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伊賀の里燃ゆ


 伊賀の山も随分と高くまで登ってきた。伊賀の里も近いらしい。


「それにしても弥助の身のこなしは本当にすごいね。あたしの雲隠れの術も簡単に見破るし、まるで大天狗様のようだよ」


「ほお、誰だその大天狗というのは?」


「大天狗様はすべての忍術を編み出したという伝説の忍者なんだ。あたしら伊賀の里に住む者の共通の先祖でもある。大天狗様の伝説はもう何百年も昔から語り継がれているけど、今でも深い山の奥で生きているって話だよ」


「なんと、その者は不死身か。それはすごいな」


「ははっ里の皆のあこがれなのさ。大天狗様がいてくれれば、甲賀の連中もおとなしくなるんだけどね。……さて、そろそろ私たちの里があるんだ。よかったら寄って行ってくれよ。お茶くらい出すからさ」


「それはありがたい。ずいぶんと駆けてきたからな。ぜひいただこう」


「父上にも会ってやってくれ。弥助のようなすごい侍がいるって知ったらきっと驚くだろうから」


「ああ、そうだな。……む?」


 その時だった。何かが燃えるような匂いがかすかに流れてくるのに気付いた。空を見上げるといくつもの煙が上がっているのが見えた。煮炊きの煙ではない……あれは……


「なあお凛、伊賀の里というのはあちらの方角か?」


「そうだけど……どうしてわかるんだ」


「嫌な予感がする。急いだほうがいいかもしれん」


「えっ……」


 お凛は最近甲賀の里の様子がおかしいと言っていた。まさか……

 拙者たちは急ぎ、道を進んだ。嫌な匂いは濃くなっていく。何かが燃えるパチパチといった音が聞こえてきた。


「こ、これは……里が、あたしらの家が燃えてる!?」


「おお……なんということだ」


 ボオオオオオ!

 伊賀の里はあちこちで火を噴きあげて炎上していた。建物が壊れ、怪我した人も大勢いるようだった。


「どうしちまったっていうんだい。誰がこんなことを……」


 やってきた我らに気づき里の者が顔を出した。彼は全身傷だらけで頭から血を流していた。


「お凛。無事だったか……ぐうっ!?」


「酷い傷だ。いったい誰にやられた!?」


「甲賀の奴らが急に襲ってきて里を……里長が、半蔵殿が危ない。お凛、急いでくれ……」


「父上が!? くっ……」


 駆け出していくお凛。拙者も後を追った。村の奥、ひと際大きな屋敷が激しく炎を上げていた。


「屋敷が……父上、無事か!? どこにおられる!」


 必死に叫ぶお凛。燃え盛る屋敷から一人の少年が這い出てきた。


「姉上。無事でしたか……」


「太郎佐!? 大丈夫か」


「ゴホッゴホッ。僕は……なんとか。ですがすみません、父上をお守りすることができませんでした」


「……!?」


「甲賀の奴らがいきなり襲ってきて……父上も戦ったのですが多勢に無勢。奴らに連れ去られてしまいました」


「そんな……父上が……」


「この手紙を姉上に渡すようにと言われました。すみません、何も……お役に立てず……ぐふっ」


「太郎佐……太郎佐……!?」


「落ち着けお凛。どうやら気を失っているようだ」


「そ、そうか……すまない取り乱して」


「まさか甲賀の連中がここまでやるとは。怪我をした者を焼け残った家に運ぼう。手当をせねばならん。寧々、手伝ってもらえるか?」


「ええ、もちろんです」


 拙者は倒れた太郎佐を抱え上げた。お凛は渡された手紙を広げ読んでいた。

 その中身が後ろからちらりと見えたのだ。そこにはこのように書かれていた。


『お凛よ、お前の父、服部半蔵は預かった。返してほしければ指定の場所に一人でこい。遅れれば奴の命はないものと思え』


「父上……」


 手紙を読む彼女の表情は見えなかったが、その背中は小さく震えていた。

 甲賀の連中、まさかここまでするとは。……これは仕置きが必要なようでござるな。


―――

――


 燃えていた里の家々の火消しをして、怪我をしたものたちの手当てが済んだ頃にはすっかり日も落ちていた。焼け残った家に布団を敷いて皆を寝かせ、ようやくひと段落がついた。


「それにしても助かった。寧々がここまで手際が良いとはな」


「私も皆さまの助けになればと思いまして。お役に立てたならよかったです」


「ああ、かたじけのうござる」


「お凛さん、大丈夫でしょうか……一人になりたいとおっしゃっていましたが」


「うむ。そうだな……」


 あの手紙……お凛はおそらく……

 拙者は立ち上がり、寧々に言った。


「寧々、少し出かけてくる。ここで待っていてくれ」


「弥助様、いったいどこへ……」


「なに、少し厠に行ってくるだけだ。すぐに帰るでござるよ」


「わかりました。どうぞお気をつけて、ご武運を」


「やれやれ……隠し事はできぬな」


 拙者はお凛の足跡を追って夜の闇の中を急ぐのだった。




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