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くノ一お凛


 伊賀の山にて我らをつけていたのはくノ一の少女であった。

 彼女はこちらを睨み、背の剣を抜き放つ。


「あんたたち何者だ? 私の『雲隠れの術』を見破るとは。それにその身のこなし、ただ者じゃない。まさか……甲賀の手の者か?」


 どうやら誤解されてしまっているようだな。

 彼女の警戒を解くべく、拙者は両手を上にあげていった。


「オゥ……ソーリー。拙者の名は弥助。家を追い出された浪人でござる。この山に入ったのは、山の向こうへ抜けたかっただけなのだ」


「なに……浪人だと? 嘘を言うな。お前のような尋常の身のこなしの侍がいるものか!」


 ヒュンヒュン!!


 漆黒の暗器が二つ、彼女の手から放たれ横をかすめて行った。それは当たることなく抜けていき、背後の木へ突き立ったのだ。


「ふーむ、手裏剣の類か? いい腕をしているな」


「ば、馬鹿な……なぜ避けなかった!?」


「軌道から見て当てる気がないのはわかっていたからな。それに殺気も感じられなかった」


「そんな。一瞬で見切るなんて……これじゃとても勝ち目がない」


「なあ、本当に我らは敵ではないのだ。勝手に山に入ったのはすまなかった。だがその甲賀というのも無関係だ。どうか信じてもらえぬか?」


「くっ……そんなこと言われても」


 黒髪の少女はどうすればいいかわからず困惑しているようだった。どうにか彼女の誤解を解かねばな。拙者は腰に差した愛刀を外し、前に差し出した。


「これは拙者の大事な刀だが、敵意が無い証に、山を抜けるまでは預けよう。これでどうでござるか?」


「その刀……どうやら本物の侍のようだね。わかったよ、あんたを信じようじゃないか」


「おお、ありがたい」


「その刀も不要さ。あんたが持っておきな。どのみちあんたがその気なら、あたしじゃ敵いそうにないしね」


「いや、誓ってそんなことはせぬぞ。だがかたじけない、亡き主君より預かった大事な刀なのだ」


「あんたの主君、死んじまったのか? いったい……」


「我が主君は織田信長公でござる。ある事情があってこのお方(寧々)を守り、三河へ行くところだったのだ」


「信長公……噂には聞いてるよ。大変な名君だったってね。そうか、弥助は信長様の侍だったのか。これは悪いことをしてしまったね」


「いや、いきなり山に入ったのはこちらだからな。驚かせてすまなかった。なあお主、名はなんというのだ?」


「あたしは伊賀の里のくノ一、お凛っていうんだ。疑ってしまったお詫びに山を案内するよ」


「かたじけない。恩に着るぞお凛」


「いいってことさ。……なあ、そっちの女性は? 滅茶苦茶綺麗な人だけど」


「はじめましてお凛さん。私、寧々と申します。弥助様には無理を言って旅に同行させていただいています」


「へえ、寧々っていうのか。そういえば秀吉公の奥さんもそんな名前だったね。不思議な偶然もあるもんだなぁ」


「は、はは……そうでござるね」


 お凛の厚意で拙者たちは山を案内してもらえることになった。

 木々の間を素早い動きで抜けていく彼女の背を追った。


「それにしても先ほどの姿を消した術、あれはなんというのだ?」


「ああ、あれかい? あれは雲隠れの術っていうんだ。気配を消し、風景に同化する忍びの技さ。私の父上から受け継いだ秘伝の忍術なんだ」


「ほお、父上から」


「あたしの父は服部半蔵っていうんだ。父上は伊賀の里の長でみんなのまとめ役をやってる。あたしもいつか父上みたいな立派な忍びになりたいって修行中なのさ」


「そうであったか。お凛は若いのに筋が良い。きっと大成すると思うぞ」


「そうかなぁ。なんだか照れるね」


「しかし甲賀の者がどうとか言っていたが、もしやなにかあったのか?」


「あ、ああ……そうなんだ。実は……」


 お凛は戸惑いながら彼女の里のことについて話し始めた。どうやらお凛の住む伊賀の里は、最近甲賀の里の忍びたちと不穏な関係にあるらしいのだった。


「伊賀の里と甲賀の里は、長い間、中立不可侵の掟があったんだ。でも最近、甲賀の里でなにやら不穏な動きがあってね。あたしら伊賀の忍びが任務中、謎の敵に襲われるようなこともあった。もしかしたら……」


「それが甲賀の忍びであったと……」


「ああ。だから弥助たちを見たとき、奴らの手先なんじゃないかって思ってね。つい警戒しちまったってわけさ」


「なるほど。それはやむ負えぬことだ」


「すまなかったね。おっとここから先は大きな裂け目があるんだ。ちょっと迂回するよ」


「なに、その必要はないさ。とうっ……!」


 拙者は寧々を抱えたまま大きく跳躍した。ふむ……これぐらいの幅なら飛び越えてしまったほうがよいだろう。振り返ってみるとお凛は驚きの表情で目を丸くしていた。


「ええっ!? 人を一人抱えたままこんなに飛べるのかい? 弥助、あんた一体……」


「おや、どうしたお凛。拙者、なにかやってしまったか? そちらに縄を渡そう。これで渡ってくるとよい」


「わかったよ。しかし父上でもこんな飛べないぞ。どうなっているんだ……」



 お凛の案内で山越えは順調だ。もうすぐ彼女の住む伊賀の里が近いようだった。

 だがこの時はまだ予想していなかった。彼女の里に起きていることを……



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