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第二話 刀も名を変えたいので


「あ、耕牛様、準備出来ております」


「ああ、加奈さん悪いね、準備手伝ってもらっちゃって」


「いえいえ!私ごときでよろしければいつでも!」



耕牛邸二階座敷で毎年、オランダ正月は催されておりました。

毎年の事ではございますが日本の正月のような、おごそかな

雰囲気とは少しばかり違う、上品な雰囲気を醸し出しております。



「おお!今年も豪華じゃねーか!」


『おぉ、これはまた凄いのぅ』



座敷を覗き込んだ太助と、かに吉もぱあっと表情が明るくなっております。



「さて!今年も食うぜ食うぜ食うぜ!」


『主よ、もう少し場を弁えてだな――』


「いいんだよ、毎年来てるんだからよ!」



いつでもどこでも誰とでも態度が変わらぬ事は良い事なのか……

太助を見ておりますと、悩ましく考えさせられるところではあります。



「ちょっと太助さん!お行儀悪い!」


「なんだよ、もう来てたのかよ。せっかく走って来たのに……」



おみつは太助より先に来て、紅茶をいただいておりました。

さすがおみつでございます。早めに来て甲斐甲斐しく準備を手伝おうと

しておりましたが、カステラと紅茶を用意され、すでにもてなしを受けていた

ようで、使われてるティーカップも、とても高級そうな綺麗なカップです。



「俺より先に食ってねーだろーな!?

あ!もうカステラ食ってやがる!」


「もう……太助さんと一緒にしないで!

これは太助さん待ってる間にってさっきいただいたの!

大体、太助さん甘いの嫌いでしょ!?」



そんなおみつの言葉を全く聞いていない太助は、おみつの隣にドカッと

腰を下ろしました。



「俺が嫌いなのはボーロだ!」



さて、ここで座敷を見回してみますと……


この座敷にはオランダ製の家具が丁寧に配置されており、まるで異国そのもの

といった風情です。中央には丸いテーブルと椅子が置かれ、テーブルの上には

多彩な色のランプが煌々とテーブルを照らし、牛肉や豚肉を使った、この当時の

日本ではまずお目にかかれない料理や、綺麗なボトルに入ったブランデー、

繊細な作りのポットに入ったコーヒー、ティーカップ同様薄くて美しい皿に

置かれたホールケーキといった、貴重な食べ物や飲み物も置かれております。



「もう、毎年毎年恥ずかしいんだから、お行儀よくしてっ!」


「そんな事抜かしてると、おめーの分まで食っちまうぞ!」



本当に人としてどうなのでしょうか……



「さて、俺もご相伴に――」



太助がテーブルのご馳走に手を伸ばしかけた、その時



「ちょっとあなた!いい加減にして!」



太助の後ろから怒声が飛んできました。



「まだ耕牛様も席についてないうちに……一体何なんですかっ!」



さすがの太助も、突然の声に手が止まりました。



「え?……お前、誰?」


「ああ、そういや太助は会うのは初めてだったな」



耕牛がスッと加奈の横に立ちます。



「うちの門下生の加奈くんだ」


「……耕牛様のお知り合いにしては、随分と無礼な御仁ですね……」


「大きなお世話だよ!」


「まあまあ、ほら加奈くん、まずはご挨拶を」



加奈は滅茶苦茶納得のいかない、ぶすっとした顔のまま自己紹介をします。



「……森杉加奈です。よろしく……」



太助は、立ち上がりながら勝手に注いだ、ワインで満たされている高級そうな

ワイングラスからぐびぐびとワインを飲みつつ、これまたつまらなそうな顔で

加奈に挨拶を返します。


「おぅ、太助だ。よろしくな嬢ちゃん」


『我は――しゃべる刀だ。よろしくお願いする』



かに吉も挨拶をしますが奥歯にものが挟まったような話し方で、どことなく

ぎこちない感じです。まあ、名前が名前なので無理もございません。


しゃべるかに吉を見て加奈は、はっとした顔になりました。



「あなた……異能持ちなの?」


「おうよ!刃物は友だち!」


「……耕牛様と同じなんて、なんて無礼な」


「耕牛は関係ねーだろ!」


「それに、刀に刀名もつけないで……」


『いや、その……名前はもうあるにはあるんじゃが……』


「そうだぞ、ちゃんと名乗れよな」


『ならばちゃんと名乗れるような名前にせんか!』



元旦早々本当に賑やかですが、そろそろ耕牛も席に着いたようです。



「ほら、いつまで挨拶してるんだ。早くいただこう」


「あ!そうだ!俺ぁ飯食いに来たんだ!」


「……ほんと意地汚い……

なんでこんなのが耕牛様のお知り合いなのかしら……」


「ほっとけよ!」


「ほんとこの人は食い意地が張ってて……

毎年ご迷惑をおかけしてすみません」



おみつが立ち上がって耕牛と加奈に頭を下げます。



「待てこら!何謝ってんだよ!」


「いいから大人しくして」



おみつは太助の耳たぶを引っ張って着席させます。



「あたたた!わかったから!座るから離せ!」



その様子を見て耕牛がほくそ笑みます。



「やっぱりおみつさんも毎年呼んでおいて正解だな」


『ほんにおみつはよく出来た子じゃのぅ。

それにしても、なんでこんな冴えぬ素浪人風情を――』


「ちょっとかに吉さん!余計な事言わないの!」



ここでまた加奈が反応します。



「……かに吉?」


『!?うおっほんっ!

ささ、耕牛よ、早くいただこうではないか』


「え、かに吉よ、お前さん飯なんて――」


『いいから食うんじゃ!』



ここで太助が反応します。



「あとで酒飲ませてやるからな、待ってろかに吉」


『あーあーあーきこえないーきーこーえーなーいー』


「うるせーな!大人しくしてろってんだよ!」



耕牛の横に座る加奈が笑い出しました。



「か、か、――かに吉!?

あーっはっはっはっ!」


『……だから嫌じゃったんだ……

主よ!もっとまともな名前に改名せんか!』


「え、もうめんどくせーんだけど」



すでに太助は自分の皿に親の仇のように食べ物を取り、誰よりも先に

食べ始めておりました。抜け目ないというか、何と言うか……


こうして例年に輪をかけて賑やかに始まりました、オランダ正月ですが

元旦は仲の良い知り合いだけを招き、二日から他のお客様を招くなんて

なかなかに憎らしい演出をさりげなくしてしまう耕牛はさすがですね。




――今回のお話はここまで。

おあとがよろしいかどうかは、あなた様次第でござ候。


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