第四話 刀も転がされるので
「あら、そこのお笑い刀さん。飲みたいのぉ~?
ほらぁ、遠慮しないでいいわよぉ~」
加奈はもう暴走しきっておりました。
二丁徳利を引っ提げ、かに吉に迫っております。
『あ、いや、お構いなく……
というか、誰がお笑い刀じゃ!』
そして
その騒ぎに太助も参戦します。
「だーっはっはっはっ!お笑い刀だってよ!
めっちゃお似合いじゃねーか!」
『やかましいわ!
主など何やらせてもお笑い浪人ではないか!』
「だーれがお笑い浪人なんだよ!このお笑い鈍ら刀が!」
『余計な言葉を付け足す出ないわ!お笑い大うつけ浪人が!』
「そんなに長崎港に沈みてーのか!お笑い鈍らじじぃ刀が!」
そして、突然加奈がそこに加わります。
「ちょっと!あんたたち何二人で遊んでるのよ!
こんないい女がお酌して回ってあげてるのに!」
「『やかましい!素人は黙ってろ!』」
その様子を生暖かい視線で見つめるシーボルトと、頭を抱えながら
見ている耕牛が、いい感じで対比されております。
「いやー耕牛さん、これは今年も賑やかで楽しくなりそうですね!」
「……全くお恥ずかしい限りで……」
そんな耕牛たちがとっくに目に入っていない加奈は、さらに暴走に
拍車がかかります。
「だーれが素人ですってぇ!?」
言うが早いか、加奈は今度は太助にダブル徳利で突撃していきます。
「だからそういう飲み方は今日は――
ゲホゲホっ!
やめろって言ってるだろ馬鹿娘っ!」
「まだ私のお酒が飲めないって言うの!?
このお笑い浪人が!」
「お前に言われたくねーよ!お笑い門下生が!」
「誰がお笑いよ!私これでも寺小屋では一番だったんだから!」
「て、寺小屋!?お前何年前の話してんだよ!
だーっはっはっはっ!」
「やかましい!このお笑い不潔おバカ浪人が!」
「悪口増やしてんじゃねー!」
こうして二人は徳利を手に、お互いの口へ突っ込みはじめました。
「ちょ、ちょっと婦女子の口に徳利突っ込むなんて――
ゴホゴホっ!
あんた変態なの!!?」
「お前に変態なんて――
ゲホゲホっ!
言われたかねーよ!この変態女!」
太助と加奈の功績により、宴はみるみるうちに崩壊していきました。
「おい!この部屋の物は貴重な物ばっかりなんだから壊すなよ!」
「いやー正月から愉快ですな、HAHAHAHA」
耕牛とシーボルトは完全に蚊帳の外になっておりました。
『おい二人とも!我にも飲ませんか!』
そして、なにかズレているかに吉です。
「これが……オランダ正月……!」
完全に間違えた知識を吸収しかけている、いね……
どなたか、いねに正しい教育をしてあげてほしいとこです。
「おみっちゃん大丈夫?お水もっと飲んで!」
「きゅ~……」
へたり込んで寝てしまったおみつに、滝が懸命に救助活動をしております。
こうして今年のオランダ正月も厳かに過ぎていきました。
――
そして嵐が過ぎ去り――
宵の月がうっすらと顔を出している夕方。
シーボルト一家は耕牛に丁寧なお礼を述べ、帰宅の途につきました。
残された座敷には――
何本もの空になった徳利と一緒に、仲良く床で寝ている太助と加奈。
太助から離れてしまい、ただの古刀として床に転がっているかに吉。
枕と布団を用意され、丁寧に介抱されて幸せそうに寝ているおみつ。
それをやれやれといった顔で眺めながら窓際で空を見上げ、ゆっくりと
ブランデーで一杯飲っている耕牛の姿がありました。
「やっぱりこうなったか……
まあ、なんだかんだで今年も賑やかになりそうだ。
みんな、これからもよろしくな」
――今回のお話はここまで。
これにて
【長崎異能浪漫譚】刀がしゃべるので――オランダ正月編
幕引きとさせていただきます。
今回もご覧いただきました読者の皆様。
本年も、この賑やかでうるさい面々を何卒よろしくお願い申し上げます。
おあとがよろしいかどうかは、あなた様次第でござ候。
―完―




