「武器」をまもるため、そして、門番にえきびょう神あつかいされて、その場でころされないようにするため。

俺はしかたなく、くつじょくをかみしめながら馬車のドアをたたき、ぎょしゃにたのんで王都ちかくのちいさな村でとめてもらった。


「今日はここで一泊しよう」


俺はあきらめて、リュックをもちあげて馬車をおりた。


今夜は、このライターおじさんのからだのすみずみまで、ピッカピカに洗いながさなきゃいけない。あの「かんぺき勇者」のオーラにつつまれる北の王国に、少しでもプライドをもって足をふみいれるために。

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