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黒き侍の覚醒


 ロサンゼルスで平凡な日々を送っていた前世の俺。

 だがその平穏はある日急に破られた。


「マフィアの抗争だ!!」


「きゃあああああっ助けてえ!」


 ある日、街中でマフィアたちの銃撃戦に巻き込まれた俺は、その場に居合わせた少女を庇い、背に銃弾を受けて死んだ。

 だがあの時確かに死んだはずの俺の魂はなぜか消えることなく、違う時代の違う場所、戦国時代の日本の一人の侍の肉体と再結合し生まれ変わったのだ。


 生まれ変わった俺の名前は『弥助』。

 少しでも歴史を勉強したことがある人なら誰でもその名前を聞いたことがあるだろう。


 数々の伝説を残した、戦国時代最強と呼ばれる無敵の侍――弥助。

 伝説の黒き侍のことはアメリカでもあまりにも有名だ。

 だれでも憧れるヒーローを聞かれたらその名前を上げるんじゃないかな?


 とにかくそんなすごい侍に生まれ変わった俺は驚いた。どうして俺が弥助に転生したのかはわからない。けどもしかしたら、何か重要な意味があるんじゃないかって思うんだ。


 いきなり秀吉に追い出されてしまったけど、まずは今できることをしないとな。

 信長様が死んだのはとても残念だ。俺が弥助として、必ず黒幕を見つけて仇を討つんだ。


―――

――


「弥助様? どうかされましたか」


「はっ!? せ、拙者は……ここは……」


「ふぅ。急に意識をなくされたので心配しました。どこかお加減が?」


 目の前の美しい顔のお方が心配そうに拙者を見ておった。

 過去を思い出したことで、拙者はしばし気を失っていたようだ。ねね殿に心配をかけてしまったな。


「すまぬ、ねね殿。もう大丈夫でござる。少し、拙者の生まれ故郷のことを思い出しておったのだ」


「まあ、弥助様の故郷ですか。いったいどのような場所なのです?」


「うむ拙者の故郷は遥か海の向こうでな。そこはなんというか、自由を大事にする国であったよ」


「そうでしたか。弥助様の故郷、きっと素晴らしい場所なのでしょうね」


「はは。まあ、もう帰ることはかなわぬと思うがな。懐かしいと、ふと思っておったのだ」


 まさか未来からやってきたなどといっても信じてもらえまい。

 だが今の拙者の居場所は、信長様に託されたこの日ノ本だと、俺の中の弥助の魂が言っているような気がした。


「あの、弥助様はこれからどうされますか? あの秀吉が言ったことを素直に聞くこともないかと思いますが」


「うむ。それなのだが……」


 これから行動を共にするなら、ねね殿に拙者の目的について話しておかねばなるまい。

 拙者は意を決し、信長様から託された使命についてねね殿に話すことにした。それを聞いたねね殿はとても驚いた様子であった。


「……なんと信長様がそのような事を弥助様に。信長様を裏切った別の黒幕がいると申されたのですか?」


「ああ。信長様は、この事件を引き起こした存在が別にいると、そう申されていた」


「そうでしたか……私は今まであの事件の首謀者は明智光秀と思っていました。ですが信長様は何事にも深い知見をお持ちだった方。確かに改めて考えると、明智光秀の裏切りはあまりにも突然だったと思います。まるで事件を起こしたのが彼だけの意志ではなかったかのようです」


「やはりねね殿もそう思われるか。うーむ、秀吉殿はなにか知っている風ではなかったか? 光秀を討ったのはあの方だ。事件の真相に迫っていたりなどは……?」


「いえ、残念ながら。事件が起きたとき彼とは離れた場所におりましたので、私は何も。ですが……あの方、秀吉様について前から気になっていることはございます」


「気になっていること?」


「ええ。あの、驚かないで聞いてくださいね。実は秀吉様は昔はあのような冷酷な方ではなかったのです」


「な、なんと……それはまことか」


「ええ。昔のあの方は陽気で明るく朗らかな方でした。信長様への忠義も厚く、主の脱いだ草履を自分の懐に入れて温めておくようなこともしていたのです」


「おお……見上げた忠臣ぶりよ。今のあの方からは想像もできん」


「ですよね。秀吉様はいつの頃からか、暗く、そして冷酷な性格に変わってしまいました。もう私の言葉もほとんど届きません。ですが……なぜそうなってしまったのか。妻である私にもまったくわからないのです」


「そうであったか。すまぬねね殿、辛いことを思い出させてしまったな」


「うふ。いいのです。あの方とはもう終わった事ですから。今の私は弥助様と共にいられれば何も悲しくなんかありません」


「ふう。ねね殿は気丈な方だ。だがねね殿の悲しむ顔は見たくない。困ったことがあれば拙者がいつでも力になろうぞ」


「はい。ありがとうございます、弥助様。あの……ねねは弥助様に一つお願いが」


「む、どうされた?」


「私のことはねね殿などと申さず、ただ寧々(ねね)と、名前で呼んで欲しいのです」


「うーむそんなことでよいのか? では寧々、拙者と共に来てくれるか?」


「はい。弥助様どこまでも喜んでお供いたしますわ」


 ぎゅっ……

 寧々はそう言うと途端に笑顔をとりもどし、拙者に抱きついてくるのであった。

 柔らかな感覚。艶やかな黒髪が揺れ、女人のいい匂いがした。


「やれやれ……なんだか夫婦(めおと)のようであるなぁ」


「うふっ……寧々はいつも弥助様とそうありたいと思っておりました」


「ん? 寧々、今なにか申したか?」


「いえ、何も。寧々は今幸せでございます」


「はは。こらこら、寧々。そんなにくっつかれては歩きづらいぞ」


 見上げると、雨上がりの空に、いつしか大きな虹がかかっておった。

 大阪城を追われたときは深く沈んでいた心が、この青空のように晴れ渡ったような気分だった。


 信長様の仇を討つため、今はまだ何も手がかりはない。だが必ずやり遂げてみせると、そう心に誓い、拙者と寧々は同じ道を行くのであった。




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