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高校生探偵ウラオモテ

作者: 大蛇真琴

何も言いません、前に進んでください!

高校生探偵 ウラオモテ

      〜形のないりんご〜

 少年は精一杯自転車をこぐ。荷物の牛乳瓶を割らないようにしつつ、スピードはゲンチャリ並。その丁寧でかつスピードを評価されるほどの腕前は仲間からも「走る乳牛」と呼ばれ、信頼も厚い?

 このバイト代は殆ど家族への書籍代として消える。

 そう、「家族」こと麻上 シズル。頭脳明晰でテストは百点だが、文章の裏を読むことは苦手だ。勿論、体育なんて得意も不得意もない、あえて言おう下手なのだ。

 俺の名前は、石橋 斉。俺は相手の裏を読むのが得意だ、逆にテストではそういう所がないから、国語・数学以外0点だ。

 そして、何故そんな名前の違う二人が「家族」なのか?

 それには、裏表の名前があるのだが…。

 …ドン!


「おはよう、いつも悪いわね」

 いきなり小突かれたので、驚いた。

 そう、シズルだ。

「別に、いいよ。ってか、何だその本の山…、ノルマ増えてるんじゃないか?」

 彼女は超が付くほどの速読者だ。しかも、完全暗記と来ている。そう、彼女が最も得意とするもの、「知識」。

「へへー、昨日だけで5000ページ分読んじゃったよー。昨日は、『多重人格』・『殺人方法』・『ヒ素の製造方法と原産地』・『りんごの育て方』かな!」

「おまえ、最後の最後でまともなやつを、ってか…怖っ、おまえ、超怖い。そんなのに、興味持つって事は、この仕事好きになりつつあるだろう?」

 シズルはびっくりした顔をする。しかし、嬉しそうに笑う。

 そう、俺の最も得意なこと。「分析」。相手の裏を読み、相手の裏をかく。俺は、勉強は苦手だが、文章の理解力、運動神経の切れのよさ。そして、将棋プロ3段の持ち主だ。

「しかし…、嫌なところで出くわしちまったなー…」

 今日は日曜日。そして、朝7時半を迎える。

「そうそう、今日8時から特売セールなの!そして、斉なら、25分で二人乗りでいけることもお見通し!」

 っと、横にパトカーが止まっていて、後ろめたい気もするが…。

「よぉ、坊主」

 中年のおっさんがパトカーから、声をかけてきた。

「梶原警部補!」

 二人揃えて言う。この人が来るとろくでもない仕事が…。

「残念ながら、今や警部だ」

「おめでとうございますー」

 いや、そこ!褒めるとこじゃないって…。仕事帰りに仕事がやってくるのはものすごく災難なんだから。

「ありがとう。でも、坊主は分かってるようだな?」

 梶原警部は、にやりと笑う。いやらしい目だ。厄介ごとなのだろう。

「何々ー?」

 能天気に、俺に詰め寄る。

「事件だよ」

 今度は、俺とおっさんが声を合わせて言う。

「買い物はー?」

 二人はため息を付くと、いつものように言う。

「無理!」


 昨夜、大ヒット作家の滋野 勝が、亡くなった事を朝一のニュースでチェックしていた俺は、こうなるだろうなと思っていた。

 状況は、窒息死。遺書はまだ発見できておらず、推定5億の保険金の行く末が勝負の鍵だと言うことが分かった。

 しかし、この類には二つある『自殺』と『やく殺だ』。

「ハッ、警部殿!状況を説明いたします。容疑者は4名、夫の妻由井と、長女の絵里。そして、外国人教師のアンジェリーナ、執事の近藤 大。以上4名。他、次女の益恵となっております」

 シズルが、高らかに問いかける。

「被害者の関係の内縁関係とかあります?」

 警察官が顔を少しゆがめる。

…こんな、ガキがと思ってるんだろう。

「ハッ、申し上げます。長女は、なくなった前妻との娘ですが、次女は、出来心で出来た今の妻の娘となっております」

「年齢は?」

「5歳です」

 シズルは、冷静に話を進める。

「その子の今の状況は?」

「精神不安定で、病院にいます」

「話せるかしら?」

「それは…」

 警察官の顔が曇る。

「しゃーない、俺が連れてくか」

「警部補!」

「上官命令だ。お前らは、写真取っとけ」

 警察同士の敬礼をした後、俺らは病院へと向かった。


 車中のことだ。

「お前ら、検討は付いたのか?」

「いえ、何も…。」

 俺は黙る。

「ですが、主犯の殺害方法が分からないんじゃ…、どうしようもありません」

「殺害方法は、ヒ素よ。」

 俺らはびっくりする。

「お前に、いつ言ったんだ?」

「さっき聞いただけよ。」

 俺は、感心する。シズルは絶対暗記能力者、そこまで言うなら間違いないだろう。

「それで、野衾の死体をさっき庭で掘り返したみたい。交尾栓があるから、メスに間違いないわ」

「へぇー、ってそれなんだ?」

 俺らは思わずはハモる。

「後のウラオモテよ?取っておいて」

「そぉ…」

 ウラオモテ…。切り札になりそうだ。

「で、何を娘さんに聞くんだい?」

「そぉねー、奥さんの主張する死因の癌を知っていたかどうかぐらいね?」

 不敵な笑みを浮かべ、シズルはクスクスと笑っていた。


 昔のトタンみたいな音がする、病院の病室のドアを開ける。

「誰?」

 俺は、どう答えていいか、分からなかった。

「探偵よ?高校生だけどね!」

 幼女はキョトンとした表情を見せる。だが、直に泣き顔になった。

「探偵さん?おねぇちゃんを、おねぇちゃんを助けて!」

 滋野 絵里の事だろう。年は俺たちと同じの18だ。

「まず、3つ聞きたい事があるんだけど、ガンって言うものって、形ある?ない?」

 幼女は泣きながら答える。

「ある」

「そう。んじゃ、お父さんの病気は?」

「肝臓の永遠に治らない病気だって」

 フッと、シズルは失笑したように思えた。

「最後に、お父さんのペットの名前は?」

「のふすまと、恵理子」

 俺にも段々わかってきた。けど、不明瞭な点がいくつかあった。

 何故、野衾は死んだのか?

 何故、おねぇちゃんを助けなきゃならないのか?

 そして、何故この少女は未だに泣いているのか?

「んじゃ、何でおねぇちゃんを助けなきゃいけない?」

「それは、おねぇちゃんがりんごに毒を塗ったから!」

「!」

 俺ら二人は愕然とした内容を聞かされた。しかし、シズルにはこういうことになる事を予測していたようだ。

「それじゃ、1回署に行きましょう」

 俺らは、署に向かう事にした。


 滋野 由井の聴取。

「はじめに質問する。現場にりんごはあったか?」

 妻は、いいえと答える。

「お前は、遺言書がある事を知ってるか?」

「あるんじゃないんですか?」

 初めてまともに応対する。

「んじゃ、胃の中にあったりんごは?」

「知らないですよ?」

「ふーん。んじゃ、保険金はいくらだ?」

「2000万程度じゃないですか?それぐらいしか掛けてないし」

…以上。

 近藤 大の聴取。

「現場にりんごはあったか?」

「いえ、現場にはありませんでしたが、絵里様がりんごを持っていかれたのを覚えています」

 一息入れ、関心をする警官。

「何時だ」

「7時だったと思います」

「遺言書はあったか?」

「はい、だんな様から、預かっており、奥様には秘密でっていうことで」

「いくらだ?」

「5億円」

 コーヒーをすする音がする。

「誰に渡る予定だった?」

「長女の絵里様です」

…以上。


 これは決定打だった。予想以上に長女への風当たりが激しすぎる。

「決まりね」

「だな。んじゃ、逮捕を…」

 俺も諦めかけたそんな時だった。

「待って!」

 シズルが声を荒げる。

「残りの二人から話を聞きましょう?」

「でも…」

「大丈夫、後の二人は私がやるから。補助お願い、斉」

「おうよ!」


 アンジェリーナの聴取。

「Hello!」

「Hey!Tolk a lettle to you.」

「Ok!」

「I want to teach a lot of Jappanese.So,I go to Jappan.But,I will be a prisoner tomrrow.」

「Hum….」

「Shall I question one?」

「You teach Mashue…,cancer of mean teatch her?」

「No.」

「She teach Cancer is can‘t get over of sick?」

「NO」

「OK,go home now.」

…以上。


「何だって?」

「これが、二つ目のウラオモテよ?」

 タバコを吸いながら、梶原警部は問いかける。

「内容は?」

「ひ・み・つ」


 滋野 絵里の聴取。

「話は聞いてるわ。りんごは何処に捨てたの?」

「分かりません」

「大丈夫、こっちは全部分かってるから、話すといいわ」

 神妙な面持ちで語り始めた。

「実は、父の葉巻のどれかにヒ素が塗ってある。塗ったのは、益恵だって、義母から言われて、それで、私、言われたとおりに自分でヒ素を塗って、お父さんに渡したんです。そしたら、置いとけって、言われて」

「そう、それで、現場に戻ったときに、りんごはあったの?」

「いいえ」

「そう」

 しばらく沈黙が続く。

「そういえば、お父さんの言葉は、優しかった?」

「え?」

 彼女はキョトンとしている、が…涙で頬を濡らした。

「はい、最後に…、最後にありがとうって…」

…以上。


「これで、4つよ。ウラオモテ」

「いきなり増えたな?」

 その言葉を聴くと、タバコを吸い始める梶原警部。

「3つ目が『ヒ素』。4つ目が、『言葉』」

 ギラリと目が光る。俺はいつもどおりに動けばいいのだ。

「最後は『野衾親子』。以上よ、斉。さぁ、梶原警部は現場に」


「蒼井警部補?」

 先ほどの警察官だ。私たちを少し歪んだ顔で見た。

「はい?」

「…出世したくないですか?」


「はい、皆さん、集まりましたね?」

 アンジェリーナさんには、英訳師を付いて貰った。

「これから、犯人探しをしたいと思いますが、当初の警察の考察から少し外れた観点で言いましょうか?」

「どういうこと?」

 油井が顔をしかめる。

「ええ、益恵ちゃんが犯人だと言う証拠が見つかりました!」

 一斉に驚く。

 次々と擁護の言葉が出てくるが、それを遮ったのは、他でもない益恵だった。

「実は、彼女には三つの質問をしていました。そして、5つの答え。私たち、高校生探偵の用語『ウラオモテ』が見つかりました」

「『ウラオモテ?』」

 益恵が訊ねる。

「『ウラオモテ』」とは、まさしく言葉通り、その真実のキーワード以外答えが見つからない…要するに『真実の鍵』なのです」

 蒼井警部補は、不可思議に思う。

「んじゃ、真犯人は見つかっているのですか?」

「ええ」

 どよめきが部屋に残る。

「まず、昨日。絵里さんが、お父さんにりんごを持ってきたのは、何時だったか覚えていますか?」

「7時です」

 私は、勢いよく2回手を叩く。

「ここが、注目点です。んじゃ、一昨日りんごは誰が持っていきましたか?」

「義母さん…、えっ!」

 そう、これが終着点。でも、彼がいないと、駅がなく脱線してしまう。だから、時間稼ぎをするのが私の役目。

 それが、『表の心理図書館』。私の二つ名。

「そうです、そして、その行動にもトリックがあります。一昨日、りんごに何か仕掛けを施しました。それは、塩です」

 驚愕の答えを出された、由井以外のみんなは、驚きを隠せない。

「被害者に、十分な疑心暗鬼を持たせる事が可能なのが、塩です。塩味は神経を使う人に、よく効くフェイント攻撃なんです」

「証拠は?」

「話が終わってません、更に加えて、それをさせた後、自分がまず先に、食べる事は絶対にあり得ません」

「だから、証…」

 部屋のドアをドンっと開ける音がした。斉と、梶浦警部だ。


「証拠は、この野衾です」

「何、モモンガじゃない?しかも、死体…」

「証拠を言いましたね?」

 由井はハッとする。

「俺は、これを掘り続けるのに苦労しましたよ」

 俺が差し出したのは、枯れかけたりんごだった。

「これは、ヒ素がしっかり残っていました。そして、モモンガからもヒ素がありました。これは、本人が決して食べない証拠です。そして、何より…ムササビは交尾栓がありますが、モモンガにはありません!」

 そして、ほっとしたシズルが話を再開した。

「あとね、そうなった時、人間は一番の好物を食べてから死んで見たいと思う。それは、タバコにしたって同じこと。要するに、一番高価な葉巻を全て塗ればいいことなんですよ!」

…そう、このために、俺がいる。運動能力、証拠の決定的打撃。それをやるのが『裏の物証体育館』の俺の役目だ。

「1・2つ目の『ウラオモテ』は、『野衾』、『ヒ素』。これで、2つの『ウラオモテ』がでました。後の2つは、益恵ちゃんに関することです。

「アンジェリーナさん、あのことを…」

 益恵は、泣き出した。ただ、泣き出したのだ。

「なんで、癌が治らないっていったの?治せるなら治そう。それでダメなら延命しようよ」

「そう、3・4つ目の『ウラオモテ』は、『言葉』・『絶対に治らない』」

 そう、そして…。

「残る1つの前に彼は、『他殺』だったのでしょうか?『自殺』だったのでしょうか?」

 誰も答えられない。何故なら…。

「そう、両方だったから。そして、そのダイニングメッセージが、『言葉』・『野衾』だったから」

「それは、どういう…?」


「ここからは、俺が説明しましょう。この本を知っていますか?」

「そう。それはお父さんの本。そして、一番多く売れた本。『ムササビ夫婦のぼのぼの日和』」

「これが、5つ目の『ウラオモテ』なんです」

「それが、証拠?何よ、今更…」

「その証拠はこれだけでは証拠にもなりません、しかし、この写真をご覧ください」

 それは、両手が血豆だらけになっていた。特に右手は酷い。

「この写真とこの本、それは、『形のない』家族の絆を描く、立派な証拠なんです。そして、この本と、貴方たち家族がいたから、彼はまだ頑張れた。なのに、どうして、何ですか?由井さん!」


 そう、私は…。

「あの人と別れて2年。今まで貧乏生活のせいで子供を1度おろす事になった、私。そして、全てを失ったとき、私はあの人の復習ばかりを考えていた。その時よ、彼が売れ始めたのも。」

 少年少女を見つめ、あの頃を重ねる私、そうあの幸せのときを。

「なのに、なのに…、なんでお金の事は解決したじゃない。でも、何でこんなに悲しいのよー!」

 外が降りしきる雨の中、私は必死に叫んでいた。


 あの後、長女は独房で保護観察。次女は、孤児院で生活する事になったが、今回の件は異例中の異例と言う事もあり、1ヶ月に1回家族全員で過ごす判断が即許された。


「明日、月曜なのに休むのか…」

「ふふ、私は本が読めるからいいわ」

 彼女はクスリと笑う。

「あの1件、解決してよかったな」

「そうねぇ…、私の体で遊んでみる?」

 俺は、頬が熱くなる。

「しねぇよー」

 そう、だって…俺らはもう、『形のない』家族なんだから。

感想、できたらよろしくお願いします!

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