温かな部屋に捕らえられて
全身が痛い。
起き上がろうと腹に力を入れてみる。
「いてて…」
腹筋が痛い。
右手をついて、腕の力で試みるが、こちらも痛くて断念してしまう。
そこで初めて目を開く。
天井は、木と、白いのは漆喰だろうか?
とても高く、光の反射で梁には彫刻が施されているのがわかる。
光の射す方に首を傾ける。
痛い。が、我慢して光を求める。
光の方から女の人がこちらへ歩いてくる。
逆光でよくわからないが、気高さを感じとれた。
「ここは…」
「私の屋敷よ」
うん?どういうことだ。
俺は…
徐々に不時着を試みたことを思い出す。
横たわる自分身体をみる。
白い服を着せられているが、服から出ている手足は、包帯が巻かれている。
「船は、あれから…」
思い出せない。
最悪の事態が頭をよぎる。
「全員、丁寧に返したわ」
返した?
意味がわからず、ちらりと女の人を見る。
いつの間にか俺の脇に立って、見下ろしている。
その人が彼女だということに、ようやく気がつく。
急に頭が冴え、全身が強張る。
声が出ない。
「思い出したかしら?」
真っ直ぐこちらをみている。
透き通った深紅の瞳は、相変わらず底が知れない。
整った顔立ちは、まるで彫刻のようだが、透き通るような肌の下から、仄かな暖かさが感じられる。
「あの時の」
それだけしか出てこなかった。
全身の緊張は、疲労困憊のためか長くは続かず、余計なことを考え始める。
紅さんや、ポーラーよりもあどけなさが残る。
思ったよりも若いのかもしれない。
「そう、あの時の、よ」
彼女はそう言いながら、ベッド脇の椅子に腰を掛けながら、小さなテーブルの上で何かに触れている。
所作一つ一つがいちいち気品に溢れる。
初恋のような感情が湧き上がり、思わず目で追ってしまう
「何があったか、知っていれば教えてほしい」
皆のことが気にかかる
「あの場に君は居たはずだ」
彼女を見つめる。
「どこまで覚えているのかしら?」
彼女は手を止めて、こちらを見る。
「不時着直前までだ。対地150ftを通過したあたり」
「そう。ではそこから話すわ」
彼女は淡々としている。
「あなたのお仲間さんは、全員無事だと言うことを先に伝えるわ」
「そうか。よかった」
胸をの辺りの変な突っかかりが消えた。
嫌な思念が消え去り、からっぽになる。そこへ爽やかなものが、そよ風のように入り込むのが分かった。
「船は壊れてしまったわ。残念ね」
正直どちらでもよかった。みんなが無事である事が一番だ。
「私たちの待ち伏せで、船は撃墜したわ。よく逃げ回ってくれたけど、所詮は工業ね。人の思い通りには動いてくれないわ」
自分たちの優位性を再認識したのか、得意になっている様子を微かだが感じ取る。
「そんなに虐めないでくれ。君たちと違って、あるものでやり繰りするしかないんだよ」
少し投げやりに答える。
「愚かね」
またしても意地悪く、微かに笑う。
だが、不思議と嫌悪感はない。
「それで、俺は不時着できたのかい?」
「地面に激闘するかと思ったけれど、直前でフワリとして、そのまま着陸したわ」
「俺がやったのか?」
「お仲間さんはそう言っていたわ」
そうか。無意識に体が動いたんだな。
自分の操縦センスに少しだけ酔いしれるが、すぐに虚しくなる。
「みんなはどうしてる?無事か?」
「さっき言ったでしょう。返したわ。こちらに居ても困るもの。」
彼女の柔らかな感情は、興味のないことには向けられないようだ。微笑みが消える。
「手当てして、武器を渡してもらった後、連絡将校を通じて戻っていったわ」
続けて淡々と話す。
この子、考えていることが顔に出るタイプだな。
「そうか。ありがとう」
心からそう思った。
そして今更ながら聞いてみる。
「一ついいかな。なぜ俺だけ相手の陣地に残されのか」
瞳を見て問いかける。
彼女の目を見て話せるほど、美しさに慣れてきた。
金色のまつ毛がピクリと動き、口元が少しだけ空いた。
何かあるな。
「…借りを返すためよ。それも含めて改めてお話しましょう」
それだけいうと彼女は立ち上がり、ドアの方へ歩いていった。




