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エトワール・エスポワール  作者: TAKEさん
第五話『きらめきのあと』

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『きらめきのあと』②

 臣吾は、胡乱げな表情で悠霞を見た。

「あんな犬くらい、お前なら別に──はぁ?!」

 ようやく状況を掴めたらしい臣吾は、『一つ目犬』に目を剥いた。

「なんだよこれ……。一つ目? お前何と戦ってるんだ」

 悠霞は小さく息を吐くと軽く肩をすくめた。

「私に聞かないで。でも、これは多分……堀内さんが産み出したもの」

 悠霞の言葉に臣吾は目を細めた。

「堀内が? どういう事だよ」

 悠霞はそれには答えなかった。

「悪いけど、今、火田くんにそれを説明してる暇はない。あれは」

 悠霞の脳裏に、転校した次の日の記憶が蘇る。

「──旧体育館に居た、ネズミの怪物と──多分同じ」

 『一つ目犬』から視線を外さぬまま、悠霞はそう囁いた。

「ネズミ──? あの?」

「そう。私の攻撃が、効かない。だから──」

 悠霞はちらりと臣吾を見た。

「火田くんの力がいる。あの技──」

 悠霞が言い切る前に、臣吾は地面にリュックをどん、と降ろしていた。

「急ぐんだな? 分かった」

 臣吾の呼吸が変わった──。

「ええ。田中さんと、美咲が危ない」

 すっと悠霞が表情を改めた。


 そして。

 

 前触れなく、悠霞は動いた。

 ブレザーを巻いた左腕で『一つ目犬』を惹きつけるように、フェイントを入れて回り込んだ。

(ちょ、速っ、合図くらい……!)

 心中でボヤきつつ、臣吾は真っ直ぐ突っ込んだ。悠霞に気を取られていた『一つ目犬』は狼狽えたように固まった。

 臣吾の拳に氣の輝きが走り、きらめきの尾が流れた。

 『一つ目犬』の頭部に氣が叩き込まれた瞬間、電撃を受けたように苦悶の悲鳴があがった。跳ねた身体がもんどりうって転がり、痙攣した。

(うまい……!)

 『一つ目犬』の目の光が消え、動きが止まる。そして。


「やったか──!」


 息を呑んだ臣吾の声に合わせるように、『一つ目犬』の身体から、白く光る粒子が、最初ぽつぽつと現れ、宙に浮いていく。それは徐々に数を増やし、それに合わせて『一つ目犬』の身体が崩壊していった。

 悠霞は、そっとため息をついた。


(あのネズミと──同じだった)


 左腕に巻いていたブレザーを、元通り羽織ると、悠霞は空を見上げた。

「思ったとおり。火田くんの技が効いた。これで──」

 囁くと、悠霞はふわりと宙に舞って消えていく白い粒子を見送った。

 やがて、『一つ目犬』は完全に消失した。ネズミの時と違って、何かが出てくるわけではない。

「……消えたな」

「ええ」

 リュックを元通り担いだ臣吾は、悠霞の言葉に顎を掻いた。

「紀澄の言うように、あの旧体育館の化け物と同じ消え方だな。一体何が起きてるんだ?」

 臣吾の視線を受けて、悠霞はかすかに首を傾げた。

「分からない。でも、何かが起きているのは間違いない」

 この学校で何が起きようとしているのだろうか。あまりにも現実離れしていて、理解できない話だった。

(おじいさまは──やはり何か知っていたのだろうか。でも、何かおかしい)

 一弥か高坂に一度聞くべきなのかも知れない。

 ふと悠霞は表情を和らげた。

「──私にも、その技が使えれば良いんだけど」

 なぜか眩しそうな表情でそう言う悠霞に、呆れた口調で臣吾はぼやいた。

「あのな、そんな簡単に使われてたまるか。一子相伝だぞ」

「なるほどね。──とにかく、行きましょう」

 一瞬口をへの字にして、小走りで駆け出した悠霞に、臣吾も後を追う。

 

「こっちで合ってんのか? 校舎は探したのか」

「校舎の中は昨日ほど騒然としてなかった。──空気も違う」

 悠霞はちらりと臣吾を見た。

「それにさっきみたいな怪物がいれば、もっと大騒ぎになって、待機じゃなく、みんな外に避難してる。だから、外だよ。堀内さんたちは昨日購買の前の石段にいたし」

 臣吾は納得したように頷いた。

「ところで、さっき言ってた堀内が……って何の話だ」

 臣吾は先を行く悠霞の背中に語りかけた。

「彼女がそう言ったの。『願った』って。──さっきの犬も、スケッチブックに描かれてた」

 臣吾は酢を呑んだような表情になった。一瞬無言になる。

「意味わからんな──。漫画かよ」

 悠霞は、臣吾の言葉にため息をついた。

「言ったでしょ、世の中は不思議なことで一杯だって」

「あのな……」

 閉口した臣吾だったが、それ以上何も言わなかった。

 

 屋上──。

 

 ひと気のなくなったグラウンドをフェンス越しに見下ろしながら、雄宇は息をついた。

「始まった──?」

 雄宇のささやきに、カールセンは目を凝らした。

「何かいる──」

 複数の『影』がグラウンドの木陰から木陰へ。まるで人形アニメのような、ぎこちないうごめき。

「へぇ。あんなことになるのか……」

 その光景を見下ろして、感心とも嘲笑とも取れる笑みを口元に浮かべると、雄宇はカールセンを見た。


 その頃二年C組は、騒然としていた。


「転校生と委員長たち、どこいったわけ?」

「いや、あの僕もサボるとしか」

 ネクタイを掴んで引っ張る雪姫に、陽貴はタジタジになっていた。

「じゃああたしもサボる、いや帰る」

 陽貴はしょっぱい表情になった。

「ダメですって──ぼぼ僕は紀澄さんからクラス委員代行を任されたので! とにかく座りましょうよ」

 陽貴の言葉に雪姫は眉を吊り上げた。

「あー? なんであたしらはここで座らされてて、転校生たちがフラフラしてんのよ? おかしくね? 大体なんであいつがクラス委員代行とか仕切ってんの?」

 言いながら雪姫は陽貴のネクタイを掴んだまま前後に揺する。

「いやそれは……ちょ、やめてぇ」

 頭をガクガクさせながら、

(誰でもいいから、早く帰ってきてぇ)

 と内心で悲鳴を上げていた。


 悠霞たちは、購買部そばの石段のあたりにたどり着いていた。

「誰もいないな」

 臣吾のささやきにうなずくと、悠霞は周囲を見回した。

 望美たちは真っ先にここに来ると思っていたが、考え違いだったのだろうか。

「……」

 かすかな風が周囲をざわめかせる。

「違う──」

「え?」

 臣吾が分からないと言う顔になった。

(これは……)

「どうした? 紀澄」

 言いかけた臣吾を悠霞は手で制した。

「静かに。──囲まれてる」

 悠霞の言葉に、臣吾の目付きが、変わった。


その③へつづく

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