表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

第三話 刀もたじたじなので


『それならば我に命名させんか!』


「自分で自分の名前つける刀がどこの世界にあるんだよ……

バクバクバク」



まだ名前で揉めてる太助とかに吉ですが……

太助は食べる事に夢中で、全く聞いておりません。



『どこの世界にかに吉とか刀名付けるうつけがいるんじゃ!』


「ここにいる……ガツガツガツ」


『少しは話を聞くんじゃ!』


「聞いてるじゃねーか……ゴクゴクゴク……ぷはぁ!」



この様子を、耕牛は苦笑い、加奈は完全無視、おみつはこめかみに

青筋を立てながら見ておりました。


と、そこへ



「Gelukkig nieuwjaar!耕牛さん」



オランダ語の正月の挨拶が座敷の後ろから聞こえ、

一際大きい身体の異人さんが入ってきました。



「あけましておめでとうございます、先生!」



すかさず耕牛は、その男に駆け寄り、挨拶と握手を交わします。



「Oh!太助さん、やはりあなたも来ていたのですね」


「ん?ああ、シーボルトの旦那か、相変わらずでけぇな」



耕牛と親交の深いシーボルトも今日、オランダ正月へ招かれておりました。



「去年までは二日に来ていたのですが、今年は元旦にとお誘いいただきまして。

私の家族も連れて来たんですよ」


「へー、あんた家族持ちだったのか。それなのに花月楼なんかに――」


「HAHAHA、太助さん飲みすぎなようですね、HAHAHAHAHA」


「あ、ちょっと待て……そんなぶっとい腕で首キメられたら……」



太助が泡を吹きながら、しばしの眠りについている間に加奈とおみつ、そして

かに吉に挨拶を済ませ、シーボルトも席に着きました。

一緒に来ていた奥方の滝と娘さんのいねも席に着きます。



「いねちゃん、怖がらないでね」



おみつが、いねに優しく語りかけます。



「はい!大丈夫です。お父様にこういう方もいるってお聞きしていたので」



はきはきと答えるいねです。この子は将来、父と同じ道を歩みます。


シーボルトは加奈と反対の耕牛の隣へと座りました。

滝といねは、おみつの両脇へと座っております。


そして――泡を吹いて白昼夢を見ている太助は耕牛の正面に座っておりました。



「皆さん、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

それでは……

乾杯―!」



「かんぱーい!」



6人は耕牛の音頭で乾杯をしました。

太助はまだ起きません、よっぽど疲れていたのでしょう。



――



滝とおみつは”ガールズトーク”に花が咲いているようです。



「私、将来が心配で……どこに行ってもこんな感じで……」


「そうね……もう、おみっちゃんがしっかりするしかないわね……」



シーボルトは耕牛と仕事の話になっております。



「で、あの配合表なんですが……」


「耕牛さん、さすがですね。私もあの配合率には疑問が残ります」



いねはそんな大人たちをきょろきょろと、珍しそうに観察しておりました。



「じ~……何のお話してるんだろう……」



そのような感じで初春に相応しい、ゆったりとした時間が流れていく――


わけがございません。


そうです、ついに”あれ”が目覚めてしまいました……


太助は突然、スイッチが入ったかのごとくガバっと跳ね起きました。



「はっ!……何が起こった……」


「太助さん、よく寝てましたね」



シーボルトがにこやかに話しかけます。



「ああ、シーボルトの旦那……さっき会った気もするが……」


「まあまあ、今日は飲みましょう!」


「お、おぅ……」



何か腑に落ちない気もしますが、太助は重要なことを思い出します。



「あ!俺、飯食いに来てたんだ!何寝てんだ俺!」



太助の横で、かに吉が深くため息をつくのでした。



『これは今年も思いやられるわぃ……』



そして太助は改めて自分の皿に、飢饉に備えて家族の分まで食料を確保しに来た

父親のように料理を乗せ、ただひたすら食べております。



「ちょっと太助さん!みんなの分も残しておいて!」



おみつが箸を休め、太助を制しようとします。



「なに生ぬるい事言ってんだ!こういうのはな、焼肉定食なんだよ!」


「???」


『弱肉強食じゃろ、それは……』



もう、何と申してよいやら……


そんな太助を、先程からじ~っと見つめるいねですが、まるで新種の生物でも

見つけたかのように、ひたすら観察しております。


「この人……おもしろいです……」



笑える面白さではないところが、いねらしいと申せましょう……



さて。


先程、最初の方で出て来たきり、全く登場しない人がおりますが……

皆様お気付きでございましょうか。


そう、加奈です。

森杉加奈。


加奈は耕牛の隣というベストポジションを確保して、安心したのでしょうか

かなりいい調子で、酒を呑んでおりました。


元々が酒好きな方でございますが、シーボルト一家が来てからというもの、

耕牛は加奈そっちのけでシーボルトと熱い談義を交わしており、どこにも

加奈がつけいる隙がございません。


その事が加奈の飲酒に拍車をかけてしまった様子……


最初こそちびちびブランデーを一滴二滴垂らしたコーヒーを飲んでいたのですが、

今は徳利ごと長崎産日本酒の一気飲みを豪快に始めてしまい、すでに目の焦点も

あやしくなってきております……


そんな加奈は徳利を両手にセットし、未だに明日でこの世の終わりになるのかと

思うほどの勢いで食べている太助の元へ、ふらふらと近寄って行くのでした……



「ちょっと!そこの浪人!全然飲んでないじゃない!」



加奈がとうとう、奥義”絡み酒”を発動してしまいました。



「ガツガツ……え?何だお前」



相変わらず食事の手を止めない太助ですが、加奈は気にせず話を続けます。



「私ぃ?ふふん、聞いて驚かないでよ……

私は……なんと……


耕牛様の許嫁でっす!!


きゃああああ!!言っちゃった言っちゃったあああああ!!」



これに少し驚いたのはシーボルトと談義中の耕牛です。

耕牛は加奈の方へ向き直りました。



「……え?いつそうなった?」



驚いたと申しましても、ちょっとびっくりといった感じでございましょうか。

そんな耕牛の事も、すでに加奈の視界には入っておりません。



「ほら、もっと飲みなさいよ浪人!

せっかく耕牛様がご用意してくださった宴なのに!」


「ま、待てこら!俺は今日はだな――


ゲホゲホッ!

徳利を口に突っ込むな馬鹿娘!」


「いいから飲みなさいよ~

こんないい女がお酌してあげてんのよ!」


「酌じゃなくて徳利突っ込んできただけだろ!」



思わぬ方向から宴の崩壊序曲が聞こえてきたため、おみつが止めに入ります。



「ちょ、ちょっと加奈ちゃん、落ち着いて――」



「おみつさんも飲んでな~い……えいっ」



「か、加奈ちゃ――ゴホゴホッ!」



加奈は、おみつの口にも徳利を突っ込んでしまいました。



「私……お酒は……きゅ~……」



元来、酒が弱いおみつはその場でへたり込んでしまいました。

酒の弱い九州人もいるのです。


そして――

今日はあまり目立っていないかに吉が、ぼそっと太助に言います。



『主よ……

我らもそろそろ……飲んでもよいのではないか?』



「あ?そうだな……そろそろ腹もいい感じに膨れたし……

俺たちも飲むか!」



言うが早いか、太助は徳利を手に取り、一気に飲み干してしまいます。



「かあぁ~美味っ!

こんないい清酒はここじゃないと飲めねーからな!」


『ぬ、主よ……我にも……』


「ああ、はいはい。ちょっと待ってろ」



太助はかに吉を鞘から抜き放ちますと、鞘に清酒をドボドボと流し込みます。

そして、溢れてきたところでかに吉を鞘へ戻しました。



『……おお!なんという美味さ!こんな酒があったのか!

いつもは……濁った酒ばかりだからのぅ』


「うるせーな!飲ませてやってるだけありがたいと思え!

お前の後始末、大変なんだぞ!錆付きてーのか!」


『ああ、はいはい。いつも済まぬのぅ』


「もうお前には飲ませねー!」



こうなって来ますと、お約束のようなものでございます。

次回、いつもの如く荒れる酒宴に絡んでくる加奈。

一体どうなってしまうのでしょうか。

もう大体お分かりいただけるとは思いますが……





――今回のお話はここまで。

おあとがよろしいかどうかは、あなた様次第でござ候。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ