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エトワール・エスポワール  作者: TAKEさん
第三話『悪意と愉快』

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『悪意と愉快』①

第三話 『悪意と愉快』


 完全に日が暮れて、帰宅した臣吾は、丁度玄関に入ったところで父、信雄のぶおと鉢合わせした。

「——おかえり。遅かったな。部活、長引いたのか」

 信雄のバリトンは特に咎めだてする口調ではない。ジャージ姿で、束ねた犬用のリードを手に持っていた。

「いや……。クラスの友だちと喋ってたら遅くなった。——散歩?」

 臣吾が聞いたのは飼い犬の『正太』の散歩のことだった。

「ああ、さっきから早く連れてけとうるさくてな」

 それに反応したわけではないだろうが、正太が表で二度吠えた。

「はいはい、分かったよ……ああ、ご飯もう出来てるぞ。あと食べてないのはお前だけだ」

 そう言ってサンダルを履くと信雄はカラカラ……と玄関の引き戸を開けた。

「——親父。オレ、氣道のこと、少しわかったかも知れない」

 玄関を出ようとしていた信雄は、唐突な臣吾の言葉に少し振り返った。

「そうか。良かったな」

 かすかな笑みとともにそれだけを言うと、引き戸を閉めた。


 ——そして、悠霞が転校してから一週間が過ぎようとしていた。


 ある日の英語の授業。

「——Excellent. Thank you, Ms. Kisumi」

 カールセンの言葉とともに、クラスメイトの一部から感嘆の吐息が漏れた。

 悠霞の、ことさらに大声ではないが、よく通る涼やかな声と流暢な発音はクラスメイトたちの驚嘆を呼ぶレベルだった。

「紀澄さんは発音がキレイですね。海外の経験が?」

 聞かれた悠霞は立ったまま、照れる様子もなく、淡々と答えた。

「父母の仕事の都合で、中学一年の時まで、香港にいました。英語も必要だったので」

 カールセンは柔らかく笑った。

「なるほど。旧英国統治下でしたからね。——返還されてからかなり経つけど、そう簡単にはいかないか」

 誰に言うとでもないようなカールセンのささやきに悠霞は、

「——そうですね」

と返すと、すっと椅子に腰掛けた。

 すぐに隣席の美咲が笑顔を向けるのが見えた。


(また——あいつ)

 苛立ちが胸中に湧き起こる。

(Excellent、じゃねーっての)

 クラスのあちこちが小さくざわめいてる。

——じゃあ、帰国子女ってやつ? 言われたら雰囲気あるよね。

 誰かの小さなささやきが聞こえる。

——すげーな、英検1級?

——検定とかってレベルじゃねーだろ、TOEICガチ勢?

 近くの誰かが小声で呟いた。

(……うるさいよ。だからなに?)

 離れた席に陣取っている雪姫は苛立ちを隠そうともしなかった。

(ウザっ。なに、あいつ?)

 雪姫はため息混じりに髪をかき上げて、悠霞を一瞥する。

(調子乗ってんじゃないわよ……)


 別の日。

 その日は社会科公民の授業で、専門用語が多く、美咲はやや苦手意識があった。板書をノートに写したところで、隣の悠霞はどうなんだろう? とちらりと見る。教科書を眺めている悠霞の横顔はどこか退屈そうに見えた。

(悠霞ちゃんもあんまり興味なさそう)

 少しホッとして、再び教壇の方を見た。

 社会科の教師、友永は長年この高校に勤めるベテランの男性教師で、結構脱線して教科書以外の話を始めたりすることもよくあった。

「今日やったことは重要なので、よく見返しておいて。テストに出るから。——少し時間余ったな。——じゃあ、最近のニュースで気になったことや……そうだな、みんな、海外の動きとか、興味を持ったこと、あるかな?」

 と軽く振る。

 美咲は友永の言葉に口をへの字にした。

(やば、最近ニュースあんまり見てない。てか友永先生そういうのほんと好きだな)

 教室内を見回して、誰も手を挙げないことに薄く笑った友永は、生徒たちに目を泳がせると、

「じゃあ、紀澄さん。どうかな」

 指名された悠霞は、小さく息を吸い込むと、一瞬考える表情になった。

「……そうですね。昨日見たニュースで、アメリカ政府が途上国の治安維持支援の名目で提供していた武器の一部が、アフリカの内戦地域に流れている可能性があるというニュースがありました。日本の報道では“支援は問題なく行われている”という報道官のコメントしか出ていませんでしたが、海外のメディアではそういった問題点を現地取材も入れて取り上げていました。先生はどう思われますか」

 立て板に水を流すような悠霞の言葉に、教室内が一瞬でしん、となり、友永はポカンとした表情になった。が、すぐに苦笑いする。

「変化球投げてきたなぁー。でも視点は面白い。なかなか鋭いところ見てるね、紀澄さん。——先生も勉強せんといかんな、こりゃ」

 友永は苦笑しながら頭を掻いた。

「でもまあ、ニュースってのは、出し方ひとつで全然印象変わるからな。“何が報じられてるか”だけじゃなくて、“何が報じられてないか”っていうのも大事なんだよ、と先生は思います——。……はい、では今日はここまで!」


 終業のチャイムが鳴ると、教室はすぐにいつものざわつきを取り戻した。

 けれど、美咲はふと、隣の悠霞を見た。

何気なく筆箱をしまっているその横顔に、

(……やっぱり、この子ちょっとすごい)

と思わずにはいられなかった。


(ウザっ——。意味わかんないし)

 雪姫は険しい表情で一瞬悠霞の方を睨みつけた。


 そして——今日の午後は体育の授業だった。バスケのミニゲーム形式の模擬戦。ハーフコートひとゲーム五分。3ON3の変形とも言える。

「勝ち負けじゃないからなー。怪我しないように」

 柔軟体操のあと、体育教師の大川の号令で、ゲームが始まった。

 女子は四人ひとチームで、順番に試合をしていた。

 男子はすでに試合を終えて、体育館の壁際に腰を下ろしている。


 次の組のコートに立った悠霞は、美咲と佐倉、戸田と同じチーム。

 相手には、女子バスケ部所属の鷹野葵たかの あおいがいた。

 美咲よりもさらに背が高く、ベリーショートの髪が、ランニングで軽く日焼けした肌によく似合っている。

 小学校からずっとバスケをやっており、当然レギュラー。次の主将は間違いないとさえ言われている。

 小声で美咲がささやく。

「田中さんたちはともかく……鷹野さん、バスケ部なんだよね……。厳しー! 悠霞ちゃん、バスケやったことある?」

 相手チームの田中に堀内、宮前をちらりと見ながら、不安げな美咲をさらに不安に陥れるようなことを、悠霞は口にした。

「……初めてだよ。なんとなくルールは分かるけど……」

「ええーっ!」

「わたしらもそうだよ、委員長。右手は添えるだけ? だっけ? それしか知らない」

「左手じゃなかったっけ?」

 能天気な戸田と佐倉に美咲はうっとなった。

「委員長は?」

「実はわたしも……。でも田中さんたちもわたしたちとそんなに変わらないはずだよ」

 美咲が顔を曇らせるのを横に、悠霞はわずかに目を細めた。

(ルールは、一般的なことなら知ってる。ドリブル、パス、接触禁止。ニュースとかで試合の様子を見たこともあるし。

でも学校の試合は、少し勝手が違う……。

まぁ、なんとかなる。さっきの男子の試合で、だいたい掴めた)

 悠霞は小さく息を吐いた。

(それに、ゴール付近のシュートはアレをやらないといけない。ジャンプ力か……)


「紀澄って、あんなかで一番小さくね?」

「鷹野と委員長、結構デカいもんな」

「バスケとかできんのかね。あんま運動得意そうじゃないし」

 男子見学組のひとりがこそこそ言う。

 隣に座っていた火田臣吾は、かすかに笑みを浮かべて内心呟いた。

(……心配しなくても、動けるよ。お前たちより)


 大川のホイッスルとともに試合が始まった。

 ボールを受け取った葵は、ドリブルを刻みながら悠霞と対峙する。


(さて——。バカにするつもりはないけど、みんな未経験、て感じか、と言ってもウチも大して変わらない。転校生は?)


 目の前の悠霞は、一応ディフェンスの構えをしていた。

 けれど、それは「構えているように見える」だけで、どこにも“重さ”がなかった。


(……? ポジションの取り方軽いな? いや、でも……)


 視線のフェイントを入れて、ドリブルしながら悠霞の隣にいた戸田の方へ身体を滑らせ、彼女を抜こうとした瞬間、葵の足がピタリと止まる。


 悠霞が、まるで“そこに最初からいたかのように”戸田の向こう側、クリアだったスペースに一瞬で移動していた。

 腕も出していない。腰も落としていない。

ただ、“正しい場所”に立っている。


(うそ……! いつの間に)


 視線と判断が迷った一瞬。パスを回すのもリスクは同じと、ハーフコートを生かして葵は咄嗟にスリーポイントシュート。

 だが、入らなかった。こぼれ球を受けたのは、美咲。

「——美咲!」

 声を掛けたのは、悠霞。パスを回した美咲には目もくれず、葵が悠霞のボールをカットしようと駆け寄った。同じチームの田中たちにも、ゴール側に近づくよう、指示を飛ばす。

(! この距離なら)

 受けたボールをそのまま、悠霞もスリーポイントでシュートする。しかし、リングで跳ねて、こちらも入らなかった。跳ねたボールがラインを割る。

「ドンマイ、悠霞ちゃん!」

 美咲が声をかける。悠霞は表情はそのままに、こくんとうなづいた。

(——これでいいみたい。少し、似てるな——昔と)

 悠霞はそっと息を吐いた。

(“行ける場所”をなくせば、相手は動けなくなる)

 男子のゲームで何度か見た動き。

 ボールを持った相手が抜こうとする時、目線とは違う方向に動く男子が何人かいた。

 ——だから、葵の視線とは逆方向に移った。それだけ。

(相手が通れる場所を消せば、自然と選択肢はなくなる)

 腰を落とすでもなく、肩を張るでもない。“通れない”位置に立つ。それが——いま取るべき最短距離。

(無駄な動きは必要ない。バスケもそういうものらしい。だから、シュートもできるときにはやる。あの子もそうしていた)

 悠霞は一瞬葵をちらりと見た。相手チームのメンバーに何か指示を飛ばしていた。


 ——そして、相手方、堀内のスローイン。

 すっと割り込んでボールを受けた悠霞は、何のてらいもなくドリブルを始める。

 その動きには、一切の癖がなく、なめらかかつ、ドリブルが速い。

(……経験者って感じじゃないけど、動きがなめらかで速い。何この子。宮前ちゃんたちじゃキツい!)

 葵が再び構える。とにかく、できる自分がなんとかするしかない。そう思った。

 だが悠霞は、視線を一度だけ右にそらし、一歩、左へ“滑るように”抜けていった。

 葵は反応しようとしたが、すでに悠霞は——いなかった。戸田にパスを回してまた位置を変えている。

(フェイントはや……っ、ていうか、今の……動き読まれてるみたい)

 パス回しが速い。美咲から悠霞、悠霞から戸田、戸田から佐倉、そして悠霞。パスを回しながら、すかさず『次へ』移動して、気づいた時には必ず絶妙な位置に悠霞がいる。

(何あの子、人の動き読むのが速い! これじゃカットできない……!)

 葵は舌を巻いた。

「葵ちゃん! どうしたらいい?」

 田中の困惑が伝わって、葵は唇を軽く噛んだ。

 こちらも指示を飛ばすものの、経験のない田中たちには対応しきれずにいた。

(自分の移動で、場をコントロールしてる。すごいな、転校生!)

 葵は自然と感嘆の笑みがこぼれるのに気づいていた。


——そして、次のプレイ。


 いくつかのパスを経て、美咲が悠霞にパスを放つ。ゴール下は空いていた。

 悠霞は、ひと呼吸おいてからドリブルとともに走り出す。リズミカルなボールの跳ねる音が、加速する——。

 葵はさすがに悠霞の意図に気づいて追いかけた。悠霞に近い位置にいた宮前も駆け出した。

(シュート? ——やらせない!)

 葵は宮前を追い越し、悠霞に追い縋る。

 だが、悠霞はそのままゴール下に近づくと、ボールを両手で持ち、膝を曲げた瞬間。

(レイアップ? いや違う、どうすんの? でもそれじゃ助走が足りない……!)

 思いの外悠霞のスピードが速く、葵は追いつかないことに歯噛みした。

 悠霞はぐっと踏み込んで、ふわりと跳んだ。

 一瞬、空気が止まった。伸びやかな脚のラインと共に、身体が宙に浮かぶ。


(え……)


——ジャンプというより、“舞った”ように見えた。


 いっぱいに伸ばした指先が、自然にリングに届く高さに達する。悠霞は身長から想像できないほどの高さを——跳んでいた。

 指先がボールを抱え、リングに叩き込んだ。

 リングの金属の響きが体育館の空気を震わせた。


——ダンクが、決まった。


 一瞬の沈黙。コートにいた悠霞以外の全員が唖然となり、言葉もない。


「……え」

「今の、……跳んだ?」

「……ていうか、ダンクじゃね?」

「なにあれ……あの助走距離で?」

 ゴールの音が静まったあと、周囲のざわめきが溢れる。

 そして、終了のホイッスルが体育館に鳴り響いた。


 臣吾は足を伸ばしたまま、軽く首を傾けて、小さく苦笑しながら呟いた。

「あれを跳ぶのか……すげぇな」

 それだけ言って、呆れた表情になった。

 

 雪姫は遠くからその光景を見て、乾いた音を立てて舌打ちする。

(はぁ? ダンク? 意味わかんないんだけど?)

 雪姫も小学校六年までは、地区の小学生バスケチームに所属しており、葵とプレイしたことだってある。雪姫は興味が他へ移ったこともあってそこで終わったが、それなりにバスケには自信があった。

(なにそれ……。自慢? ムカつく)


 ホイッスルを咥えたままの大川が、悠霞に駆け寄ってきた。

「ナイスシュート、紀澄! ……なんだけど、うん、あー……次からは、あんまり……その、無理はしないようにな?」

 大川が言葉を濁すのを見て、悠霞はあっとなって、口をつぐんだ。

(もしかして……。今の、間違えた?)

「……すみません。こうするものだと思ってました。たぶんまぐれなので、次は無理です」

 それを聞いて大川の顔がポカンとなる。

「うん、あの、まぁ、怪我するといかんからな。うんうん、頑張った」

 その反応から、普通はやらないことらしい、と分かった。

(しまった。おじいさまにも前に言われてたのに)

 軽く口をへの字にしてから、悠霞は小さく息を吐いた。

 だが、跳べそうという確信はあったので、跳んだのだ。

 そうしていると美咲がそっとやってきて耳打ちする。

「……もしかして、ちょっと、やり過ぎたでしょ?」

 美咲が小さく、誰にも聞こえない声で言った。

 悠霞は一瞬、困った表情になって美咲を見る。

そして、ふっと眉をゆるめた。

「……そうかも」

 それは、どこか照れたような、けれど素直な、普段の悠霞とは少し違う“やわらかい声”だった。

「ふふっ。ところで今の“こうするものだと思ってました”って、なに?」

「今のシュート。……だって、男子の試合でやろうとしてたし。ニュースとか動画でもよく見るし」

「へ? それ、プロの技じゃん!?」

 さすがの美咲も目を剥く。


 そこへ、首にかけたタオルで汗を拭きながら葵が悠霞たちの元にやってきた。

「いやー、負けた負けた。すごいね、紀澄。香港とか中学でなんかチーム経験あるの?」

 笑顔と、きらりと光る汗が眩しい。流石は二年C組男前女子ベスト三(陽貴調べ)に入るだけのことはある。

「えっ、あの……」

 美咲が一瞬口ごもる間に、

「ルールは一応頭に入れてたし、動画やニュースで見たことはあったけど……。実際にやるのは——初めて」

 ポロリとこぼされた悠霞の言葉に美咲は酢を呑んだ表情になった。思わず悠霞を見る。

「えっ? ちょ……」

(うそ! 言っちゃうの?)

「えっ、嘘でしょ? それマジ?」

 悠霞の言葉に葵は目を丸くして、美咲を見た。

 少しバツの悪そうな顔をした美咲は、

「……そうみたい」

と呟いて苦笑する。

 その二人の反応に悠霞はちらりと美咲を見た。

(もしかして、言わない方が良かったの?)

 一瞬そう思ったが、しかしもう口に出したことは取り消せない。

「あの、ふざけてるわけじゃないんだけど……最後のシュートも、ああしなきゃいけないって思ってたみたい」

 犯行を自白する心境でそう呟く美咲に、葵は呆れたように笑った。

「へぇ? マジか……。あたしもまだまだ甘いな」

 可笑しそうに力無く笑って言うと、葵は真剣な表情で悠霞を見た。

「紀澄さん、よかったら、なんだけど。バスケ部入んない? あたし、あんたと組んでみたくなったわ。——ダンクのことじゃないよ、そこへいくまでの動き。ああいうのができるあんたは面白いって思う」

 葵のその言葉に、悠霞は小さく目を瞬いた。

(えっ)

 一瞬、何かを返そうとして、すぐに言葉が出てこなかった。

“——部活なんかもやったらいいんじゃない?”

“高校生活をどう楽しむかは、あんた次第だけどさ”

 転校する前、一弥に言われた言葉が頭をよぎる。けれど——。

 ごく短い沈黙のあと——。

「……ありがとう。そう言ってもらえるのは、すごく——光栄。でも、私には……ちょっとまだ、早いかも」

 悠霞はためらいがちに言葉を選んだ。だが、視線は葵の眼をまっすぐ見つめていた。葵の図るような眼差しがしばらく交差する。ふっと葵の表情が和らいだ。

「ははっ、あんたやっぱり面白い。今嘘つこうとしたけど、つかなかったね。——いいよ、いずれ、に期待する。今日は楽しかったよ」

 きっぱりとそう言うと、葵はニッと笑ってその場を後にした。

 そこへとぼとぼと戸田と佐倉がやってきた。

「なんかすごかったね、紀澄さん……。空飛んでた」

 戸田がぽおっとした口調でそういうと、佐倉はひどくがっかりした表情で、

「わたしよそ見してて見逃した」

「ええっ!? なんで!?」

と美咲が驚くと、

「わたし、ちょうど戸田のシャツのタグが出てるのが気になって……」

「え、わたしのせい!?」

 悠霞は、佐倉たちのやり取りに一瞬まばたきをしてから、ほんの少しだけ口元を緩めた。


 ——放課後。

「あいつ、マジウザいんだけど。何今日のバスケとか」

苛立たしげに吐き捨てると、香田雪姫は無造作にポテトをつまんで口に入れた。

「えっ……転校生?」

詩音が苦笑いしながらアイスティーのストローを口にする。

「——別に、ほっときゃ良いじゃん」

真歩はそう呟くとナゲットをソースに浸した。

明日香は何も言わず、チーズバーガーを齧った。

和邇台駅前の、マクダニエル。雪姫たち四人が放課後に寄るのはいつもの事だった。

「転校してきたばっかなのに、なんであんなデカい顔してるわけ? こないだの大沢の新聞のこともそうだけど、なんか勘違いしてね? あいつ」

詩音たちは思わず顔を見合わせた。

(うわ、めんどくさ)

(なんでこんなにムキになるんだろう)

(雪姫、こうなると聞かないもんなぁ……)

詩音は曖昧に笑い、真歩は次のナゲットをソースで塗して混ぜる。

明日香は無言のまま、ドリンクのストローをすすった。

「絶対あいつ周りのこと馬鹿にしてる。見下してんのよ!」

(そうかなぁ……)

(考え過ぎじゃん)

(ナゲットのソースはマスタードの方が美味しいかも知れん)

 詩音たちの反応に、雪姫はカップのストローを咥えると勢いよく吸い込んだ。

(ノリ悪っ。なんなの! あたしだけがムカついてるみたいじゃん)


その②へつづく



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