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不可視の刃


 ――里を襲ったのは甲賀の抜け忍、樫満爪長だった。

 私は奴の術に捕まり、その恐ろしい計画は現実のものとなりつつあった。



「お凛よ、今より俺とお前は夫婦(めおと)となるのだ。里長の血を引くお前ならば器として申し分ない。これからたっぷりと働いてもらうぞ? あのお方に仕える、優秀な忍びを増やさねばならんからな」


「くっ……誰がそんな忌々しいことをするものか。樫満……貴様、いったい誰の差し金で動いている。中立不可侵の掟を破り、こんな真似をするなんて」


「ははは! 俺は前からあるお方に仕えていてね。名は明かせんが、俺はそのお方を『猿』と呼んでいる。猿殿はお望みなのさ、都合の悪い相手を抹殺したり、恐怖によって民を支配する……そんな強い力を持った忍者たちをな。これから伊賀の里は生まれ変わるのだ。力と恐怖によってこの日ノ本を裏から支配する、そんな闇の勢力にな。どうだお凛、光栄なことだろう?」


「こ、この外道が……狂ってる……」


「さて……娘も手に入ったし、あの男はもう不要だな。おい、お前ら半蔵を殺せ。その崖から突き落としてしまえ」


「なっ……!? 話が違うぞ。私が一人で来れば父上には手をださないと手紙に!」


「ぐははっ! 約束? 何のことだったかな? すまんがまったく記憶にないぞ」


「こ、この卑怯者」


 縛られた傷だらけの父上は奴の手下に引きずられ、今まさに崖から落とされようとしていた。あそこから落ちれば万に一つも助からないだろう。

 私はなにもできないのか。父上が殺され、里が乗っ取られるのを黙って見ているしかないのか。


 ――私が己の無力に絶望し、すべてをあきらめかけたその時だった。



「やれやれ呆れた奴らだ。お前たち約束を破るのか?」


 突然、山の中に響く男の声が聞こえて来たんだ。

 だが、驚いてまわりを見渡してみても声の主は見当たらない。そしてそれは奴らも同じらしかった。


「な、なんだこの声は!? どこから聞こえてくるのだ!」


「ならばこちらも守る必要はないようだな!」


 ――ザン!!


「!? ぐわあああああ!」


 突如、絶叫があがった。父上を殺そうとした手下が悲鳴をあげると赤い血しぶきが上がり、ばたりとその場に倒れたんだ。いきなりのことにその場の全員が目を見開いた。


「な、なんだ。半蔵の奴がなにかしたのか!? ええい、お前たち全員で半蔵を殺せ!」


「へい、樫満様。やれ、あの死にぞこないを殺せ!」


「うおおおーーっ! 死ね半蔵!」


 樫満の手下たちが手負いの父上に迫る。刀を抜き放ち、殺気立って押し寄せる抜け忍たち。だが、次の瞬間驚くべきことが起きたんだ。


「遅すぎる。はああっーー!!」


 ザン! ズバァ! ズシャアア!!


「「ぐわあああああ!!!?」」


 忍びたちはいきなり血を吹き出すとその場に倒れて動かなくなった。明らかに全員が即死していた。まるで見えない刃に切り裂かれているようだった。


 どうなっているんだ……目の前で何が起きてる!?

 樫満はさきほどまでの余裕が吹き飛び、あきらかに混乱していた。


「ば、馬鹿な。手下たちがひとりでに倒されていく!? なにが起こっているのだ」


「樫満様、まさかこの森に住むという大天狗の仕業では……」


「嘘だ……大天狗などただの伝説に過ぎん。そんな奴がいるわけが……」


「し、しかし、それ以外に考えようが……ぐ、ぐわあああああ!?」


 ドサ……


 最後に残った部下も風のような刃に切り裂かれその場に倒れてしまった。

 その血をあびた樫満は恐怖に顔をひきつらせ、やぶれかぶれになって叫んだ。


「ひ、卑怯だぞ……! 隠れていないで姿をあらわせ。貴様、何者だ!」


「フン、呆れた奴。この程度の術も見破れないのか?」


「な、なに!?」


「探さずとも、俺はお前の目の前にいるぞ」


 スウウーー


 霧が晴れるように、樫満の前に一人の男が現れた。

 それは甲冑をまとった侍だった。その姿に私は見覚えがあったんだ。


「……弥助、来てくれたのか」


「お凛、泣いているのか? 『雲隠れの術』少し真似させてもらったぞ」


 いつの間にか私を縛っていた術は解かれ、自由に動けるようになっていた。


 刺すような鋭い眼光。黒い侍が腰の刀を抜き放ち、静かに構える。

 一目で名刀とわかるそれが月の光を受けて輝き、夜の闇を裂いた。


 向かい合う二人の男の、圧倒的な力の差は歴然だった。



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