表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クレーム転生   作者: つきゆかり
12/12

第十一章:四天王の遺産

馬車の前方の泥道には、魔王軍四天王の一角「シャドウ・デス」が白目を剥き、意識不明でぶっ倒れていた。本来なら威厳に満ちているはずのその顔には、クシャミの直撃による怪しげな水滴がまだ残っている。


「こいつ……どんだけ不運ならクシャミ一発でヘッドショットされるんだ?」


俺は心の中で感嘆しつつ、一切の遠慮なくしゃがみ込み、骨の髄まで染み込んだRPGプレイヤーの本能を発揮した。――すなわち、「死体あさり」の開始である。


「金袋、ゲット。おっと、このネックレス、かなり純度の高い魔晶石がはまってんな、没収。この大鎌は重すぎて持てないが、柄のルビーはこじ開けられそうだ……」


俺は手際よく、この四天王が身につけている金目のパーツを根こそぎ剥ぎ取った。ボロボロのマントについていた、まだマシな金属バックルすら見逃さなかった。


(……佐藤さん、今のあなたの顔、横で倒れてる魔王軍よりもよっぽど極悪非道な悪役みたいですよ)

リリアが俺の腰で、軽蔑しきった声を上げた。

(それに、人のベルトのバックルまで剥ぎ取るなんて、前世は廃品回収業者ですか!?)


「これは『戦利品』って言うんだよ!お約束がわかってないな、この見習い鉄剣が」

俺はずっしりと重い金袋をリュックにねじ込み、満足げに手についたホコリを払った。

「これはあいつが俺たちに与えた精神的苦痛への慰謝料だ!この金があれば、もう歯が折れそうなカチカチの黒パンをかじらなくて済むんだぜ!」


しかしその時、森に逃げ込んでいた御者のおっさんがビクビクしながら出てきた。彼は馬車をチェックすると、悲鳴を上げた。

「ゆ、勇者様ぁ!さっきの魔法爆発の衝撃波で、馬車の右前輪の車軸がヒビ割れちまいました!これじゃ北の王国の首都までは直行できねえ。なんとか先の宿場町『オークの町』まで持たせるのが限界だ!」


「チッ、よりによってこんな時に……」

俺は無力感とともにため息をついた。


だが、懐にあるずっしり重い金貨の感触を思えば、これくらいの小さな挫折は受け入れられた。


夕暮れ時。今にも空中分解しそうなほどギシギシと鳴る馬車は、フラフラと『オークの町』へとたどり着いた。


シャドウ・デスの寛大な「スポンサード」のおかげで、俺は町で一番高級そうな宿屋に堂々と入り、ピカピカの金貨1枚をカウンターに叩きつけた。


「親父、一番いい部屋を頼む!熱いお湯が使えて、最高にフカフカのベッドがある部屋だ!お釣りはとっておきな!」俺は豪快に叫んだ。


鍵を受け取ると、俺は足取り軽く2階の豪華な客室へと足を踏み入れた。部屋にはベルベットのシーツが敷かれたふかふかのベッドだけでなく、湯気の立つ大きな独立したバスタブまであった。俺は感動のあまり涙を流しそうになった。ついに異世界で、人道的な扱いを受けられる日が来たのだ!


俺はリュックを絨毯にポイッと投げ捨て、腰の鉄剣を外してベッドサイドのテーブルに無造作に置き、酸っぱいニオイのする粗末な布の服を脱いで、最高のお湯に浸かる準備を始めた。


(ま、待って!佐藤さん!さっき宿屋のオヤジに『一部屋』って言いましたよね!?)

突如、リリアの声が脳内で爆発し、耳鳴りがしそうなほどの音量で響いた。


「ああ、そうだけど?金はできたが、節約できるところは節約しないとな」

俺は服のボタンを外しなが答えた。


(そうだけどじゃないです!大問題ですよ!)

リリアがパニックになって叫ぶ。

(私は純潔な女神ですよ!?いくら見習いとはいえ、独身のオッサンと同じ部屋に泊まらせるなんてどういう神経ですか!しかもあなた、今私の目の前で服を脱ごうとしてるじゃないですか!早くもう一部屋取ってきてください!私にはプライベートな空間が必要です!)


俺は服を脱ぐ手を止め、振り向いて、テーブルの上に静かに横たわるサビた鉄剣を「アホを見る目」で見つめた。


部屋の中は、5秒間静まり返った。


「……リリア」


(なんですか!早く部屋を取ってきて!)


「お前、今は『剣』だぞ」

俺は諭すように彼女を指さした。

「お前には目もないし、体もない。唯一の感覚はテレパシーだけだろ!百歩譲って、俺がわざわざお前のためにもう一部屋取ったとして、どうするつもりだ?服を着替えて風呂にでも入るのか?布団をかぶって寝るのか?」


(う、それは……)


「それとも何か?俺にオヤジのところへ行って『すみません、もう一部屋ください。俺の鉄剣が専用のダブルベッドと洋風バイキング朝食を要求してるんです』とでも言えってのか?間違いなく、頭のおかしい重度の中二病患者として衛兵に通報されるぞ!」


(でも、これは原則の問題です!精神的なセクハラですよ!)

リリアは俺の完璧なロジックにぐうの音も出なくなり、ついに理不尽な八つ当たりを始めた。

(あなたがこの部屋で素っ裸でウロウロしてるのを想像しただけで、私の鞘が汚された気分になります!この変態オタク!早くタオルで私をぐるぐる巻きにしてください!せめてクローゼットの中に押し込んで!)


「ぐるぐる巻きにするかよ。これ以上うるさく言うなら、浴室の隣に突き刺して物干し竿にするぞ」

俺は冷酷に彼女の抗議を却下し、ボロボロの服を脱ぎ捨てて、真っ裸で浴室へと向かった。

「お前は大人しくテーブルの上で荷物の番でもしてろ。もし勝手にバイブして床に落ちたりしたら、明日はスクラップとして売り飛ばすからな」


(佐藤誠、この血も涙もない悪魔ぁっ!シャワーの途中で急にお湯が水になれって呪ってやります!)


最高に気持ちいい風呂から上がった後、俺は心身ともにリフレッシュした状態で、ふかふかのベルベットのベッドにダイブした。


「あぁ……これぞ人生だ……」

俺は満足げに深いため息をついた。


(ねえ、佐藤さん)

リリアも諦めたのか、声が落ち着いていた。

(今なら時間もあるし、安全なんだから、残りの2つのガチャを一気に開けちゃいませんか?もしかしたらすごい攻撃魔法が出て、北の王国に行くのも安心できるかもしれませんよ)


「甘い。甘すぎるぞ、リリア」


俺は寝返りを打ち、両手を後頭部で組みながら、歴戦の猛者のような哀愁漂う声で言った。「これだから天界の神様はわかってないんだ。我々オタクの領域には、極めて奥深い学問が存在する。名付けて『ガチャのオカルト』だ」


(……なんですかその怪しげな宗教は?)


「運というものは、常に変動している」

俺は大真面目に、一振りの剣に向かって持論を展開した。

「俺は今日、『百発百中のクシャミ』を引いた。キモいとはいえ、役に立つ必殺技だ。そしてその後、俺たちは『運良く』瀕死の四天王を拾って、大金を稼いだ。これが何を意味するか、わかるか?」


(私たちの運が良いってことですか?)


「違う!俺の今日の『幸運値』がすでに深刻なマイナスに陥っているということだ!今この瞬間、システムの『物欲センサー』は完全に俺をロックオンしている!」

俺は重大な学説を発表するかのように、興奮して起き上がった。

「もし今ガチャを回せば、システムは確率を調整するために、絶対に見るに堪えないゴミを押し付けてくるに決まってる!『100%の確率で自分が下痢になる』みたいな、破滅的な自爆スキルを引きかねないんだよ!」


(……佐藤さん、あなた単にあの『ターボライター』でトラウマになってるだけじゃないですか)

リリアが冷たくツッコミを入れた。

(ルシアン先輩は、読心チップなんて仕込むほど暇じゃありませんよ。ただの被害妄想です!)


「お前にはわからん!信じる者は救われるんだ!とにかく、ちゃんと手を洗い、お香を焚き、日々の徳を十分に積むまでは、残りの2つのガチャには絶対に触らないからな!」俺は断固たる態度で再びベッドに潜り込み、布団を頭までかぶった。「寝る!明日はまた移動なんだからな!」


(このチキン!ガチャゲーのクズ!夢のないスライム野郎!)


リリアの果てしない文句を聞き流しながら、俺は勝利の笑みを浮かべ、異世界で初めての安らかな眠りについた。


翌朝。


四天王のずっしり重い遺産のおかげで、俺たちはすぐに旅立つことはせず、オークの町で悠々と2週間近く過ごし、遅ればせながらの「爆買い」を敢行した。

俺はついに酸っぱい匂いのする粗末な服をゴミ箱にぶち込み、長旅に最適な軽い革鎧、防風マント、そして靴擦れしない頑丈なロングブーツに着替えた。さらに高級な干し肉や上質な携帯食糧、旅行の必需品を大量に買い込み、毎日石のような黒パンをかじる悲惨な日々に完全に別れを告げた。


もちろん、リリアのことも忘れてはいない。俺は大枚をはたき、ほのかな松脂の香りがして、内側にふかふかの起毛が施された、新品の最高級レザーの鞘を彼女に買ってやった。

本当は、彼女を鍛冶屋に連れて行き、お金を払って剣身の不格好な赤サビを綺麗に研磨してもらおうとも考えていた。しかし、鍛冶屋のオヤジが砥石を振り上げた瞬間、リリアは俺の脳内で豚を潰したような悲鳴を爆発させたのだ。


(変態!やめて!汗臭いオヤジに女神の神聖なボディをゴシゴシ摩擦されるなんて絶対に嫌!佐藤さんも勝手に触らないで!私の星屑の輝きは神聖にして侵されざるものなんですからね!)


「どこが星屑の輝きだよ!ドブから拾い上げた凶器にしか見えねえよ!研がないと、破傷風のデバフで戦ってると思われるだろ!」

俺は心の中で激しくツッコミを入れたが、(もし私を研ぐなら、太ももの上で尿失禁するまで高周波バイブしますよ)という彼女の悪辣な脅迫に屈し、研磨計画はあえなく頓挫した。

結果として、彼女は相変わらずボロボロのサビた鉄剣のままで、ただ外側に少しマシな「新しい服」を着せただけという状態に落ち着いた。


万全の物資を整え、見違えるようになった俺たちは、オークの町の宿場へと向かい、大金をポンと払って北の王国の首都へ直行する「豪華特急馬車」を貸し切った。

この馬車は最高級の魔法サスペンションシステムを備えているだけでなく、座席にはふかふかの魔獣の毛皮が敷き詰められ、車内にはほのかなラベンダーの香りすら漂っている。


「地獄の沙汰も金次第。昔の人はいいこと言うぜ」

俺は毛皮の背もたれに心地よく寄りかかり、窓の外を飛ぶように過ぎ去る景色を眺めた。


隣の席に置かれたリリアでさえ、もう吐き気をもよおすようなえずき声を上げることはなく、気持ちよさそうに微弱な羽音を鳴らしていた。


剥ぎ取った財産と、最後に残された2つの未知のガチャスキルを携え。

俺たち「ターボライターのオッサンと、コミュ障のバイブ剣」という奇妙な凸凹コンビは、ついに「完璧な勇者」のオーラに包まれた北の王国の首都へと、正式に足を踏み入れようとしていた。


読まなくても全く問題ない裏設定


魔王軍四天王「影の死神シャドウ・デス」は、伊達に四天王を名乗っているわけではない。本当に、信じられないほどタフで強力なのだ。


勇者ライアンから『極大聖光殲滅砲』を12発も顔面に食らい、その1ヶ月も経たないうちに『超音速クシャミ』を直撃されても、まだ死なないほどの異常なHP(生命力)を誇っている。


ただ、気絶した上に身ぐるみ剥がされた状態のため、目を覚ますまでの十日から半月ほどは、あの泥道の端っこで哀れに野ざらしにされる予定である。


全財産と装備を佐藤のおっさんに「ルート(剥ぎ取り)」された彼は、目を覚ました後、魔王城に帰るための路銀を稼ぐことを決意する。


そしてなんと、徒歩でトボトボと「はじまりの村」まで引き返し……あろうことか、ちょうど退職したばかりの『ハーフエルフの受付嬢』の欠員募集に応募し、見事に採用されてしまったのである。


現在、彼ははじまりの村の冒険者ギルドで、2メートル超えのデカい体を丸めながら「いらっしゃいませー」と受付業務をこなしている。魔王軍の幹部が初心者を案内するという、カオスすぎる生態系がここに誕生したのだ


リリアが天界図書館と天界コンビニで掛け持ちバイトをして生計を立てていた、空白の50年間。

悲しいお知らせだが、その半世紀の間、彼女にロマンスや男性からの熱烈なアプローチなどは一切、ただの1回も存在しなかった。


完全に職場と家を往復するだけの、純度100%の「ぼっち女神」だったのである。


彼女が「オッサンと同室なんてセクハラだ!」とあそこまでパニックを起こしたのも、単に男性に対する免疫が完全にゼロだったからである


佐藤のおっさんが怯えていた、システムによる「物欲センサー(読心チップ)」。

もちろん、ルシアンがイチおっさんのガチャ運を操作するためだけに、そんな面倒くさいプログラムを仕込むほど暇なわけがない。


さらに残酷な事実を言うと、あのランダムガチャチートの中身は、ルシアンがハンコを押した時点で、5つともすべて事前に中身が設定済みだったのだ。


つまり、佐藤がどれだけお香を焚こうが、手を綺麗に洗おうが、出てくるスキルは最初から完全に決まっていた。彼の信じる『ガチャのオカルト』は、異世界においてもただの自己満足に過ぎなかったのである)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ