恐るべき刺客
「はあ……はあ。父上、待っていてくれ」
私の名前はお凛。伊賀のくノ一である私は、さらわれた父を救うため夜の森を一人急いでいた。指定された場所はあそこか? 切り立った崖の上に木の生えていない開けた空間があった。
「ここが指定の場所のハズ。父上は……」
あたりを見渡す私。時間には間に合ったはず。すると背後の空間から男の笑い声が聞こえたんだ。
「よく来たなお凛。待っていたぞ」
「……! 父上をさらったのはお前だな? いったい何者だ!」
「ふむ……俺は甲賀の里の抜け忍、樫満爪長。どうやら一人で来たようだな。感心感心」
「なにっ!? が、樫満だと……」
あらわれた男の名を聞いて私は戦慄した。樫満爪長――甲賀の里でも首領の猿飛佐助に迫るほどの実力を持つという上忍だ。だがあまりにも素行が悪すぎて里を追放されたって聞いていたけど……
「お凛よ、お前の父に会わせてやろう。おい、お前ら。半蔵の奴を連れてこい」
「へいお頭。おい半蔵、娘と感動の再会だぞ」
奴の手下に引かれあらわれたのは傷だらけの父上だった。
あちこちから血を流しボロボロの姿だったんだ……
「う、ううっ……お凛、来てはならぬ。これは奴の罠だ」
「くっ……貴様、父上になんということを!」
「フン。伊賀の首領も存外大したことないものだな。我が樫満流鉄爪術の前には赤子も同然だったぞ?」
「くっ! 伊賀の忍びを舐めるなよ。私が相手だ。やああっーー!!」
私は背の刀を抜き、一気に間合いを詰めて切りかかった。だが相手はその場を微動だにせず、不気味に笑っていた。私が違和感を感じたときにはすでに手遅れだった……
「かかったな。忍術発動『金縛りの術』!」
「なっ……!? か、からだが……」
「ククッ……動けまい。もはやお前はなすがままよ。さあどう料理してやろうか」
これは糸か? しまった、事前に罠が張られているなんて……
私が手足に力を込めてもまったく動くことができなかった。
これが上忍の術なのか? まったく気づかなかった……
鉄の爪をギラリと光らせ樫満が迫ってくる。なんて奴だ、父上がやられるくらいなんだ。もともと私の手に負える奴じゃなかった。私は恐怖に震えそうになりながら、なんとか声をしぼりだした。
「なにが目的だ? こんなこと普通じゃない。どんな理由があってこんなことを……」
「ははは。お凛よ、怯えているな? まあ安心しろ。別にお前を殺したりはしない」
「くっ……侮るなよ。だれが貴様などに怯えたりするものか」
「強がっても無駄だ。それっ……!」
「きゃっ!?」
樫満の手が伸び、私の面頬をはぎ取った。
そして奴は下卑た顔で私を見つめ、舌なめずりをするのだった。奴の生暖かい吐息が近く感じられたが、四肢は縛られ、動くこともできない。
「思ったとおり素晴らしい器量だ。我が子種を仕込むのにふさわしい」
「な、子種だと!? 貴様、何を言って」
「くく、まるで生娘だな。おもしろい気に入ったぞ。褒美に俺の計画を教えてやろう」
「計画……だと?」
「そうだ。甲賀の当主、佐助の野郎は、いまだに俺が当主にふさわしいと認めようとしない。だからな、代わりにいただくことにしたのさ。お前らの伊賀の里をな!」
「なん……だと……」
私はおもわず戦慄する。
樫満の口から語られたのは恐ろしい計画だった……!
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