ペルンの残り火
城の中は、冬の結晶だった。
壁も天井も床も、すべて氷で構成されている。人間が切り出して積み上げた氷ではない。成長した氷だった。鍾乳洞の石灰岩が千年をかけて形を成すように、この氷は何百年もかけて凍り、重なり、巨大な空間を作り上げている。
足を踏み入れたとき、靴底が氷の床に触れる音が、空間全体に反響した。高い天井が音を吸い、遅れて返してくる。自分の足音のこだまが、まるで別の誰かの足音のように追いかけてきた。
壁面に光があった。
外からの光ではない。氷そのものが発光している。淡い青白い光が壁の内側を流れ、脈動するように明滅していた。城全体が呼吸しているかのようだった。光が天井の高みに向かって流れ、尖塔の先端に集まっては散っている。
広大な空間の中央に、氷の玉座があった。
巨大だった。人間のための椅子ではない。神のための玉座。背もたれが天井近くまで聳え、肘掛けは氷の蔓が絡み合って形を成している。冬の紋様が表面に浮かび上がり、光の脈動に合わせて模様が変わっていく。
だが玉座は空だった。
マルジャンナは座って待つ存在ではない。冬の女神は──冬そのものだ。玉座に座る必要がない。この城全体がマルジャンナの身体の延長であり、この冷気がマルジャンナの息吹だった。
城内を進んだ。
通路は広いが、奥に進むほど温度が下がった。凍てつく、という言葉では足りない。骨が凍る。呼吸するたびに肺が灼けるように痛み、吐く息が口元で凍って白い結晶になって落ちた。
ヴェレスでさえ足を速めた。
「急げ。この冷気の中に長くいれば、おまえたちは保たない」
ヴェレスの声に、珍しく焦りがあった。白狼の姿ではなく人型のまま。左足を引きずる歩調が速まっている。琥珀色の目が通路の奥を見据え、先を急いでいた。
ズラータの呼吸が浅くなっていた。結界を維持しようとしているが、力が足りない。唇が紫色に変わり、指先が動かなくなりかけている。ラスラフの背中に視線を送った。目が語っている──私はもう長時間は耐えられない。
ドモヴォイが震えていた。小さな身体を丸め、もじゃもじゃの髭を外套の内側に押し込んでいる。家の精霊にとって、極限の冷気は存在の根幹を脅かすものだった。それでも足を止めない。仲間が前に進む限り、ついていく。
通路の突き当たりに、開けた空間が現れた。
天井がなかった。
頭上に空が見えていた。暗い空。灰色を超え、黒に近い空。その空から、雪が降り続けていた。永遠に降り続ける雪。風もなく、ただ真っ直ぐに、無数の白い結晶が天から地へ落ちている。
広大な空間だった。氷の床が鏡のように磨かれ、降り注ぐ雪を反射して、上と下の区別がつかなくなる。天から雪が降り、床に雪が映り、自分が空の中に立っているような錯覚が生まれた。
その雪の中心に、白い影が立っていた。
ラスラフの嵐の痣が、激しく脈動した。
ペルンの記憶が反応している。身体の奥から押し寄せてくる感情の波。それは敵意ではなかった。もっと複雑な、もっと古い感情。三百年前の嵐神が抱いていた──冬の女神への、名前のつかない感情。
白い影がゆっくりと振り返った。
白銀の髪が、降り続ける雪に紛れるように揺れた。蒼白い肌。骨格が透けて見えるような鋭利な顔立ち。裸足の足元に雪が積もっているのに、足跡は残っていない。
目が──冬の空の色をしていた。薄い灰白色。瞳孔すら白みがかっている。感情が読めない。だがその目がラスラフを見たとき、空間全体の温度がさらに数度落ちた。
マルジャンナ。
冬の女神が、ラスラフを見つめていた。




