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恋愛に興味がない高嶺の花が告白される話  作者: 三年目のポイフル
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告白と常識と

 「好きだ。」

 そう八乙女が不意に言った。



 文字通り思ってもいない言葉に私は一瞬驚きを顔に露出させたが、 すぐさま表面上に落ち着きを取り戻した。


 (いきなり何を言い出すのよ、この男は。 好き、ですって? ばかばかしい。そもそも何故私はこの男の...)


 しかし八乙女の瞳は、からかい半分の軽薄さもなく、ただまっすぐに目の前に立ち尽くす私を映し出していた。




 ——人を好く、という感情が、私にはわからない。

 人を見ればまず疑いの目を向け、その本心を瞬時に見抜くことを常とする私にとって、人とは結局、その程度のものでしかなかった。


 私は人に興味がなく、人も私に興味がない。


 向上心の高さに恵まれていた私は、人というものを計るアビリティのその全てを、只管に高めていくことに人生を費やしてきた。

 その結果というべきか、私の容姿は、今現在の日本において優れているとされている基準値を既に凡そ網羅し、客観的にも美しいといって差支えの無いレベルまで達していた。


 男が女を性的な価値で測る際、容姿という要素がある程度のウェイトを占めることを私は知識として理解していたので、学校という閉じたコミュニティの中の男達が、私に対して幾分かの性的な興味を抱いていることは特段気に障らなかったし、いつものように至ってどうでもよかった。

 それに結局、告白というこの国特有の契約主義的な行為まで行ってくる男達も、私自身に対してはやはりおそらくに興味はなく、私のこの内面を知りてまでアプローチを続けてくるような真似はしなかった。



 八乙女千晴。


 今年度から同じクラスとして配属された、クラスメイトと呼べる男。


 私に対して敵意を持っている様子も、ありふれた分かり易い好意を持っているわけでもなかったこの男についても、私は平生通り興味を抱いたりはしなかった。

 おそらく何度か、会話と呼べるものをしたことがあったと思う。その程度だ。


 私は自らのこの性質を、協調性というアビリティのために隠蔽したりはしないようにしているので、勿論この男も、私が人間というものに心底興味がないということを理解している筈だ。

 その程度の理解力がないという分析でもなかった。


 つまりこの男は、私というものがこうも捻くれた、人外じみた人間であると知りながらも、

この真っすぐな瞳で「好き」という幼げな言葉を私に投げてきたということになる。


 この男、もしや馬鹿なのか?


 心理学と進化心理学を学んだ際の応用として、いつだったか性癖という概念についてリサーチを行ったことがある。


 なるほど。こいつはいわゆる「ドM」という人種の人間なのか。


 こんな阿呆な人間がこの世に存在するのかと、それを初めて知った時には酷くショックを受けたものだが、なんと実際に、というかこんなにも身近に君臨していたらしい。


 ふむ。なるほど面白い。


 このいわゆる「特殊性癖」とやらをこんなにも純潔な(まなこ)で他人に訴えかけることができるとは。

 なんという演技力だろうか。やはり「ドM」という人種は、そこら辺の男という生き物とは一線を画すのかもしれない。やはり悲しいことにこの男自体には微塵の興味も湧かないが、この人種、私がまだ理解を施していない特色が残されているのかもしれない。

 


 「やおとめちはるだっけ、貴方。」


 十数秒の沈黙が破られ、彼はもう一度息を止めた。



 「いいわ、少し話をしましょう。」

 

 秒針が12を回った。

つづく

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