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太閤殿下の毛利征伐①


 わしの名前は豊臣秀吉。偉大な天下人であり、世の人物の尊敬を集めてやまないわしは、天下無双の名城大阪城の天守にいた。

 一介の農民の家に生まれながら、いまやこの国の実質頂点とも言える出世を遂げたわしは、まさしく天に愛され、そして豪運の持ち主だと言えるだろう。


 だが、そんな順風満帆であるわしは、ある一つの理由によって苛立ちを隠せないでいた。


「おい寧々はまだ見つからんのか? どうなっておるんじゃ!」


「は、はい太閤殿下。城内のいたるところを探したのですが見つからず。大奥にも帰っていないとのことでして、しばしお時間をいただきたく……」


「えーい。くそっ! せっかく今夜はお楽しみと思っておったのに!」


 その時であった。部下の石田三成が何やら手に持って現れたのだ。


「ひ、秀吉様。このような(ふみ)が寧々様の部屋に置いてあったとのことです!」


「なにーっ! おい、三成。わしに見せてみよ」


「は、はい。どうぞ秀吉様」


 わしは三成の手から文をひったくって読んだ。

 うーむこれは確かに寧々の書いた文字ぞ。


 なになに……『拝啓、秀吉様。実家に帰らせてもらう候』……

 うーむ駄目じゃ。達筆すぎて碌に読めん! なんじゃ実家って?


「駄目じゃ。なんと書いてあるかわからん! こんなものいらんぞ!」


 ビリビリビリ……!

 腹が立ったわしはその場で文をバラバラに破いて捨てたのだった。


「あの秀吉様。これだけ探していないとなると、もしや寧々様は城外に行かれたのでは?」


「なにっ!? 何故だ。そんなことがあるか?」


「え、ええ。可能性は低いかと存じますが」


「ちっ……ならば各関所に伝えよ。厳重に道を見張り、寧々を見つけたらこちらに連れてくるようにな!」


「ははっ! 至急手配いたします」


 せっかく役立たずの弥助を追い出していい気分だったのに、寧々までどこかに行ってしまうとは。いったいどうなっているのか。

 まさか何か関係が? いやそんなことはないだろう。あらゆる武士たちの頂点に立つこのわしに、寧々が心の底から惚れておるのは紛れもない事実なのであるから。


「秀吉様、失礼いたしまする」


「む、なんじゃ勝家か。わしは今忙しいんじゃが?」


「ははっ……これは失礼をば。しかし、かねてより準備しておりました毛利攻めの準備が整いましたゆえ、急ぎ報告に参った次第でござる」


「おお……毛利攻めの軍勢が揃ったか。それはよき知らせじゃのう」


「はい。太閤様の一声で、すぐに三十万の大軍が出撃可能でござる。いまこそあの毛利めに、力の差を教えてやる機会かと」


「ぐへへ、それはいい。敵方の三倍の戦力か。あの生意気な毛利にも、そろそろ引導を渡してやらんといかんからな」


「おっしゃる通りでござる。奴らの絶望する顔が目に浮かぶようです」


「ははは! よし決めたぞ。今度の毛利攻めはわし自ら指揮を取ろう!」


「な、なんと! 秀吉様自らですか!? これは虎が翼を得たようなもの。毛利方には万に一つの勝ちもございませぬな」


「はっはっは!! 毛利など腐った木戸のようなものよ。この秀吉が一息に蹴破ってやるわ!」


 わしの天下に口をはさんでくるうるさい毛利を黙らせれば、豊臣もますます盤石となろう。

 そうなれば寧々もわしの元に自分から戻ってきて、さらに惚れ直すに違いないのだ。


「出撃じゃ! 法螺貝を鳴らせ!」


 畿内すべてを掌握しているわしにかかれば動員できる兵力は他の大名とは比較にならん。

 数日のうちに街道を埋め尽くすほどの軍勢がわしの元に参集した。

 地面を揺るがして進むかつてない規模の攻撃軍に毛利の滅亡を確信したわしは、すっかり気を良くし、高らかに笑うのであった。



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